2023年12月05日

インド経済の見通し~23年度後半は総選挙を控え投資が鈍化、景気減速へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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GDP統計の結果:7%台半ばの高成長が持続

2023年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.6%となり前期の同+7.8%から小幅に低下、Bloombergが集計した市場予想(同+6.8%)を下回った1(図表1)。
(図表1)インドの実質GDP成長率(需要側) 7-9月期の実質GDPを需要項目別にみると、内需は民間消費が前年同期比+3.1%(前期:同+6.0%)と鈍化した。一方、総固定資本形成が同+11.0%(前期:同+8.0%)、政府消費が同+12.4%(前期:同▲0.7%)となり、それぞれ上昇した。

外需は、輸出が同+4.3%(前期:同▲7.7%)、輸入が同+16.7%(前期:同+10.1%)となり、それぞれ上昇した。
(図表2)インドの実質GVA成長率(産業別) 2023年7-9月期の実質GVA成長率は前年同期比+7.4%(前期:同+7.8%)と低下した(図表2)。

産業部門別に見ると、まず第三次産業は同+5.8%(前期:同+10.3%)と低下した。前期に二桁成長を遂げた金融・不動産(同+6.0%)が鈍化したほか、貿易・ホテル・交通・通信(同+4.3%)が緩やかな伸びにとどまった。一方、行政・国防(同+7.6%)は堅調に拡大した。

一方、第二次産業は同+13.2%(前期:同+5.5%)と上昇した。製造業が同+13.9%(前期:同+4.7%)、鉱業が同+10.0%(前期:同+5.8%)、建設業が同+13.3%(前期:同+7.9%)、電気・ガスが同+10.1%(前期:同+7.9%)となり、揃って二桁成長に加速した。

第一次産業は同+1.2%(前期:同+3.5%)と低下した。天候不順によりカリフ作物の生産量が低下したことが影響したとみられる。
 
1 11月30日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2023年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。

経済概況

経済概況:投資と政府支出が加速して7%台後半の高成長を持続

インド経済は世界的な景気減速やインド準備銀行(RBI)の金融引き締めにもかかわらず、概ね順調な成長軌道を維持している。四半期ベースの成長率をみると、2022年10-12月期は前年同期比+4.5%まで低下したが、その後は堅調な伸びが続いており、今回発表された2023年7-9月期の実質GDP成長率は同+7.6%と、2四半期期連続の7%台後半の高成長であった。アジア地域は中国経済の失速や半導体サイクルの悪化により輸出が低迷して景気が減速傾向にあるが、インドはGDPに占める輸出の割合が20%程度と低く、外需の逆風が限定的であり、堅調な内需が成長を牽引する形となっている。

7-9月期は前年同期比の成長率が+7.6%と、4-6月期の同+7.8%から小幅に低下したが、これは民間消費が鈍化した影響が大きい。まずGDPの約7割を占める民間消費は前年同期比+3.1%となり、前期の同+6.0%から低下した。都市部の雇用環境は改善傾向にあるものの(図表3)、今年の祭事期が遅かったことや農業生産の鈍化により農村部の消費需要が弱かったこと、そして7-9月期の消費者物価上昇率が同+6.4%と、インド準備銀行(RBI)の物価目標圏内(2~6%)を上回るまで上昇して家計の実質所得が目減りしたことなどが影響したとみられる(図表4)。
(図表3)都市部の失業率と労働参加率/(図表4)消費者物価上昇とインフレ目標
一方、総固定資本形成(同+11.0%)は二桁成長した。主に公共投資がけん引したものとみられ、好調が続いている。公共投資が民間の経済活動に波及したほか、中国からのデリスキングを目的とするサプライチェーン再編を進める企業の動きも民間投資の追い風にとなったとみられる。7-9月期は連邦政府の資本支出が同+26.4%、セメント生産量が同+10.2%、鉄鋼生産量が同+13.7%といったように投資関連指標は大幅に増加している。また住宅価格の値ごろ感や政府部門の設備投資の前倒しにより建設業が大幅に増加(同+13.3%)したこととも整合的な結果だった。

純輸出は財・サービス輸出(同+4.3%)が増加した。しかし、通関ベースの貿易統計をみると、モノの輸出は海外経済の減速により伸び悩んでおり、回復の動きはみられない(図表5)。またサービス輸出は9月の外国人訪問者数が前年比17.5%増の64万人となり前年同月から大幅な増加が続いているものの、1-3月平均の84万人をピークに回復の勢いが弱まっている(図表6)。また財・サービス輸入(同+16.7%)も増勢が加速して輸出の伸びを上回った結果、純輸出の成長率寄与度は▲3.6%ポイントとなり、前期の▲4.6%ポイントから改善した。
(図表5)インドの貿易動向/(図表6)国内線利用客数と外国人訪問者数

経済見通し

経済見通し:23年度後半は総選挙を控えて投資が鈍化、景気減速へ

インド経済は23年度前半の成長率が前年比7.7%と高水準だったが、年度後半は成長ペースが鈍化するだろう。

当面は世界経済の減速により輸出が低調に推移する一方、輸入は内需拡大を背景に輸出を上回る伸びが続くものとみられ、外需は引き続き成長率の押し下げ要因になるとみられる。

内需は消費と投資が鈍化して景気のけん引力が低下するだろう。まず民間消費は祭事期の活況により都市部の需要が拡大するものの、農村部の需要減退が続くため力強い成長は見込みにくい。不安定な南西モンスーンの影響で今年のカリフ作物の生産量は前年を4.6%下回ると予測されており、農村部の需要は弱含んでいる。またラビ作物についても小麦の作付け面積が前年比5%減となっており既に播種が遅れている。今後ラビ作物がエルニーニョ現象の影響を受けることになると農村部が苦境に追い込まれることになり、更に需要が落ち込む可能性もある。

投資は政府のインフラ投資の継続的な拡大、生産連動型インセンティブ (PLI)スキームを追い風に底堅い伸びが続くものの、公共投資は前倒しの反動により一服感が生じること、民間投資は借入コストの上昇や政治的な不透明感により増勢が鈍化するだろう。一方、政府支出は総選挙を控えた支出拡大が続いて景気の下支えとなるとみられる。

2024年度は23年度後半に鈍化した景気が回復に向かうだろう。欧米経済がインフレ沈静化により持ち直していくなかで輸出が徐々に上向くとみられる。また総選挙ではインド人民党の勝利を予想しており、現行のビジネス寄りの政策の継続を受けて企業が一時手控えていた投資を再開するため、選挙前に伸び悩んだ民間投資が再加速するだろう。一方、民間消費は都市部の需要は堅調な伸びが続くと見られるが、エルニーニョ現象が少なくとも2024年4月まで続くとみられており、その後の農村需要の回復は不透明な状況だ。

消費者物価上昇率は2023年10月に前年同月比4.9%となり、3カ月連続で鈍化した。先行きのインフレ率は農村部の需要減退が物価押し下げ要因となるだろう。しかし、ベース効果の一巡により更なる鈍化は見込みにくいこと、農業生産が低調で食品価格が上昇することから当面はRBIの物価目標の4%を上回って推移するだろう。このため、RBIは現行の政策金利を据え置き、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ開始を受けて2024年後半に金融緩和に踏み切ると予想する。
(図表7)経済予測表 以上の結果として、実質GDP成長率は2023年度が外需と農村需要の減退により前年度比+6.7%となり、2022年度の同+7.2%から低下、2024年度は金融引き締めの累積効果が徐々に経済活動の重しとなり成長率が同6.5%と小幅に低下するが、総じて底堅い成長軌道を維持すると予想する(図表7)。
 
 

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(2023年12月05日「基礎研レター」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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