2023年10月20日

賃貸住宅修繕共済の登場で期待される計画修繕の普及~賃貸住宅オーナーに修繕・点検時期セルフチェックのすすめ~

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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4――セルフチェックのすすめ

1|計画修繕のメリット
もう一つの課題である、修繕の必要性の理解不足であるが、まずは先に示した必要性と意義をオーナーに理解してもらう必要がある。同時に、実施するメリットを理解することが重要であろう。

修繕を行わない理由で紹介したアンケート調査では、計画修繕を実施しているオーナーが感じる賃貸住宅経営上の効果について回答を得ている。これによると、「家賃水準を維持できた」約43%、「高い入居率を確保できた」約39%、「長期にわたり住宅の性能が維持できた」約30%と、先ほどの必要性と意義を裏付け、賃貸住宅経営上大きなメリットがあることを示す結果となっている。
図表4 計画修繕の効果
2|オーナーによる修繕・点検時期のセルフチェック
計画修繕の必要性を理解した上でまず必要なことは、所有している賃貸住宅の状態を確認することである。それによって、直ちに修繕を実施する必要があるかどうか判断することができる。このような、修繕の必要性を判断する建物の診断は、そうした知識や技術のある専門家や専門業者でなければ正確に行うことはできない。

しかし、専門家や専門業者に依頼する前に、オーナー自ら専門家に相談すべきかどうか判断に迷うこともあろう。そのようなときまずはオーナー自ら、所有する賃貸住宅の状態を確認してほしい。言わばセルフチェックである。その際、活用できるのが、国土交通省がウェブサイト上で公開している、「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」である。

これは、ウェブサイト上で質問に回答していくと、すでに不具合が生じているため専門家に相談して修繕を実施すべき、あるいは、不具合は生じていないものの点検時期を迎えているため、点検すべきといった診断結果が示されるものである。

具体的には、まず賃貸住宅の建築年を入力し、構造を木造、鉄骨造、RC造から選択する。次に、屋上、雨樋、外壁、ベランダ、階段廊下、電気設備、基礎(土台)、給湯・風呂釜、外部建具(玄関扉、雨戸等)、給水設備・排水管、水回り(台所、風呂、トイレ)の各部位毎に、劣化・不具合の症状があるかを、「はい」か「いいえ」で回答していく。症状の事例写真が複数掲載されていることから、専門知識がなくても、実際にそのような症状があるかどうかを確認することで、簡単に診断することができる。診断結果は次図のように示され、PDFでダウンロードして保存することができる(図表5)。

このように、オーナーが簡易に診断できるツールを国土交通省が制作したのは、これまで説明してきたように賃貸住宅オーナーに修繕の必要性を理解してもらい、計画的な修繕実施を普及させることで、良質な賃貸住宅ストックの形成を図るためである。

従来、ウェブサイトから診断ツールのファイルをパソコンにダウンロードして利用する形式であったが、2022年度の国土交通省の補助事業8により、より使いやすくするようニッセイ基礎研究所が改訂を行った9。オーナーが現場に出向き、目視で状態を確認しながらスマートフォンやタブレットで入力できるよう、ウェブアプリ版にしたものである。

併せて、スマートフォン等を利用しないオーナーも診断できるように、手書き用のチェックシートも作成し、同じウェブサイトからダウンロードしてプリントアウトし、そこに記載された質問に回答していくことで診断結果を得られるようにした。

「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」のウェブサイトには、その他、修繕やリフォームなどの相談先窓口の案内、計画修繕と併せて実施するリフォームなどに対する補助金や税制、融資など制度の紹介、関連するガイドブックや調査報告書など計画修繕に役立つ情報も掲載している。

本レポートを目にして計画修繕に取り組もうと思った賃貸住宅オーナーには、是非、このツールを利用してセルフチェックを行ってほしい。その結果を踏まえて、所有する賃貸住宅の管理業者や施工業者、あるいはウェブサイトで案内している相談先窓口に相談してみてはいかがであろうか。

「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/selfchecksheet/
図表5「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」の表紙と診断結果の例
なお、「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」の制作にあたり、ウェブアプリ版の開発において、サイフォン合同会社10に協力いただいた。また、株式会社 建築検査学研究所11の大場喜和氏には、劣化・不具合症状の事例写真を提供いただいた。この場を借りて深謝申し上げたい。
 
8 「共生社会実現に向けた住宅セーフティネット機能強化・推進事業(民間賃貸住宅計画修繕普及事業(断熱性能向上・遮音対策改修普及支援等事業))」(国土交通省住宅局)。この補助事業では、「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」の改訂と併せて、「賃貸住宅の断熱性向上や遮音対策のための大家向けガイドブック」の制作を行った。
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001624284.pdf
9 筆者の他、社会研究部の胡笳研究員、島田壮一郎研究員が担当した。
10 「サイフォン合同会社」(代表社員 大橋 正司 東京都武蔵野市)https://www.scivone.com/
11 「株式会社建築検査学研究所」(一級建築士事務所 代表 大場喜和 神奈川県大和市)https://bit-r.jp/index.html
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

(2023年10月20日「基礎研レポート」)

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