コラム
2023年12月18日

数字の「1260」と「1729」について-これらの数字にどんな意味があるのだろう-

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はじめに

数字の「1260」や「1729」と聞いて、多くの皆さんは、こんな半端な数字にどんな意味があるのだろうと思われるだろう。

今回は、これらの数字について、その持っている意味合いを紹介する。

数字の「1260」は最小のヴァンパイア数

数字の「1260」は最小のヴァンパイア数である。こう言われても、ヴァンパイア数とは何だということになる。「ヴァンパイア数(vampire number」というのは、「偶数桁の自然数で、その数に使われている数字を2等分(必ずしも真ん中で2つに分けるわけではない)し、それを並べ替えてできた2つの数字を掛け合わせた時、元の数となるような組み合わせが存在する数」をいう。掛け合わせる2つの数字を「牙」(fang)と呼んでいる。

具体的には、「1260」については、1、2、6、0の4つの数字が使われており、それを並べかえて作った数字21と60を掛け合わせると1260になるので、1260はヴァンパイア数ということになる。

なぜ、ヴァンパイア数と呼ばれるのか。ヴァンパイアというのは「吸血鬼」のことであり、皆さんもご承知のように、吸血する際には、長い牙が出てきて、これで人の血を吸う。ということで、「牙」という言葉に由来しているから、ということになる。それでは何故2つの数字を「牙」と呼んだのだということになるのだが、これについてはあまり明確でない。結局は、これを最初に提唱した米国のコラムニストであるクリフォード・アラン・ピックオーバー(Clifford Alan Pickover)氏のアイデアで、興味深そうなネーミングがなされたことによるものであると思われる。彼は数学の分野でその他の興味深い用語を生み出している。

なお、両方の「牙」の末尾が0である数は、ヴァンパイア数には含まれない。例えば126000は210×600という「牙」を持つが、ヴァンパイア数ではない。これはこのようなヴァンパイア数を認めてしまうと類似のヴァンパイア数が無限に存在することになり、面白くないからだ。

それでも実は、ヴァンパイア数は無限に存在する。というのも、数字の「1530」を考えると、これは以下のようにヴァンパイア数となる。

1530=30×51

ここで、途中に0を入れることで無限に新しいヴァンパイア数を作ることができる(これは、片方の「牙」の末尾が0になっているが、両方の「牙」の末尾が0ということではないので、ヴァンパイア数となる)。

150300=300×501、1500300=3000×5001 ・・・

複数の牙を有するヴァンパイア数も存在する。例えば、以下のような具合である。

2つ:125460 = 204×615 = 246×510
3つ:13078260 = 1620×8073 = 1863×7020 = 2070×6318
4つ:16758243290880 = 1982736×8452080 = 2123856×7890480
= 2751840×6089832 = 2817360×5948208

2つの牙が共に素数のヴァンパイア数である「素ヴァンパイア数」も存在する。例えば、以下のような具合である。

117067=167×701

さらには、牙自身もヴァンパイア数となる「二重ヴァンパイア数」が存在し、その最小の数は以下の通りとなっている。

1047527295416280 = 25198740 × 41570622 = (2940 × 8571) × (5601 × 7422)

なお、ヴァンパイア数は、「フリードマン数(Friedman number」と呼ばれるものでもある。フリードマン数というのは、その数に使われている数字を全て用いて、(1)四則演算、(2)累乗、(3)複数個の数字を合わせて2桁以上の数にする、という3つの方法のうち少なくとも1つを用いて数式を作ることで元の数に一致させられる数のことをいう。 

具体的には、以下のような具合である。

25 = 52 、121 = 112 、125 = 51+2

パズル等でも出されることがあるので、お馴染みの方もおられると思われる。

さて、ヴァンパイア数は、どのように社会に役立っているのだろうか。これについては、これといった利用法があるわけではないようだ。その意味では、あくまでも娯楽的な意味合いの数字だといえるだろう。

因みに、ヴァンパイア(Vampire)という言葉は、地中海の言語に由来しており、血を意味している「vam」と怪物を意味する「pir」で構成されているようだ。
 

数字の「1260」は、高度合成数である

高度合成数」というのは、その数未満のどの自然数よりも約数の個数が多い数、のことをいう。これまでも紹介してきた数字の中でも、「4」、「6」、「12」、「24」、さらには「60」、「180」、「360」といった数字が、高度合成数になっている。これらの数字の説明において、これらの数字が多くの場面で使用されるのは、約数が多いことがその大きな理由として挙げられる、ということを説明してきた。まさにこれらの数は、それぞれの約数の個数を有する数の中で最小の数字となっている。

数字の「1260」も、以下の36個の約数を有する最小の数字となっており、16番目の高度合成数になっている。

1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 9, 10, 12, 14, 15, 18, 20, 21, 28, 30, 35, 36, 42, 45, 60, 63, 70, 84, 90, 105, 126, 140, 180, 210, 252, 315, 420, 630, 1260

数字の「1729」はタクシー数

数字の「1729」はタクシー数とよばれるものである。「タクシー数(taxicab number」というのは、「2つの正の整数の立方数の和として n通りに表される最小の正の整数」と定義され、このような数をTa(n)で表す。

全てのnに対して、Ta(n)が存在することが証明されている。ただし、「2つの立方数の和として n 通りに表される正の整数」を見つけることはできるが、それが最小の数であるかは保証されていないため、Ta(n)であるとは限らないことになる。

「タクシー数」と言う名前は、英国の数学者であるゴッドフレイ・ハロルド・ハーディが乗ったタクシーの番号1729について、それがTa(2)であることをシュリニヴァーサ・ラマヌジャンが指摘したエピソードから来ている。その意味で、1729については「ハーディ・ラマヌジャン数」としても知られている。なお、このエピソードについては、以前の研究員の眼「天才数学者ラマヌジャン-「奇蹟がくれた数式」を観て-」(2017.3.21)でも紹介した。

即ち、1729は、以下のように表現できる。

1729=123(12×12×12)+13(1×1×1)=103(10×10×10)+93(9×9×9)

1から1728までの数字は、このような形で表すことはできない。

因みに、これまでにn=6までのタクシー数が確認されている。例えば、Ta(3)とTa(4)は、以下の通りとなっている。

Ta(3)=87539319=1673+4363=2283+4233=2553+4143
Ta(4)=6963472309248=24213+190833=54363+149483
=102003+180723 =133223+166303

Ta(5)とTa(6)も特定されている。

ただし、例えばn=7~12の場合、「2つの立方数の和として n通りに表される正の整数」が存在していることは確認されているが、それが最小であるかどうかは確認されていないので、Ta(n)(n≧7)は特定されていない。

このタクシー数についても、どのように社会に役立っているのだろうか。これについても、これといった利用法があるわけではないようだ。ただし、ヴァンパイア数とは異なって、以前から著名な数学者等によっても、各種の数学的な分析も行われてきている。現在も、Ta(n)(n≧7)は特定されていないことから、その特定に向けた研究等も、コンピューターを駆使したりして、行われてきているようだ。

なお、「キャブタクシー数(cabtaxi number」という概念もあり、こちらは「2つの立方数の和としてn通りに表される最小の正の整数」と定義され、Cabtaxi(n)で表される。ここでの立方数は(タクシー数とは異なり)正だけでなく負の整数も取りうる形になっている1。このため、

Cabtaxi(2)=91=33+43=63-53
Cabtaxi(3)=728=63+83=93-13=123-103
Cabtaxi(4)=2741256=1083+1143=1403-143=1683-1263=2073-1833

となっていて、当然のことながら、タクシー数とは異なるものになっている。

さらに、「一般化タクシー数(generalized taxicab number」という概念もあり、これは「k乗数の和j個でn通りに表される最小の正の整数」と定義され、Taxicab(k, j, n)で表される。この定義によれば、ハーディ・ラマヌジャン数として知られる1729は、Taxicab(3, 2, 2)と表されることになる。
 
1 なお、Cabtaxi(1)=1=13±03 だけは、0を含める形になっている。

最後に

今回は数字の「1260」や「1729」について、これらの数字の意味合いについて、報告してきた。

普通の人は殆ど気にしない数字であると思われるが、「ヴァンパイア数」やら「タクシー数」やら、といろいろな概念が作り出されてきている。娯楽的な要素も強いと思われるが、将来的にこれらの数字の概念等が何らかの場で活躍することになるかもしれないということで、そんなことも気にしながら、数字の世界を楽しんでみたらどうだろうか。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年12月18日「研究員の眼」)

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