2023年09月15日

文字サイズ

1――はじめに~近年、高まるサステナビリティに関する意識、その実態は?

近年、社会や地球環境の持続可能性への関心が高まっている。2021年6月のCGコード改訂以降、上場企業1にはサステナビリティについての基本方針や自社の取組みの開示が求められるようになり、企業活動においてサステナビリティに取り組まないことは、もはやリスクとも成り得る状況だ。また、一般消費者においても、買い物時のエコバッグの持参は浸透し、商品選択の際にプラスチックごみが出にくいものを選ぶことも増えているようだ。

このような中、昨年からニッセイ基礎研究所では消費者のサステナビリティに関わる意識についての調査を実施している。本稿では2023年8月に実施した調査2を中心に、比較可能なものについては過去の調査と対比しながら、消費者の現状を捉えていく。
 
1 この改訂によって2022年4月以降、東京証券取引所の4つの市場区分(東証1部・2部・マザーズ・ジャスダック)から新たな3つの市場区分(プライム・スタンダード・グロース)へと見直されている。
2 「生活に関する調査」、調査時期は2023年8月17日~23日、調査対象は全国に住む20~74歳、インターネット調査、株式会社マクロミルモニターを利用、有効回答2,550

2――サステナビリティについてのキーワードの認知状況

2――サステナビリティについてのキーワードの認知状況~SDGsが首位、Z世代よりシニアで認知度高い

1全体の状況~1位「SDGs」70.0%、2位「再生可能エネルギー」56.7%だが、内容まで理解は半数以下
調査では、サステナビリティに関わる約40のキーワードをあげて、『聞いたことがある』ものをたずねたところ、20~74歳全体で最も多いのは「SDGs」(70.0%)であり、次いで「再生可能エネルギー」(56.7%)、「フードロス」(49.0%)、「カーボンニュートラル」(48.5%)、「健康寿命」(45.3%)、「ヤングケアラー」(42.4%)と4割以上で続く(図表1)。なお、「聞いたことがあるものはない」は14.0%を占める。
図表1(a)サステナビリティに関わるキーワードの認知状況(複数回答)(%)
『内容まで知っている』ものについても同様に「フードロス」(43.2%)や「SDGs」(43.0%)などが上位にあがり、約4割を占める。なお、「内容まで知っているものはない」は21.0%を占める。

つまり、内容まで十分に理解されているキーワードは半数に満たないものの、「SDGs」は実に7割、「再生可能エネルギー」は6割の消費者が耳にするようになり、サステナビリティに関わる事柄は、めずらしいものではなくなっている。また、「コンプライアンス(法令遵守)」などの企業活動に関わるキーワードと比べて、「フードロス」や「健康寿命」などの生活に関わるものの方が理解は浸透しているようだ(調査対象者の就業率は67.4%)。

さらに、『聞いたことがある』もののうち『内容まで知っている』との回答が占める割合について見ると、「ヤングケアラー」(88.6%)や「フードロス」(88.2%)は約9割を占めて高く、これらのほか「健康寿命」(76.8%)や「LGBTQ+」(76.6%)、「3R(Reduce、Reuse、Recycle)/4R(3R+Refuse)」(76.4%)、「コンプライアンス(法令遵守)」(76.1%)、「マイクロプラスチック」(75.0%)、「児童労働・強制労働」(73.8%)が7割以上を占めて高い。これらのキーワードは生活との関わりが比較的強いために、耳にしたことがあれば内容の理解も進んでいるのだろう。

ところで、「ヤングケアラー」は「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」を意味する。厚生労働省は令和4年度から3年間を集中取組期間として「ヤングケアラー支援体制強化事業」を創設し、ヤングケアラーの早期発見や実態把握、相談員の配置やオンラインサロンの設置などの支援策を強化している。「ヤングケアラー」について『内容まで知っている』割合が約9割を占めて高い背景には、昨年来、政策が報道等で取り上げられる機会が増えていること、また、実は現在、中学2生の17人に1人、高校2年生の24人に1人がヤングケアラーである3という身近な状況も影響しているのだろう。

約1年半前に実施した調査と比較可能なものについて見ると、『聞いたことがある』割合は「カーボンニュートラル」(+5.1%pt)や「児童労働・強制労働」(+3.9%pt)で上昇している一方、「ワ―ケーション」(▲9.0%pt)で大幅に低下している。また、調査対象の約3分の1のキーワードで僅かに低下している。『内容まで知っている』割合は「児童労働・強制労働」(+6.9%pt)や「カーボンニュートラル」(+5.3%pt)、「再生可能エネルギー」(3.8%pt)、「SDGS」(+3.3%pt)で上昇しているほか、大半で僅かながら上昇している。一方、「内容まで知っているものはない」(▲19.2%pt)は大幅に低下している。

今回と約1年半前の調査対象は必ずしも一致していないために僅かな差についての議論は難しいが、例えば、5月に新型コロナウイルス感染症が5類に引き下げられて以降、消費者意識が外へ向かうことで内省的な意識がやや弱まり、サステナビリティについての関心が僅かながら弱まりつつも、内容についての理解は全体的に深まっているという見方もできるだろう。
 
3 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書(令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業)」によると、家族の世話をしていると回答した中学2年生は5.7%、全日制高校2年生は4.1%。
2性年代別の状況~男性は企業活動、女性は日常生活に関わる事柄、Z世代よりシニアで認知度高い
属性別に『聞いたことがある』割合を見ても、いずれも首位は「SDGs」であり、上位は同様のものがあがる(図表2)。
図表2 性年代別に見たサステナビリティに関わるキーワードで『聞いたことがあるもの』(複数回答)
男女を比べると、男性では「デジタルトランスフォーメーション(DX)」(男性24.1%、女性11.7%、男性が女性より+12.4%pt)や「コーポレートガバナンス」(同22.2%、同10.6%、同+11.6%pt)などで女性を上回る。一方、女性では「ヤングケアラー」(男性30.3%、女性54.5%、女性が男性より+24.2%pt)や「フードロス」(同40.6%、同57.3%、同+16.6%pt)、「健康寿命」(同40.2%、同50.4%、同+10.2%pt)などで男性を回る。

つまり、男性では企業活動に関わるキーワード、女性では日常生活に関わるキーワードの認知度が高い傾向がある(調査対象者の就業率は男性79.6%、女性55.2%)。

年代による違いを見ると、全体的に年齢が高いほど認知度は上がり、60歳以上では「健康寿命」や「地方創生」、「再生可能エネルギー」、「ヤングケアラー」、「コンプライアンス(法令遵守)」、「カーボンニュートラル」、「マイクロプラスチック」、「フードロス」、「児童労働・強制労働」、「ダイバーシティ」などで20・30歳代を大幅に上回る。一方、20・30歳代では「知っているものはない」が2割超を占める(20歳代:22.6%、30歳代:22.8%)。なお、30歳代の認知度が最下位のキーワードが多いが、「LGBTQ+」と「フェムテック」は70~74歳が最下位である。

ところで、よく世間では「Z世代はサステナブル意識や社会貢献意識が高い」と言われるようだが、調査結果を見ると、年齢が高いほどサステナビリティに関わるキーワードを理解している。これは前稿4で指摘した通り、「昔の若者と比べればZ世代を含む今の若者はサステナブル意識が高いが、現時点を比べれば年齢が高いほどサステナブル意識は高い」という理解が妥当である。現時点においては、人生経験が長く、社会課題等について幅広い知識を蓄えていると見られる高齢者の方が、サステナビリティについての理解も進んでいるようだ。

なお、『内容まで知っている』割合について見ても同様の傾向がある(図表略)。
3|職業や世帯年収別の状況~職業は性年代の特徴による影響、世帯年収が高いほど認知度高い
職業による違いについては、その職業の性年代分布による影響が大きく、男性の多い「民間正規」では「デジタルトランスフォーメーション(DX)」などの企業活動に関わるキーワード、女性の多い「無職・その他」や「民間非正規(パート等)」では「ヤングケアラー」などの日常生活に関わるキーワード、高齢層の多い「無職・その他」では「健康寿命」や「フードロス」などを中心に認知度が高い傾向がある(図表3)。

また、世帯年収については、全体的に高年収ほど認知度は上がる傾向がある。これは前稿で示した通り5、経済的な余裕があるほどサステナビリティに関わる意識は高く、取り組みにも相対的に積極的であることよるものだろう。なお、意識面の詳細については、あらためて次稿で分析予定である。
図表3 職業や世帯年収別に見たサステナビリティに関わるキーワードで『聞いたことがあるもの』(複数回答)
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【サステナビリティに関わる意識と消費行動(1)-SDGsは認知度7割だが、価格よりサステナビリティ優先は1割未満】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

サステナビリティに関わる意識と消費行動(1)-SDGsは認知度7割だが、価格よりサステナビリティ優先は1割未満のレポート Topへ