コラム
2023年10月16日

曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その1)-円錐曲線(楕円、放物線、双曲線)とは-

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円錐曲線の定義

上記の離心率による定義と同じことを述べているだけだが、一般的には、楕円や放物線や双曲線は、以下のように定義されることが多い。なお、先に述べたように円錐を切断することに得られる断面が、ここで述べるような定義を満たしていることが証明できるが、今回のレポートではこれについては説明しないので、興味のある方は別途の文献等をご参照いただきたい。

(1) 楕円
平面上の2つの定点F, F'からの「距離の和が一定」となるような点の集合から作られる曲線。

この定点が「焦点」と呼ばれ、2つの焦点が近いほど楕円は円に近づき、2つの焦点が一致したとき楕円はその点を中心とした円になる。

楕円の内部に2つの焦点を通る直線を引くとき、これを長軸といい、長軸の長さを「長径」という。また、長軸の垂直二等分線を楕円の内部に引くとき、これを短軸といい、短軸の長さを「短径」という。長軸と短軸の交点が楕円の「中心」、短径と長径の比は「楕円率」と呼ばれる。

(2) 放物線
平面上で、一つの定直線gと定点Fとからの距離の等しい点Pの軌跡で作られる曲線。

この直線が「準線」、定点が「焦点」となる。放物線は、準線に垂直で焦点を通る軸に対して対称になっている。

(3) 双曲線
平面上の2つの定点F, F' からの「距離の差が一定」であるような点の集合から作られる曲線。

この2点 F, F' が「焦点」と呼ばれ、2点 F, F' を通る直線と2点 F, F' の垂直二等分線が「主軸」と呼ばれる。

円錐曲線の名称の由来は

円錐曲線については、紀元前4世紀の古代ギリシアの数学者であるメナイクモス(Menaechmus)が、3大作図問題7の1つとして有名な立方体倍積問題(立方体の体積を倍にする立方体の作図)を解くために、数学史上初めて考え出したと言われている。その後もユークリッド(Euclid)等によって研究が行われていたが、紀元前3世紀に同じく古代ギリシアの数学者であるアポロニウス(Apollonius)が円錐曲線に関する体系を、その著書「円錐曲線論」においてまとめている。

アポロニウスは、「アポロニウスの円(2定点A、Bをとり、点PをAP:BPが一定となるように(但しAP≠BP)したときの点Pの軌跡)」や「アポロニウスの問題(平面において与えられた3つの円に接する円を描く問題)」等において、その名が残されている。

「楕円」、「放物線」、「双曲線」の名称は、アポロニウスがそれぞれ「ellipsis(不足する)」、「parabole(一致する)」、「hyperbole(超過する)」と呼んだことに由来している。その意味するところは、やはり3大作図問題等に関連して、与えられた図形の面積に等しい別の図形を作図する問題を解く上で、古代ギリシアにおいて用いられていた「面積の充填」(ギリシア語でパラボレー)に関係している。

原点(0,0)を頂点とする二次曲線は、焦点の座標を(p,0)としたときに、放物線はy2=4px の形で表現される。これは放物線上のいかなる点においても、縦線yで作られる正方形の面積が横線xと4pとで作られる長方形の面積に丁度等しくなることを意味している。これに対して、楕円はy2=4px-(b/a)2x2 <4pxの形になり、双曲線はy2=4px+(b/a)2x2 >4px の形になっており、まさに縦線yで作られる正方形の面積が横線xと4pとで作られる長方形の面積に「不足」あるいは「超過」していることになっている8。ここで、4pは「通径」と呼ばれるもので、先に極表示で述べた「半通径」の2倍になっている。上記の場合4p=2b2/a となる。
 
7 ギリシアの3大作図問題については、研究員の眼「ギリシアの3大作図問題-数学を通じて、ギリシアという国の歴史的位置付けの重みを再認識してみませんか-」(2017.6.19)を参照していただきたい。この3大作図問題を解くために、多くの曲線が考え出されてきた。
8 「円錐曲線 歴史とその数理」中村 滋著(共立出版)による。

パスカルの定理

ここで、円錐曲線に関する有名な定理である「パスカルの定理」について述べておく。

ブレーズ・パスカル(Blaise Pascal)は、「人間は考える葦である」で有名なフランスの哲学者であるが、「パスカルの三角形」でも知られる有名な数学者でもあり、15歳の時にこの定理を発見している。

射影幾何学」は、フランスの建築家かつ数学者でもあるジラール・デザルグ(Gérard Desargues)によって創案されたが、パスカルはデザルグに刺激されて、この定理を発見し、円錐曲線に関する多くの射影幾何学的性質を導き出している。

この定理はいくつかの形で表現されるが、例えば「円周上の6ABCDEFについて、ABDEの交点をPBCEFの交点をQCDFAの交点をRとすると、PQRは一直線上にある。」というものであり、さらにその系として「二次曲線(円錐曲線)に内接する六角形の相対する辺の延長線の交点は一直線上にある。」というものである。より一般的には、「平面上の6点が同一の二次曲線上にあるための必要十分条件は、これらの点を頂点とする六角形の三組の対辺の交点が一直線上にあることである。」というものである。

パスカルの定理(楕円のケース)の例示
パスカルの定理(楕円のケース)の例示
さらには、下図が示すように、「円錐曲線上にある任意の6つの点を、直線によって任意の順番でつないでいくと、直線同士の交点は一直線上にある。」ということもできる。
円錐曲線上にある任意の6つの点を、直線によって任意の順番でつないでいくと、直線同士の交点は一直線上にある

最後に

今回は、楕円、放物線、双曲線等の「円錐曲線」について、その定義等について説明してきた。

そもそもは円錐という図形の切断面等の観測からの各種の研究が、二次方程式という形で表現されることになり、数学としては体系化され、その後の研究がより一層進んでいくことになっているが、一般の人にとっては、円錐という図形からのアプローチの方が、二次方程式からのアプローチに比べてイメージが湧きやすく、親しみ深く感じられるかもしれない。こうしたことは往々にして見られることで、抽象化・客観化・体系化することで、逆に物事の理解が困難になってしまうということなのかもしれない。その意味では、初心に立ち戻って、具体的な例からのイメージを大切にすることも大事かもしれない。

次回の研究員の眼では、これらの円錐曲線の性質やそれらが社会において現れてくる場面等について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年10月16日「研究員の眼」)

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