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月経関連症状の自覚に影響する要因とは?-学歴や喫煙・朝食欠食習慣、出産経験が有意に影響、若年期での受診行動の促進や生活習慣を大事に-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
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統計学的な分析の結果、月経関連症状の自覚有無に対し、朝食欠食あり(p=0.002)、喫煙習慣あり(p=0.021)、最終学歴高卒以下(p=0.022)、運動習慣なし(p=0.037)、子ども無し(0人)(p=0.044)の順に「自覚あり」へ影響を与えていたことが明らかとなった。また、運動習慣無しについては、「自覚なし」へ影響していることが示された。
また、オッズ比を確認すると、朝食欠食習慣がある者はない者と比べて、自覚ありが1.93倍、喫煙習慣がある者はない者と比べて、自覚ありが1.86倍、最終学歴が高卒以下の者はそれ以上の者と比べて、自覚ありが1.50倍、子どもなしは子ども有りと比べて、自覚ありが1.49倍と明らかになった。一方で、運動習慣がない者は運動習慣がある者と比べて、自覚なしが0.59倍(小数点第2位表示)とマイナスに影響していることが明らかとなった。
尚、飲酒習慣は、他の一部変数との当てはまりが悪く今回の投入変数からは除外している。また、今回の統計学的な分析では、年代(40歳以上)、職業(非正規)、BMI(痩せ)と、月経関連症状の自覚ありとは有意な関連性が示されなかった。
本稿における統計学的な分析において、「最終学歴(高卒以下)」、「喫煙・朝食欠食習慣あり」、「子どもなし」が、月経関連症状の自覚ありに有意に影響を与えることが明らかとなった。
まず、独立変数として投入した最終学歴については、今回の解析において「短大卒以上」「大卒以上」などの様々な区切りのダミー変数を投入し検証を経たものの、最終学歴「高卒以下」が最も当てはまりのよいモデルとなった。
高等学校学習指導要領によると6、「生涯の各段階における健康」という枠で、心身の発達や性的成熟に伴う身体面や健康課題についての知識の提供を掲げているものの、一方で、その指導に当たっては、「学校全体の共通理解や保護者の理解を得ること」となっており、月経関連症状に関する知識の習得が積極的になされていない可能性がある。筆者が行った実態調査においても2、7割近くに月経症状が出現しているにも関わらず、全体の4割近くが「我慢」をしており、高等学校卒業時点での知識では、症状緩和のための適切な受診行動に結びついていない可能性が認められる。
ちなみに、サンプル数が少ないものの学術調査に絞ると、女子高生の受診率は2.9%と極端に低く7、婦人科受診の要件として、本人及び母親の知識と婦人科受診に対する肯定的な意識が有意に関連していることを明らかにしている。
高等学校教育に限らず、大学教育においても月経症状に関する積極的な知識の習得機会はあまりないのが実状ではあるが、母親の理解と受診勧奨がない限り婦人科受診へ向かわない高校生の方がよりハードルが高いと言え、今回の最終学歴高卒以下において月経関連症状の自覚ありに影響した可能性が考えられる。月経関連症状に対する適切な対処行動として、早期からの受診行動を確立させるためには、本人のみならず、家族を巻き込んだ健康教育が重要となるかもしれない。
次に、喫煙習慣については、多くの先行研究において健康影響が報告されているが、特に月経関連症状の関連要因としても関連性が深いものとされている。8,9煙草に含まれるニコチンは、卵巣の血流減少や一酸化炭素による酸素欠乏を引き起こし、末梢血管を収縮させることで身体が冷え、痛み自覚の感受性が上昇し月経痛の原因となる。また、煙草の成分は、女性ホルモンの一つである卵胞ホルモン(エストロゲン)を作るための酵素の働きを低下させ、折角、卵巣で作られた女性ホルモンも、煙草に含まれる成分により肝臓での代謝(破壊)が促進されて分泌量が減少してしまい、月経不順や無排卵月経などを引き起こしてしまうことが明らかになっている。このように月経症状の自覚に有意に働くだけでなく、将来的な不妊症の原因となりうることにも留意する必要がある。
続いて、朝食欠食との関連性では、直近で生活習慣と月経痛の強さとの関連性を検討した順天堂大学の奈良岡らの研究において10、月経痛が重い群において朝食欠食の割合が高いことが判明しており、朝食摂取に伴う血流改善の機会を失うことで、子宮収縮による痛みの抑制が図られないことが月経痛に影響していることが明らかになっている。また、本来であれば朝食で得るはずであった月経の炎症抑制や疼痛緩和に効果をもたらす成分(栄養)が不足している実態も指摘されている。例えば、子宮内膜でのプロスタグランジンの産生を抑制させるビタミンDや、シクロオキシゲナーゼの合成阻害などの作用があるビタミンB12などの成分が、朝食欠食により不足し、月経症状が生じるのである。本稿における結果もこのことを裏付けるものとなっている。
さらに、子どもがいない者について月経関連症状の自覚へ有意に影響した結果は、子どもの有無=妊娠・出産経験の有無が影響しているものと考えられる。一般的に、妊娠・出産を経験した女性は、出産前は狭かった子宮の出口が出産(経腟分娩)により拡張し、月経時の出血を体外排出しやすくなるため、痛みを引き起こす強い子宮収縮を引き起こしにくい11。今回のように子どもがいない者について、月経関連症状の自覚が有意に高い結果を示したのは、妊娠・出産経験による子宮の状態変化(子宮拡張の有無)が影響している可能性が高い。ただし、留意したいのは、月経関連症状の有無に妊娠出産経験が多少なりとも影響しているからといって、症状には個人差も大きく、妊娠・出産を経験したからといって、必ずしも症状が緩和されるわけではない。重要なのは、子どもの有無(妊娠・出産経験)に関わらず、自身の月経に関する症状を認識し、重症度や受診要否を見極めて、適切な対処行動(受診行動)に結びつけることである。
今後、女性の社会進出が進み、妊娠・出産を希望する女性が減少、あるいはタイミングが後ろ倒しになることを想定すると、企業の健康経営の視点として、月経関連症状のコントロールがさらに重要なポイントとなることが予想されるであろう。
6 高等学校学習指導要領(平成30年告示)【解説】保健体育編(平成30年7月)https://www.mext.go.jp/content/1407073_07_1_2.pdf
7 外千夏ら(2020)「月経痛による婦人科受診に対する女子高校生と母親の意識」学校保健研究 Jpn J School Health 62;2020;314-323.
8 甲斐村美智子ら(2013)「若年女性における月経随伴症状の関連要因」女性心身医学 J Jp Soc Psychosom Obstet Gynecol Vol.17,No 3,p.297− 303.
9 佐久間夕美子(2008)「若年女性の月経前期および月経期症状に影響を及ぼす要因」日本看護研究学会雑誌 Vol. 31, No. 2 , p25-36.
10 Yuna Naraoka et al. (2023) “Severity of Menstrual Pain Is Associated with Nutritional Intake and Lifestyle Habits.” Healthcare, Volume 11, Issue 9, https://www.mdpi.com/2227-9032/11/9/1289
11 東京ベイ・浦安市川医療センター「生理痛と子宮内膜症の話」
https://tokyobay-mc.jp/obstetrics_gynecology_blog/web05_05/
最後に、今回の分析の結果では、運動習慣がないことが、月経関連症状の自覚なしへ有意な影響を与えることが明らかとなった。ただ、今回の分析における運動習慣なしのオッズ比は0.59と非常に小さい値のため、誤差範囲の可能性があり、あくまでも参考値としての取り扱いであることに留意いただきたい。
一般的に、適度な運動習慣を持つ方が、血流が改善し、月経関連症状の緩和に効果があるとされているが、実は有酸素運動などの比較的負荷の高い動作がもたらす効果は、月経前の否定的な感情などに対して極めて限定的であり12、実際には、運動による食欲増進により月経痛の緩和効果があるカルシウムやビタミンの摂取が促進されたことで全身の栄養状態が改善し、月経に伴う出血による貧血が鉄分摂取により改善した結果であると指摘されており、運動の直接的な効果よりも運動による食欲増進が必要な栄養摂取を促した結果、月経関連症状の緩和に影響を及ぼしたものであると結論付けられている13。
なお、月経関連症状の中には、経血の排出を促すためにプロスタグランジンが分泌されることで子宮収縮を繰り返し、下腹部痛や腰背部痛を引き起こすことが知られているが、これらの月経随伴症状に対するセルフケアについて検討した研究では、横になり安静になると同時に、アロマなどのリラクゼーション方法やカイロや湯たんぽを使用した血行促進法を組み合わせるとより効果が得られやすいことが明らかとなっている14。また、安静な姿勢をとるにしても、月経痛などを緩和させる効果的な姿勢をとらないと意味がない。下腹部痛が酷い場合には、横向きに寝転がり、膝を丸めて腹部の緊張を緩め、腰背部痛が酷い場合には、背部にある血管や神経への圧迫を分散させるためにうつ伏せ寝をすると痛みが緩和されやすいと言われている。人によっては、クッションやまくらなどを腰や背中にあてがうだけで筋緊張が和らぎ、痛みの緩和につながることも報告されており、自身の痛みに効果的な姿勢や体勢を模索することが重要である。
12 苫米地真弓ら(2008)「月経随伴症状に対する有酸素運動の有効性についての検討」母性衛生雑誌49巻第2号,p374-381.
13 A. El-Lithy et al. (2015) “Effect of aerobic exercise on premenstrual symptoms, haematological and hormonal parameters in young women.” Journal of Obstetrics and Gynaecology Volume 35, 2015 - Issue 4, p389-392. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/01443615.2014.960823
注:その他の先行研究では、運動によるβエンドルフィンの放出による鎮痛作用、エンドカンナビノイドを介した鎮痛作用、抗炎症性サイトカインによる鎮痛作用など、疼痛の緩和効果が報告されている学術論文もあることに留意。
14 中村美貴ら(2016)「月経随伴症状に対するセルフケアについての文献検討」東京女子医科大学看護学会誌
Vol.11, No.1, p19-24.
4――まとめ
多変量解析の結果、月経関連症状の自覚がある女性は、「最終学歴(高卒以下)」、「喫煙・朝食欠食」、「子ども無し」という特徴を有することが明らかとなり、運動習慣がない者に関しては、月経関連症状の自覚なしへ影響を与えていたことが明らかとなった。(ただし、運動習慣のオッズ比は小さいため誤差範囲の可能性があることに留意。)
最終学歴が高卒以下である場合には、月経関連症状に対する知識の習得機会や適切な対処行動を学ぶ機会がなかったことが懸念され、喫煙習慣は、煙草に含まれるニコチン等の成分による血流障害が痛みを強め、朝食欠食は子宮収縮を緩和させるビタミン成分の不足が影響、さらに子ども無し=妊娠・出産の経験無しが経血の排出促進による子宮収縮による痛みの知覚に影響していることが推察される結果となった。
一方で、運動習慣については、一定の安静姿勢が、月経関連症状の痛みの緩和に役立ち、今回の結果につながったものと推察された。しかし、安静姿勢といってもリラクゼーション方や血行促進法などの対処行動を組み合わせることでより効果が期待できることから、自身の安楽姿勢(状態)を模索し続ける必要はあろう。引き続き、女性の健康に関する分析結果を公表予定である。
(2023年10月10日「基礎研レポート」)
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03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市 入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
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