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2023年12月15日
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(インフレ)
(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(質疑応答(趣旨))
- インフレ率は過去2か月間低下を続け、11月はユーロスタットの速報値で前年比2.4%となった
- この低下は広範囲に及ぶ
- エネルギーインフレはさらに下落、食料インフレもまた低下しているが総じて引き続き高い状況にある
- 今月はインフレ率がエネルギー価格のベース効果による押し上げのために上昇すると見られる
- 24年は、ベース効果によるさらなる押し上げと、エネルギーショックの影響を抑制するための財政措置の縮小によってインフレ率がよりゆるやかに低下すると見られる
- エネルギーと食料品を除くインフレ率は過去2か月でおよそ1%ポイント低下して、11月には3.6%となった
- これは、供給制約の改善、過去のエネルギーショックの影響の解消、金融引き締めの影響が需要や企業の価格決定力に作用したことを反映している
- 財とサービスのインフレ率はそれぞれ2.9%と4.0%とそれぞれ低下した
- すべての基調的なインフレ指標は10月に低下したが、主に生産性が低下するなかで賃金上昇率が高いため域内インフレの圧力は引き続き強い
- 長期のインフレ期待に関する多くの指標は、現在は2%付近にあり、市場観測のいくつかの指標は高い水準から低下している
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクは引き続き下方に傾いている
- 金融政策の効果が予想以上に強く生じれば成長率が低下する可能性がある
- 世界経済のさらなる低迷や世界貿易の更なる減速もまた成長率の重しになり得る
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争、および中東での悲劇的な紛争は地政学的リスクの主要要因である
- これは企業や家計の将来への景況感を低下させ、成長率がさらに鈍化するかもしれない
- 実質所得の上昇が予想以上に支出を増加させること、世界経済が予想以上に強く成長することが成長率を押し上げる可能性がある
- インフレ率の上方リスクには、地政学的緊張の高まりがエネルギー価格を短期的に上昇させること、天候要因が食料品価格を上昇させることが含まれる
- インフレ率はまた、期待インフレ率が我々の目標を上回ること、もしくは賃金や利益率が予想以上に上昇することでインフレ率を押し上げる可能性がある
- 対照的に、インフレ率は金融政策が予想以上に需要を低下させること、もしくは、最近高まっている地政学的なリスクを含めて予想外に世界経済が悪化することでインフレ率が低下する可能性がある
(金融・通貨環境)
- 市場金利は前回の会合以降に大幅に低下し、それはスタッフ見通しにも反映されている
- 我々の金融引き締めは引き続き、広範囲の資金調達環境に強く伝達されている
- 貸出金利は、10月に企業向け金利が5.3%に、住宅ローン金利が3.9%に再び上昇した
- 借入金利の上昇、借入需要の低下、貸出供給の厳格化を受けて、信用動向はさらに落ち込んでいる
- 企業向け貸出は10月に前年比で0.3%低下、家計向け貸出もまた前年比で0.6%の上昇となったが停滞している
- 貸出の停滞とユーロ圏のバランスシート縮小を受けて、M3で計測される広義の貨幣は縮小した
- 10月には前年比1.0%の減少となった
- 金融政策戦略に従い、理事会は金融政策と金融安定の相互関係について詳細に評価した
- ユーロ圏の銀行は強靭性を示している
- 資本比率は高く、これまで利益率を上昇させてきた
- しかし、金融安定性の見通しには、金融調達環境がタイト化し、成長が低迷し地政学的緊張が存在するなか、引き続きぜい弱性が残されている
- 特に、銀行の資金調達コストが予想以上に上昇し、多くの借り手が借入の返済を進めた場合、状況は悪化し得る
- 同時に、金融市場が秩序だった反応をすれば、経済に対する悪い影響は総じて抑制されるだろう
- マクロプルーデンス政策は引き続き、積みあがる金融のぜい弱性に対応するための最善の手段であり、また金融システムの強靭性の維持に寄与する手段である
(結論)
- (声明文冒頭に記載の利上げとPEPPの削減、金融政策スタンスへの再言及)
(質疑応答(趣旨))
- 将来の市場が予想する政策金利経路について、特にFRBは昨日、来年3回の潜在的な利下げがあることを示した。ECBはどう考えているか。
- 我々はデータに依存しており、時間に依存している訳ではない
- 我々はガードを下げるべきではない
- 理由の1点目は11月23日のカットオフ日における市場の予想政策金利経路を前提にしたインフレ見通し
- 2点目は基調的インフレ率のうち、域内インフレがほとんど動いておらず、その要因を理解することが必要となっている
- 賃金や企業の利益率が重要な要素だが、24年、特に前半には豊富なデータが得られる
- PEPPについて、PEPPの償還再投資の早期の停止は利下げの前提条件なのか、
- PEPPの決定については大多数のメンバーの合意があった
- 24年末の停止には全員が問題ないとし、何人かが、残高の開始をより早くあるいは遅くすることを好んだ
- これはバランスシートの正常化であり、実施するには良い時機である
- 分断化(fragmentation)はほとんど見られておらず、APPの残高縮小は市場が吸収している
- PEPPは背後で行われるものであり、PEPPで何があったとしても金利が主要な手段として独立して用いられる
- 昨晩、パウエルFRB議長は、利下げが視野に入っており議論の一部であると述べた。ECBにとっても同じか。誰かがある時点における利下げとそれをどのように行うかについて議論したか
- 利下げについてはまったく議論していない
- 2-3週間ほど前にあなたが述べたことについて。今後数四半期は政策金利を変更しないだろうと言った。今日もその見解を維持しているか、あるいはもはやその見解を維持しないようなデータの展開があったか
- 引き続きデータに依存し、会合毎に決定を行っていく
- 金利見通しについて。あなたは上半期に賃金やインフレ動向のデータが揃うと言及した。偶然にもその時期にPEPPの再投資が減速する。この頃は政策金利の見方を変更し、利下げが適切な時期かを判断するのに適切な時期であると考えているか
- 24年上半期に、特に雇用面での多くのデータを受け取るだろうことは事実である
- 我々の賃金トラッカーで補足されている雇用者の50%は労働協約が再交渉され、あらたな条件とおそらく賃金が合意されると考えている
- 企業の財やサービスでも取引条件や価格は暦年の最初の数か月で更新されることが多い
- しかし、それで終わりではなく、引き続き24年に明らかになる多くのデータに注意を払うつもりである
- 冒頭説明分について、政府は財政支援を制御すべきであり、そうでなければ金融政策をより緊縮化する可能性があると述べている。これは特定の国を念頭にしたものか
- 特定の国を念頭にしたものではなく、財政支援、特にエネルギー価格の上昇を補填するような裁量的政策はきっぱり終了すべきという原則を念頭にしたものである
- パウエルFRB議長の昨晩のコメントについて。彼は現行水準の金利を長く続けすぎることのリスク、高金利を長期間続けすぎる過ちを犯さないことに焦点を置いていると述べた。この懸念を共有するか
- ユーロシステムのスタッフが作成した見通しに基づき、今はガードを下げるべきではないと考えており、我々にはやるべきことはまだ残っており、金利据え置きという形をとるべきだと信じている
- 市場の期待や価格が異なっている点について。現在の市場価格は、ECBが来年3月以降6回の利下げをすると見ているが、これについて妥当であると思うか
- 直接的な回答はもちろんできない
- スタッフの見通し、基調的インフレ率、金融政策の伝達の強さの3つの基準を見ていると言いたい
- いくつかの国が景気後退(recession)に突入しようとする一方、見通しでは成長の加速を見ていることについて。景気後退や事態が悪化するリスクは、本日の決定に対してどの程度考慮されているのか
- まず、特定の国ではなくユーロ圏全体を見れば、ベースラインで景気後退と見ていない。
- 我々の使命は景気後退を起こすことではなく、中期的に2%の物価目標を到達することであり、物価の安定と定義される
- マクロ経済データや全体の状況を考慮するが、使命の達成ために動いている
- PEPPについて。あなたは過去にPEPPの償還再投資の柔軟性は分断化リスクに対する裁量の手段であると述べた。また、さきほど良い時機であるとも述べた。これは、分断化リスクがもはや懸念ではないという、大きなニュースに聞こえるが、これに関して補足はあるか
- PEPPの再投資が実施されている限りは柔軟性を有しており、6月末までは100%の再投資に、24年末までは50%の再投資に適用される
- PEPPは目的を果たしたと信じている
- コロナ禍が収束し、もはや緊急時ではなくなり、分断化のリスクが見られない現在は、バランスシートの正常化が歓迎される
- 仮にリスクがあった場合には、利用できる手段があり、その場合には、使命である適切な伝達のために利用することを躊躇しない
- ドイツ政府では、例えば炭素税引き上げを含む節約策が通過した。これは、ユーロ圏の見通しにどれだけ影響するのか
- 時期尚早であり、ドイツによるこの決定は昨日発表された
- 我々の見通しにはこれらの数値は含まれていない
- 我々は見通しに含め、その影響がどの程度か理解するつもりである
- 正しく理解しているならば、来月の比較的しぶといインフレは賃金と利益が原動力となるだろう。これは賃金と物価のスパイラルといったリスクがまだ存在することを意味するのか
- 賃金と利益については、ECBも各国中銀も注意深く見ている
- 単位利益の寄与は2.4%から現在は1.4%まで低下しており、これが持続的であることが確認されれば、インフレにとっては良いニュースとなる
- しかし、これが起きていると判断するのに十分な情報はまだ得られていない
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年12月15日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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