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働く男性の自覚症状(健康問題)-就労男性は「ストレスを感じる」が、自覚症状、仕事へ最も影響する症状ともに高い割合に-
生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
続いて、本調査において、何らかの自覚症状を有する就労中の男性のうち、「ストレスを感じる」という精神的な症状が、仕事へ最も影響する症状として位置づけられていることが明らかとなった。上述で解説した精神的なストレス反応が、仕事にまで影響を及ぼしている状況であることを物語っている。
前述のように、就労中の男性がストレスを感じる状況において、自殺まで懸念するような希死念慮を有しておらずとも、留意する身体的な影響がある。それは、循環器疾患(脳心血管)である。
今回の調査では、この「ストレスを感じる」原因(ストレッサー)が何かは不明ではあるものの、自覚するストレスが循環器疾患による死亡率の上昇を招くことが指摘されている。2012年の宮崎県の特定地域の国保加入者を対象とした追跡研究では6、男性の自覚ストレスが多い群と循環器疾患死亡との有意な正の相関を示す結果が報告されている。一般的なメカニズムとして、ストレスを自覚するほど精神的な負荷が高まると、交感神経が活発になることで心臓拍出量が高まるのに反し血管は収縮するため、血圧上昇と頻脈を招き、心血管系に多大な負荷がかかる。特に男性では、このストレス反応に対抗して喫煙や飲酒の増加、循環器への負荷を避けるために運動不足や身体的な活動を抑制する傾向が認められており、肥満化、脂質異常症、内臓脂肪の蓄積など、さらに循環器(脳血管)疾患への悪循環を繰り返すことになり得る。
ストレッサーが職業性のストレスである場合には、この「ストレスを感じる」状態が長期的に継続(反復)することで、ストレス反応を担う脳の視床下部にあるHPA系の制御障害が引き起こされ、抑うつ症状やPTSDなどの精神症状を来すことも知られている。7一般的に、男性は女性に比して安定的な収入の確保や就労(雇用)における希求率が高く、職業性のストレスに晒されやすい環境下にある。職業性のストレスが、循環器疾患からの過労死や、精神症状へ作用することで希死念慮の高まりにつながらないように、「ストレス状態の把握」、「適切な対処行動の確立」「サポート体制の整備」の3つは欠かすことができないであろう。
前稿でも指摘したように、本人によるストレス状況の自覚及びコーピング行動に加えて、職業性のストレスの場合には持続的に影響を与える職業環境の改善が必要となり、企業側のサポート体制の整備が重要な視点となり得る。労働安全衛生法に規定されているストレスチェック制度等8を積極的に活用し、健康経営に有益な影響をもたらす労働者の健康を今一度見直す機会にしていただきたい。
6 木幡映美ら(2012)「自覚ストレスと循環器疾患死亡との関連」日本公衆衛生雑誌第59巻第2号,p82-91.
7 秋山一文ら(2006)「ストレスと精神障害」Dokkyo Journal of Medical Science33(3):204-212,2006.
8 厚生労働省「ストレスチェック制度について」https://kokoro.mhlw.go.jp/etc/kaiseianeihou/
4――まとめ
本調査では、就労中の男性(N=3,458人)の自覚症状(健康問題)として、「特にない」と回答した割合が22.5%(ケース割合:45.4%)と最も高いものの、有症状の順番としては、「ストレスを感じる」が9.0%(ケース割合:18.0%)と最も多く、次いで「花粉症/アレルギー鼻炎」が8.7%(ケース割合:17.6%)であった。
また、なんらかの自覚症状(健康問題)を有する男性(N=1,888人)に対し、仕事へ最も影響を与えた自覚症状を尋ねると、「仕事に影響はしていない」と回答した割合が15.7%と最も高いものの、有症状の順番としては、「ストレスを感じる」という精神的な症状が7.1%と最も高く、次いで「花粉症/アレルギー性鼻炎」が5.6%と続く結果が明らかとなった。
男性は、女性と比較してストレスを感じる割合が少ないものの、ストレスに対する対処行動において逃避・回避型のパターンを示すことが認められており、その行動特性が自己評価の低さや社会的適応の悪さと関連するため、特に留意をする必要がある。また、精神的なストレス反応は、循環器疾患発症リスクを有していることから、「ストレスの自覚(把握)」、「適切な対処行動」、「サポート体制の整備」の3つには留意していただきたい。
前稿及び本稿では、働く女性と男性にそれぞれ焦点を当てて、自覚症状(健康問題)についての調査結果を示した。女性では実に4人に1人が、男性では2割近くがストレス症状を自覚し、男女とも仕事へ最も影響する自覚症状であることが明らかとなった。女性の社会進出、男性の育児との両立等多様な役割が求められる中で、男女とも自身のストレス症状に注意を向け、企業は有益な健康経営の視点としても就労者の健康の保持増進に関する取り組むことが期待されている。引き続き、弊社の「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果を発信する予定である。
03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市 入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
(2023年08月31日「基礎研レポート」)
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