2023年09月28日

プチ・バブルが懸念される米国株式

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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1――高値圏での推移

米国株式は2023年に入ってから上昇し、高値圏を維持している。S&P500種株価指数(青線)は2月から3月中旬まで一旦下落したものの、7月31日には年初来高値となる4,588ポイントをつけた【図表1】。8月以降は米長期金利(橙面グラフ)の上昇を契機に下落しているが、それでも年初来で10%以上も高い水準にある。
【図表1】 S&P500種株価指数と米長期金利の推移
また、2023年は為替市場で年初に1ドル130円を下回っていたのが、9月には昨年10月以来、約1年ぶりに再び148円台をつけるなど円安が進んだ。そのため、S&P500種株価指数を円建て(紺線)でみると、ドル建ての元々の値(青線)以上に大きく上昇している【図表2】。その上昇幅は2023年に入って大きく上昇したTOPIX(灰線)に並ぶほどである。
【図表2】 S&P500種株価指数と為替の推移

2――膨らむ米株投信への買付

2――膨らむ米株投信への買付

このように米国株式が高値圏で推移する中でも、米国株式に積極的に投資する個人投資家が増えているようだ。米国株式投信の販売動向をみると、2023年に入ってからアクティブ型の販売が落ち込み、インデックス型も販売が伸び悩み、しかも米国株式が上昇する中で利益確定売りが膨らんでいたが、6月以降は買付が急増し流入金額が増えている。

アクティブ型の米国株式投信は2020年から2021年にかけて大人気になったが、2022年以降は人気に陰り見え、特に2023年に入ってから毎月の買付が1,000億円以下にまで減っていた。それがこの6月以降は買付が再び1,000億円を超えてきている【図表3】。
【図表3】 アクティブ型の米国株式投信の資金動向
インデックス型の米国株式投信でも2023年は5月までは米国株式が下落してタイミング投資が入ったと思われる3月以外は買付額が2,000億円を下回っていた。それが6月は過去最大の買付があり、7月、8月も2,500億円前後の買付が続いている【図表4】。
【図表4】 インデックス型の米国株式投信の資金動向

3――指標上では割高

3――指標上では割高

しかし、米国株式の先行きに対してはあまり楽観しない方が良いと考えている。それは株価が割高になっている可能性があるためである。S&P500種株価指数の予想PER(青線)は18倍を上回っている【図表5】。予想EPS(赤線)も2023年に入ってから拡大しているが、それ以上に株価が上昇したため、予想PERが上昇し、過去と比べて高水準になっている。
【図表5】 S&P500種株価指数の予想PERと予想EPSの推移
特に現在の米国の金利水準を加味すると、予想PER以上に米国株式は割高になっている可能性がある。予想PERの逆数(益利回り)から米長期金利を引いた米国株式のリスク・プレミアムをみると、リスク・プレミアムは2023年6月以降さらに低下し、足元1%前後で推移している【図表6】。2022年8月以前は概ね3%以上で推移してきたことを踏まえると、かなりの低水準である。

この8月以降、株価の下落に伴って予想PERが20倍目前にあったのが再び18倍割れするまで低下してきているが、その一方でリスク・プレミアムは足元ほとんど上昇していない。そのことからも、予想PERの低下はあくまでも長期金利が4%から4.5%に上昇したことに伴うバリュエーションの調整の意味合いが大きいことがうかがえる。
【図表6】 米国株式(S&P500種株価指数)のリスク・プレミアムの推移

4――期待先行か、それともプチ・バブルか

4――期待先行か、それともプチ・バブルか

予想PERが高水準でありリスク・プレミアムが低水準だからと言って必ずしも、割高でない可能性がある。残余利益モデル:
残余利益モデル
を用いると、以下のような関係式が得られる:
関係式
予想PERは期待収益率が低下、つまり割高感が高まる以外にも高い利益成長を見込んで上昇することがあり、2023年の予想PERの上昇もその可能性がある。

実際にS&P500種株価指数とセクター別の騰落率(縦軸)をみると、「通信サービス」「情報技術」「一般消費財」の3セクターが株価上昇を牽引してきた【図表7】。この3セクターは業績も拡大しているが、それ以上に株価が上昇してきている。「通信サービス」にはアルファベットやメタが、「情報技術」にはアップル、マイクロソフトやエヌビディアが、「一般消費財」にはアマゾンが含まれる。やはり昨今、注目されている生成AIによる今後の利益成長期待が大きかったと思われる。

現時点では、米国株式の2023年の上昇が単なる期待先行なのかそれとも期待過剰、つまりバブルなのか分かりかねる。さらに米国の景気も今のところ堅調であるが、これから減速してくるリスクも考えられる。米国株式投信の買付が増えているが、今後の米国株式に対してあまり楽観しない方がよいだろう。それでも生成AIによる利益成長期待が萎まなければ、下落しても押し目買いによって買い支えられる展開となり、指標面の割高感が出ている割には意外と底堅いかもしれない。
【図表7】 年初来騰落率(縦軸)と予想EPSの変化率(縦軸)

5――最後に

5――最後に

米国株式が本当に過剰な成長期待が織り込まれたバブル状態だったとしても、2000年前後のITバブルほどの過熱感はなく、あくまでもプチ・バブルといったところだろう。ましてや1990年前後の日本のバブル期のようなことは生じていないと思われる。S&P500種株価指数(青線)の予想PERは高水準と言っても20倍を下回っている【図表8】。2000年前後には24倍を超えており、1990年台のTOPIX(灰線)にいたっては40倍越え、ピーク時には80倍に迫っていた。

現状を踏まえると、米国株式は本当にプチ・バブルであっても、日本株式の失われた30年のようにバブル後の調整に20年、30年も時間がかかることは考えにくい。今後のインフレ動向の影響も受けるが、後遺症があったとしてもせいぜい2、3年で済む可能性が高い。さらに、高値掴みが怖くて投資を見合わせていると、バブルでなかった場合には機会損失になる可能性もある。

そのため、つみたてNISAや新NISAなどで時間分散してかつ長期投資するならば、過度に懸念せず投資することをおすすめしたい。ただし、米国株式はこれから大きく値動きする可能性や円安から円高になる可能性もあるため、いつも以上にご自身のリスク許容度を意識していただきたい。
【図表8】 S&P500種株価指数とTOPIXの予想PER の推移
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2023年09月28日「基礎研レポート」)

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