コラム
2007年06月29日

200年住宅ビジョン・賃貸住宅の長寿命化は計画修繕積立制度の確立から

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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昨月末に自民党が「200年住宅ビジョン」をとりまとめ公表した。これは、昨年6月の「住生活基本法」制定により、それまでの量の確保から、質の向上を重視するという住宅政策の転換を受けて、「超長期にわたって循環利用できる質の高い住宅(200年住宅)」の実現・普及に向けた政策提言を行ったものである。この200年住宅ビジョンは、先頃閣議決定された「経済財政改革の基本方針2007」に盛り込まれたことにより、今後、官民を挙げた本格的な取組みが進められていくことになるであろう。

さて、住宅そのものを長持ちさせ、資産価値を長期に維持するためには、「計画修繕」が不可欠である。外壁や屋根あるいは給排水設備など、住宅を構成する部材はいずれも使用に耐える期限が限られていることから、その時期には修繕が必要になる。その時期を長期的に予定して、計画的に修繕を行っていくことで建設時の状態を保つようにする資産管理の方法が「計画修繕」である。

分譲マンションにおいては、管理組合が将来の大規模修繕に備えて長期修繕計画を策定し、修繕に必要な資金を算定して、修繕積立を行うことが一般化している。これに対し、アパートや小規模マンションなどの賃貸住宅においては、計画的に修繕を行うという考え方そのものが浸透していない。戸建持家と並んで、計画修繕の普及が最も遅れているのが賃貸住宅と言える。

ではどうしたら賃貸住宅における計画修繕を普及させていくことができるだろうか。それには2つが挙げられる。一つは分譲マンション同様、長期修繕計画の策定を普及させることだ。もう一つは長期修繕計画に基づいて、修繕に必要な資金を家賃収入から積み立てる受け皿を提供することだ。

一般に賃貸住宅は新築から10年程度は入居率も高く、維持管理に必要な支出も少ないため収益性が高い。しかし10年を越えると住戸内設備の交換が必要になり、さらに12~15年周期で共用部の大規模修繕が必要になってくる。つまり、予め修繕に必要な資金を確保しておかないと、大規模修繕が必要になったときに資金が足りず、十分な修繕が行えずに資産価値が低下し、そのため入居者の確保が難しくなり、賃料収入も減ってますます修繕ができなくなるという悪循環に陥ってしまうことになる。

分譲マンションの管理組合向けには修繕積立の受け皿として、保険商品や金融債が市場で提供されている。賃貸住宅では大手賃貸管理会社が、損保会社と提携して自社の一括借上管理物件のオーナー向けに積立型の損害保険商品を提供している先進事例がある。しかし、これはまだ一部の取り組みでしかない。

賃貸住宅は年間50万戸以上が供給されており、また、1,700万戸のストックがある。これらが悪循環に陥ることなく、「200年住宅」を実現するには、計画修繕の普及が不可欠であり、そのためには賃貸住宅オーナー向けに長期修繕計画の策定支援と修繕資金積立の受け皿の提供から成る、計画修繕積立制度の確立が鍵を握るであろう。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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