2023年12月12日

共働き世帯の年金は、専業主婦世帯よりも不利?~年金改革ウォッチ 2023年12月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会は中期計画の取組状況の報告を受けた。社会保障教育の推進に関する検討会は、これまでの活動に加える項目や見直し等について意見交換した。年金数理部会はセミナー方式で将来推計人口について議論した。企業年金・個人年金部会は、企業年金の見える化と資産運用立国を議論した。被用者保険の適用拡大に関する効果的な広報のためのアドバイザー会議は、アンケートの回収状況等について議論した。年金部会はマクロ経済スライドの調整期間や給付水準の示し方を議論した。
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
11月1日(第70回) 日本年金機構の第3期中期計画の取組状況等、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo70_00001.html (資料)
 
○政策統括官付政策統括室 社会保障教育の推進に関する検討会
11月1日(第1回) これまでの取組と今年度の進め方、委員によるプレゼンテーション、意見交換
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36064.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金数理部会
11月13日(第97回) 将来推計人口、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00028.html (資料)
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
11月13日(第29回) 加入者のための企業年金の見える化、資産運用立国
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36339.html (資料)
 
○年金局 被用者保険の適用拡大に関する効果的な広報のためのアドバイザー会議
11月15日(第2回) 被用者保険の適用拡大に関する広報資料の制作に関するアンケート、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00039.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金部会
11月21日(第9回) 高齢期と年金制度の関わり、多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20231121.html (資料)

2 ―― ポイント解説:ライフコースと年金の関係

2 ―― ポイント解説:ライフコースと年金の関係

年金部会ではライフコースの多様化に応じた給付水準の示し方が議論された。本稿では、制度と現状を確認し、今後の示し方を考察する。

1|制度:共働きか否かでなく収入や独身かで差
共働き世帯は専業主婦世帯より不利、とよく聞く。しかし、厚生年金の保険料は給与(標準報酬*1)に比例するため、世帯の標準報酬が同額なら、どの世帯も負担する保険料は同額である。
図表1 年金額の計算式(概要)/図表2 世帯類型ごとの年金額のイメージ 厚生年金の年金額は、現役時の平均報酬と加入月数に比例して決まる(図表1)。そのため、現役時の世帯合計の平均報酬や厚生年金の加入月数が同じであれば、共働き世帯と専業主婦世帯の厚生年金は同額になる*2(図表2)。ただし、世帯合計の平均報酬や加入月数が同じ(すなわち保険料負担が同じ)でも、独身世帯は1人分の基礎年金しか受給できない点で不利である。
 
*1 保険料や年金額の計算には給与を換算した標準報酬が使われる。月額は8.8~65万円、賞与は上限が150万円。
*2 ここでは、配偶者の加入歴等に応じて支給される加給年金(年23~40万円)を無視している。
図表3 受給権者の加入歴の分布 (2021年度の年齢)/図表4 世帯員1人あたり年金年額の分布 (70代前半) 2|現状:老後に基礎年金のみの世帯は少ない
また、自営業は基礎年金しか受け取れない、と言われる。しかし、現役時代にずっと自営業等の国民年金第1号被保険者である人は、数%にとどまる(図表3)。このため、自営業か会社員かよりも、現役時代全体で見た平均報酬*3で年金額に差が出るのが実態である。なお、世帯員1人あたりの年金額は、夫婦世帯は年100万円台に集中しているが、独身世帯は分散している(図表4)。
 
*3 現役時代全体で見た平均報酬は、厚生年金加入中の報酬を国民年金第1・3号被保険者の期間も含めて平均するイメージ。
図表5夫婦/独身別や平均報酬別に例示する例 3|今後:将来の見通しを平均報酬別に例示し、「ねんきん定期便」に平均報酬を明記すべき
政府が提供する「ねんきん定期便」や「公的年金シミュレータ」により、現時点での個人の年金額の見通しは把握しやすくなっている。しかし、年金財政の健全化策(マクロ経済スライド)や制度改正(案)がどう影響するかは分かりづらい。

政府やメディアが将来の見通しを夫婦/独身別や平均報酬別に例示し(図表5)、「ねんきん定期便」に個人の平均報酬が明記されれば、個人が自らの将来見通しを実感しやすくなるだろう。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2023年12月12日「保険・年金フォーカス」)

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