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気候変動が生命保険事業に与える影響についての取組み
保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛
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●地球が沸騰する時代の到来
今年3月に「気候の時限爆弾が時を刻んでいる」と述べ、危機感を示した国連のグテーレス事務総長は、この7月に「地球温暖化の時代は終わり、地球が沸騰する時代がきた」と発言しており、気候変動が新しい局面を迎えたことを感じさせるものであった。
●研究途上にある生命保険事業への影響
気候変動への取組みが先行していると言われるアクサ(仏)等においても、定量的な将来予測については、部分的に開示を始めた段階にあると考えられる。日本においても、一部の生保において、暑熱等に事象を限定して長期的な影響を予測しており、先進的な取り組みといえよう。
●当研究所における取組の方向性(全体像)
<第1ステップ(「気候指数」の作成)>
気候変動による影響として、極端な気象等個々の事象をみることはできても、「国や地域全体でどれくらい極端さが高まっているのか」といった状況を把握することは容易ではない。そういった中、北米等では、これらの状況を指数化して、その動きを把握しようとする取り組みが始まっており、それらの先行研究を参考にしつつ、日本における「気候変動の極端さ」について、指数化に取り組む。
<第2ステップ(「気候指数」と死亡率の関係のモデル化)>
第1ステップで作成した「気候指数」と、過去の日本の死亡実績データの相関関係について研究し、モデル化(「気候指数」と「死亡実績データ」の関係を定式化する)に取り組む。
<第3ステップ(「将来予測(プロトタイプ)」の実施)>
IPCCのシナリオ等に沿って気候変動するとした場合の気候指数の将来の値を推計し、第2ステップで得られたモデルにあてはめることにより、将来の死亡率を予測する。
<第4ステップ(従来のデータからは予測できない要素(エマージング死因)の外装)>
従来データからは予測できない要素につき研究し、第3ステップの将来予測に加味していく。
なお、これら各ステップは、個々に継続的に精緻化を続けることが必要となる。
●第1ステップ(日本における「気候指数」の作成)【昨年度取組み】
【2022年9月8日付基礎研レポート】「気候変動指数化の海外事例 日本版の気候指数を試しに作成してみると…」
「国や地域全体でどれくらい極端さが高まっているのか」について、北米等における先行研究の紹介ならびに、東名阪のデータを使い日本における気候指数を試作。
【2022年12月28日付基礎研レポート】「気候変動指数の地点拡大 日本版の気候指数を拡張してみると…」
東名阪3地点から、気象庁が採用している都市化の影響が比較的小さい15地点、都市における気温変化率を見る際に用いる11都市を加えた計26地点に増やして、日本における気候指数を作成。
【2023年4月6日付基礎研レポート】「気候指数 [全国版] の作成 日本の気候の極端さは 1971 年以降の最高水準」
湿度等の指数の追加に加え、観測地点をさらに増やし、日本全体の気候指数を作成。
●第2ステップ(「気候指数」と死亡率の関係のモデル化)【今年度取組み】
【2023年8月31日付基礎研レポート】「気候変動と死亡数の増減」死亡率を気候指数で回帰分析してみると…)」
人口動態統計から50年分以上の死亡データを抽出、電子データ化やデータ整備、モデル化に際しての試行錯誤を繰り返した後、ようやく第一歩としてのたたき台を作成。
今後は、外部からの意見等も踏まえ、さらなる精緻化に取り組んで行く予定である。
●今後の取組み
ここからは、手探りでの研究が続くことなり、試行錯誤を繰り返す場面も多くなることが想定されるが、我々としては避けて通れない課題と考えられることから、粘り強く取り組んでいきたい。
(2023年09月26日「研究員の眼」)
03-3512-1822
- 【職歴】
1989年 日本生命入社
1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職
2023年~ 大阪経済大学経済学部非常勤講師
有村 寛のレポート
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