コラム
2023年12月15日

中国不動産の基本(6)中国での家探し~まだ多い個人間直接取引と中古住宅取引プラットフォーム~

社会研究部 研究員 胡 笳

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中国で新築住宅1を探す場合は、不動産開発事業者のモデルルームを訪問する。既存住宅や賃貸の場合は、不動産情報サイトで物件の情報を収集したり不動産業者の店舗に直接訪れて紹介を受けたりするので、日本と大きな違いはない。しかし、本稿で特に注目したいのは、中国では、不動産仲介業者を介さずに、売主と買主、または賃貸住宅の所有者と入居者の間で直接的に取引するケースがまだ多く存在する点である。
 
1 本稿では主にマンションの場合を説明する。

個人間取引の実態とその背景―仲介手数料がもったいない

中国では個人間取引の統計データは存在しないが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで「家主直売(中国語:房东直售)」等のキーワードで検索すると、物件情報が大量に表示される。中には、きれいに編集された写真や所有者の熱い思いが込められた文書とともに掲載され、物件の魅力などのメッセージが購入希望者に直接伝わる工夫が施されている。また、中国で物件を売却または賃貸に出される場合、窓ガラスやエレベーター内掲示板等にその意向と所有者の連絡先を記載した張り紙を貼るケースも多く見受けられる。その張り紙を見て、購入・賃貸希望者は、家主に直接連絡し、物件の取引の交渉をすることができる。中国在住のAさんのお話では、あるマンションの購入希望者が物件を内覧しようと訪れた際に、マンションの玄関で売出し中の物件の部屋番号を押し間違えて、売却予定のなかったAさんがインターホンに出たという。ところが、Aさんはその人と話しているうちに、親しみが湧き、その場で売却を決めたとのことである。

賃貸の場合、SNSのほか、地元のポータルサイトやインターネットの掲示板で情報収集するケースが多いが、その情報が正しいとは限らないこともあり、特に賃貸住宅の所有者ではないのに、自分が借りた物件を無断で転貸するケースもあるので注意が必要である。

これらの背景には、不動産の仲介業務や、その対価として仲介手数料を支払うことについての理解が中国では定着しておらず、仲介手数料を支払うことがもったいないと考える人が多いことが挙げられる。中国では、不動産仲介手数料について、住宅と都市農村建設部、及び市場監督管理総局が指導意見2を発表しているが、手数料の水準に関する具体的な規定は存在しない。例えば、上海では、現在、一般的に中古住宅の売買における仲介手数料は取引価格の3%であり、買主が2%、売主が1%を支払う。しかし、実際の取引では、顧客の要望に応じて一定の割引が提供されるケースもあり、時には仲介手数料が1.6~1.7%にまで減額されることもある3。また、北京では、不動産仲介業者の最大手である鏈家(Lianjia)社の仲介手数料は、かつて取引価格の2.7%だったが、2023年9月には2%まで引き下げ、売主と買主それぞれが1%を負担する形に変更されるなど、地域によっても手数料水準や双方の負担割合は異なるのが実状のようだ4
 
2 住宅と都市農村建設部と市場監督管理総局(2023)「住房和城部 市场监关于范房产经纪的意
 https://www.mohurd.gov.cn/gongkai/zhengce/zhengcefilelib/202305/20230508_771481.html
3 澎湃新聞(2023)「调查丨上海房中介怎么收?多数机构有折扣,部分正研率方案
 https://m.thepaper.cn/newsDetail_forward_23040974
4 北京日報(2023)「北京家中介率下买卖双方共同承担
 https://www.stcn.com/article/detail/991255.html

個人間取引に関する行政支援―政府主導既存物件情報サイトの開設

当然、個人間取引においては、物件所有者の本人確認や物件の掲載情報と実際の状況が一致しないなど、トラブルにつながるリスクは高くなる。そこで、北京市など一部の地方政府は、中古住宅情報プラットフォームをインターネット上に構築し、運営を開始している。所有者は自ら住宅情報をアップロードでき、購入条件5を満たす購入者はこのプラットフォームを通じて住宅情報を閲覧し、売主と直接連絡を取り、取引を行うことができる。このプラットフォームに掲載される住宅取引の安全を確保するために、公開前に名義など登記情報や抵当権設定情報等を検証されており、政府による住宅物件情報の信頼性と有効性が担保されている6
 
中国の住宅など不動産市場の歴史は浅く、多くの人が不動産仲介業者に対してあまり好意的でない印象を抱いているが、住宅の取引プロセスは比較的複雑であるため、不動産仲介業者は、取引の専門家として、所有権の調査、価格査定、所有者と購入者との交渉などの面で引き続き重要な役割を果たしている。

中古住宅取引プラットフォームは、取引の安全性を担保することが目的であり、仲介業者を市場から排除しようとするものではない。売主と買主とで合意が得られた場合、直接不動産取引サービスセンター7に行って、所有権移転登記等不動産取引手続きをすることができ、これはオンラインで手続きすることも可能だが、任意の仲介業者を選択して代行してもらうこともできる8。このように、政府主導の中古住宅取引プラットフォームは、売主と買主に新しい情報の透明性と選択肢を提供しつつ、不動産仲介業者に対しても、従来よりも一層、円滑な取引を行うように促すものである。

次回は中国の保障性住宅について解説する。
 
5 北京市の場合、住宅購入には北京市の戸籍の保有、あるいは連続5年以上居住などの条件がある。詳細は、以下「北京市住宅購入ガイド」を参照してください。
 https://zjw.beijing.gov.cn/bjjs/xxgk/ztzl/bjgfzn/gfzgsq/index.shtml
6 北京市住宅と都市農村建設委員会(2016)「关于做好存量房房源核工作有关问题的通知
 https://www.beijing.gov.cn/zhengce/zhengcefagui/201905/t20190522_59159.html
7 不動産売買における所有権移転登記、関連税金の納付等手続きを行う行政機関である。
8 北京市大興区政府(2023)「区存量房信息布平台正式上线启用信息布渠道二手房屋交
 https://www.beijing.gov.cn/ywdt/gqrd/202304/t20230421_3062621.html
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社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
中国REIT、中国不動産全般

経歴
  • 【職歴】
     2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
     2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【資格】
     環境プランナー、国際環境リーダー

    【加入団体等】
     日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)

(2023年12月15日「研究員の眼」)

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