2023年12月07日

日銀短観(12月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント上昇の11と予想、設備投資計画に注目

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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12月短観予測:景況感は足踏み、設備投資計画はやや鈍化も堅調を維持

(大企業製造業の景況感は小幅に改善か) 
12月13日に公表される日銀短観12月調査では、製造業・非製造業ともに景況感の足踏み感が示されそうだ。大企業製造業では引き続き供給制約緩和に伴う自動車の生産回復が追い風となる一方、中国経済の回復の遅れなどが重石となり、業況判断DIが11と前回9月調査から小幅な改善に留まると予想(表紙図表1)。この場合、景況感の改善は3四半期連続ということになるが、直近のピーク(21年9月調査の18)までにはまだ距離が残る。また、大企業非製造業では、経済活動正常化に伴うサービス需要やインバウンド需要の回復持続が下支え要因となるものの、物価高による消費抑制や人手不足感が逆風となり、業況判断DIが26と前回比で若干低下すると見込んでいる。
 
ちなみに、前回9月調査1においては、大企業製造業では自動車での供給制約緩和や円安進行などを受けて、非製造業では経済活動再開の流れが続いたことを受けて、それぞれ景況感が明確に改善していた(図表2・3)。
(図表2)前回調査までの業況判断DI/(図表3)主な業種の業況判断DI(大企業)
今回調査では、供給制約緩和に伴う自動車生産の回復継続が大企業製造業にとって追い風となるだろう。自動車は産業の裾野が広いだけに、幅広い業種にその好影響の波及が期待される。一方で、中国経済の回復の遅れが化学や生産用機械などの業種を中心に景況感の抑制に働き、全体での景況感改善幅は小幅に留まると見ている。

大企業非製造業では、経済活動正常化に伴うサービス需要やインバウンド需要の回復継続が景況感の支えになるものの、長引く物価上昇による消費の抑制圧力が逆風になる。労働集約的な産業が多いため、人手不足感も景況感の重石になったと見ている(図表4~7)。
 
中小企業の業況判断DIについては、製造業が前回から1ポイント上昇の▲4、非製造業が1ポイント低下の11と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感の足踏み感が示されると見込んでいる。
 
先行きの景況感については総じて悪化が示されると予想(表紙図表1)。製造業では、低迷が続いてきた半導体市場の底入れ期待が支えとなるものの、これまで堅調を維持してきた米国経済の利上げに伴う減速、中国経済の回復のさらなる遅れなどへの警戒感が優勢となる可能性が高い。

また、非製造業では、物価上昇に伴う国内消費の腰折れや人手不足の深刻化、原材料価格の再上昇などへの警戒感が台頭し、先行きに対する慎重な見方が示されると見ている。
(図表4)生産・輸出・消費の動向/(図表5)鉱工業生産の動向(実績・予測)
(図表6)国内延べ宿泊者数の動向/(図表7)ドル円と輸入物価の動向
 
1 前回9月調査の基準日は9月12日、今回12月調査の基準日は11月27日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
(設備投資計画は堅調を維持)
2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比12.3%増となり、前回9月調査(13.0%増)からやや下方修正されると予想している(図表8~10)。
 
例年12月調査では、中小企業において年度計画が固まることで投資額が上乗せされる傾向が強い2うえ、資材価格や人件費の上昇を受けて、投資額が嵩みやすくなっている面も押し上げ材料になる3。既往の収益回復を受けた投資余力の改善、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要もプラスに寄与するだろう。ただし、生産活動の停滞や建設領域における人手不足が重荷となり、今回は下方修正されると見ている。

ちなみに、下方修正されたとしても、12月調査における前年比12.3%増という伸び率は、バブル期後では昨年度に次ぐ高水準に当たり、堅調な投資計画と言える。
(図表8)設備投資関連指標の動向/(図表9)設備投資計画推移(全規模全産業)
(図表10)設備投資計画の予測表
 
2 2013~22年度における12月調査での修正幅は平均で+0.6%ポイント
3 GDP統計における設備投資デフレーター(四半期次)は2021年終盤以降、前年比3~4%台で推移。
(注目ポイント:設備投資計画と物価関連指標)
今回の短観において、特に注目されるのが今年度の設備投資計画だ。既述の通り、前回調査時点では前年比13.0%増(全規模)と、例年を上回る高い伸びが示されていた。しかしながら、実質GDP(一次速報値)上の設備投資が今年7-9月期にかけて2四半期連続でマイナスに留まったほか、月次の設備投資関連指標も直近にかけて低迷しており、これまでのところ、設備投資の実勢は力強さを欠いている。設備投資は消費に次ぐ経済の柱であるだけに、同計画が大きく下方修正されれば、今後の日本経済の見通しにとって無視できない影響を与える可能性がある。

また、仮に同計画が堅調を維持した場合でも、今度はその実現可能性が課題となる。計画に沿う形で実際の投資が実行されるのか、関連指標の動きを注視していくことになるだろう。
 
また、物価関連項目も引き続き注目度が高い。企業による値上げの勢い(モメンタム)を示す「販売価格判断DI」(全規模)は前回調査にかけて3四半期連続で低下していたが、そのペースは緩やかで水準も高止まりしていた(図表11)。さらに先行きにかけての低下ペースも緩慢であった。既往の仕入価格上昇の転嫁が遅れていた影響が大きいとみられる。仕入に直結する輸入物価(指数の水準)は今年の春にかけて低下してきたが、円安の影響などにより夏場からは再びやや上昇してきている(図表7)。今回、企業による価格転嫁の勢いが先行きにかけてどの程度減退していくことが見込まれているのかが、当面の物価上昇率を占う一つの手がかりとなる。
 
また、「企業の物価見通し」も重要度が高い。企業の予想物価上昇率である当項目は一昨年以降大きく上昇し、前回調査でも、1年後・3年後・5年後ともに物価目標である前年比2%を上回っていた(図表12)。特に中長期の物価見通しは企業の賃金・価格設定に与える影響が大きいと考えられるため、賃上げや物価上昇の持続性を考えるうえで動向が注目される
(図表11)仕入・販売価格DI(全規模)/(図表12)企業の物価見通し(全規模)
(金融政策正常化を後押しする材料になるか)
日銀は今のところ、「賃金の上昇を伴うかたちでの 2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っていない」との基本見解のもと、金融政策の正常化に向けて、その実現可能性を見定める方針を維持している。

今回の短観では、景況感の足踏み感が示され、設備投資計画にも小幅な下方修正が入ると予想されるが、一方で設備投資計画の高い伸びは維持され、価格転嫁圧力の残存や予想物価上昇率の高止まりも示される可能性が高いと見ている。それらの部分については金融政策の正常化を後押しする材料になり得るだろう。

ただし、物価目標達成判断の最大のカギとなるのは、やはり来春闘での賃上げ情勢とみられることから、今回の短観が正常化の決め手になるとまでは考えにくい。正常化に舵を切るのは、来春闘結果の大勢が見えてきた来年4月と予想している。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年12月07日「Weekly エコノミスト・レター」)

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