2023年10月26日

インドの生命保険会社の状況-2022年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-

中村 亮一

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5―健全性等の状況

1|責任準備金の計算基礎
インドの生命保険会社の責任準備金の計算基礎については、全社統一の計算基礎率が定められているわけではない。毎年度末決算において、それぞれの会社の状況を踏まえて決定されるため、各社毎に異なっている。ロック・フリー方式3で定められるため、契約毎に毎年の計算基礎率が変化することにもなる。以下では、代表的な計算基礎率である予定利率と予定死亡率の状況について、報告する(なお、以下の各図表において、前年度から変更が行われた部分に網掛けをしている)。
 
3 責任準備金評価において用いる計算基礎について、契約時に使用したものを固定(ロック・イン)するのではなく、評価時毎にその時々に適正と考えられる計算基礎等で評価する方式
(1)予定利率
個人生命保険(有配当)契約の場合の水準について、各社の状況を見てみると、以下の図表の通りとなっており、Bajaj Allianzを除く民間4社に比べて、LICは相対的に高い予定利率を採用してきている。

なお、最高利率と最低利率は、商品ごとに異なる幅の上限と下限を示している。

2018年度は、ICICI Prudentialが予定利率を引き下げたが、Max Lifeは予定利率を引き上げた。2019年度と2020年度は、ICICI PrudentialとHDFC Standardが予定利率を引き下げた。2021年度は、LICは予定利率を引き下げたが、ICICI Prudential、HDFC Standard、Max Lifeの3社は予定利率を引き上げた。

これに対して、2022年度は、ICICI Prudential、HDFC Standard、SBI Lifeで予定利率を引き上げている。また、Max Lifeについては、2021年度に範囲を有していたが、2022年度は2020年度以前と同様の一律の予定利率としている。
責任準備金計算基礎(予定利率)―個人生命保険(有配当)契約の場合―
LICの予定利率については、商品毎に異なっており、無配当商品では有配当商品よりも低い予定利率を採用しているケースもある。これについては、有配当と無配当のファンドの期待利回りや配当によるバッファー的要素を反映したもの、と説明されている。

LICは、2017年度に幅広い商品の予定利率を引き下げたが、2018年度は個人年金(有配当)を除けば、前年と同水準に留めていた。2019年度は再び幅広く各商品の予定利率を引き下げたが、2020年度も個人生命(有配当)と医療ノン・リンク型以外は2年連続で引き下げていた。また、2021年度は、医療を除く商品で予定利率を引き下げていた。

これに対して、2022年度は、個人年金の予定利率を0.05%引き下げている。
責任準備金計算基礎(予定利率)―LICの場合(個人保険商品毎)―
事業年度毎の予定利率の変化については、LICの個人年金保険(有配当)の場合、以下の図表のようになっている。

個人年金保険(有配当)では、2013年度から2016年度までの4年間は同水準で推移していたが、最高利率について、2017年度は0.1%の引き下げを行い、2018年度は1.0%の引き下げを行った。2019年度は再び1.2%の大幅な引き下げを行い、さらに最低利率も0.6%引き下げていた。2020年度は、最高利率、最低利率ともさらに0.1%引き下げて、4年連続での引き下げとなっていた。

なお、個人年金保険(有配当)については、2019年度と2020年度に、個人生命保険(有配当)に比べて大幅な引き下げを行っていたが、2021年度は、予定利率を大幅に引き上げて、個人生命保険(有配当)と同じ水準としていた。

これに対して、2022年度は、再び個人年金保険(有配当)の水準を個人生命保険(有配当)と比べて、若干低い水準に引き下げている。
責任準備金計算基礎(予定利率)―LICの個人年金保険(有配当)の場合(事業年度毎)―
(2)予定死亡率
予定死亡率については、各社とも、2018年度までは、従前の標準生命表である「IALM(2006-08)Ult.」をベースにしていたが、2019年度は新しい標準生命表である「IALM(2012-14)」4をベースにしている。ただし、この生命表をそのまま使用しているわけではなく、商品毎、性別、年齢別、対象市場毎に異なる調整を行った死亡率を採用している。さらに、その水準や方式についても、各社毎に異なっている。

なお、IALM(2012-14)等への調整率については、2020年度において、4社が2019年度から見直している。また、2021年度においては、ICICI Prudential、HDFC Standard、SBI Lifeの3社が調整率の見直しを行っている。これに対して、2022年度は、多くの会社がさらに調整率の見直し(調整上限の引下げ)を行っている。
責任準備金計算基礎(予定死亡率)2022年度末―個人生命保険(有配当)契約の場合―/(参考)責任準備金計算基礎(予定死亡率)2021年度末―個人生命保険(有配当)契約の場合―
また、LICにおける商品毎の予定死亡率は、以下の図表の通りである。

生存保障要素の高い商品等については、低めの割増率や年齢のセットバックによる割引を行っている。

死亡保障性の高い商品では、相対的に高い割増率を採用している。2019年度に全ての保障系商品について、最新の標準生命表ベースに変更した後は、2020年度、2021年度とも見直しを行っていない。

また、個人年金保険契約の年金受給後の予定死亡率については、2015年度末にセットバック年齢を3歳から4歳に引き上げ、2016年度末にはさらに5歳に引き上げ、2017年度末には6歳に引き上げるという変更を行っていたが、2018年度以降は変更していなかった。ただし、2021年度はセットバック年齢を再び3歳に引き下げている。

2022年度は、各商品とも2021年度と同じ水準に設定している。
責任準備金計算基礎(予定死亡率)―LICの場合(個人保険商品毎)―
以上のように、予定死亡率については、各社の経験データ等に基づいて、対象とする市場における経験発生率の状況等も勘案する中で、各社が合理的・妥当と考える水準に設定してきている。
 
4 生命保険会社24社の調査期間(2012年4月1日~2014年3月31日)のデータに基づいて作成された。標準表は、有診査の男性被保険者の2年以上の段階的終局死亡率で構成されている。なお、2019年4月1日より適用されている。
2|ソルベンシー比率(Solvency Ratio
6社のソルベンシー比率の推移は、以下の図表の通りである。各社毎に絶対水準は大きく異なっているが、各社ともIRDAIが最低基準としている1.5(150%)の水準を上回っている。
大手各社のソルベンシー比率(Solvency Ratio)
LICのソルベンシー比率は安定的に推移してきていたが、2020年度は2019年度に比べて0.21上昇して1.76となり、2021年度もさらに0.09上昇して1.85となった。2022年度も若干増加して、1.87となった。

一方で、民間の5社は基本的には規模の拡大に合わせて絶対水準は低下傾向にあるが、2020年度に民間3社のソルベンシー比率が上昇していたものの、2021年度は5社とも低下した。2022年度は、ICICI Prudential、HDFC Standard、SBI Lifeの3社の比率が上昇した。
3|剰余の分配(契約者配当)の状況
保険契約者に対する配当としては、保険金増額式配当(Reversionary Bonus)と消滅時配当(Terminal Bonus)がある。このうち、例えば、2022度決算に基づいて、個人生命保険(有配当)契約に対して、2023年度に割り当てられる、2022年度の保険金増額式配当率については、以下の図表の通りとなっている。

2020年度は、ICICI PrudentialとSBI Lifeが水準引き上げを行っていたが、2021年度はICICI PrudentialとHDFC Standardは見直しを行っていない。因みに、2021年度には、各社のPublic Disclosure資料の様式が変更されたため、2020年度との単純な比較が難しくなっていた。

これに対して、2022年度はLICを除く各社とも配当率の若干の引き上げを行っている。
契約者配当率―個人生命保険(有配当)契約の場合(保険金増額式配当率)―
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中村 亮一

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