コラム
2023年08月28日

「専業主婦世帯は子どもが多い」という誤解―アンコンシャス・バイアスが招く止まらぬ少子化

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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平成27年国勢調査(2015年)、令和2年国勢調査(2020年)ともに、「共働き世帯」の方が「専業主婦世帯」よりも子どもの数が多い、という分析結果が導き出された。2015年の分析結果は主要オンラインメディアにも投稿し、2020年の分析結果も講演会で何度も取り上げてきた。

しかし、この分析結果に対して、シンクタンク研究者、大学教授、大手メディアのディレクターなどから、いまだに「驚愕した」「この結果の調査母体は何でしょうか」といった連絡を定期的にいただく状況が続いている。

このことは、日本は人口減、すなわち出生減が止まらない危機的な状況下にあるにもかかわらず、足元の社会現象に関してデータ分析による仮説検証が行われないまま、誤解に基づく非科学的な対策議論が行われていることの証左と思われる。

本稿では、少子化に関する代表的な誤解の一つである「(共働き世帯よりも)専業主婦世帯の方が子どもが多いのではないか」について解説したい。

【子なし世帯、一人っ子世帯割合が高い専業主婦世帯】

最新の2020年国勢調査で、専業主婦世帯と共働き世帯の子どもの数の状況を検証してみたい(図表1)。

夫が就業している1907万世帯において、妻が専業主婦(非就業)の世帯は582万世帯・30.5%、共働きの世帯(妻も就業)は1321万世帯・69.2%、妻の就業不詳世帯が5万世帯・0.3%となっている。

この時点ですでに、「そんなに共働き世帯割合が高いのか」という反応があるかもしれない。2022年においては、共働き世帯:専業主婦世帯は7:3となっており、共働き世帯の割合は毎年上昇している(図表2)。

このうち「子なし世帯割合」は共働き世帯34%、専業主婦世帯39%で、専業主婦世帯の方が、子どもがいない世帯割合が高いという結果となっている1

次に、18歳未満の子どもがいる世帯について見ると、一子世帯は専業主婦世帯の方が39%と共働き世帯より8Pも高くなっている。その一方で、多子世帯といわれる2子、3子の18歳未満の子どもがいる世帯割合では、共働き世帯の方が割合が高い、ということも示された。
【図表1】 夫が就業者の世帯、妻の就業状況別子どもの有無、子どもの数(2020年、全国、世帯)
以上から、簡潔に統計的な結論を言うならば「専業主婦世帯の方が子なし世帯、一子世帯割合が高く、共働き世帯の方が2子以上の世帯割合が高い」となる。
 
1 クロス分析で5Pの差は統計的に見ると「有意である(偶然ではない)」とみてもよい水準。

【アンコンシャス・バイアスが生み出す少子化リスク社会】

国勢調査の結果からはっきりと指摘できるのは

「女性が社会進出すると少子化が加速する」
「専業主婦世帯の応援、もしくはそちらに女性の生き方を誘導した方が子供が増える」

などは、統計的にみて大いなる誤解であり、偏見であるということである。しかしながら、冒頭にも説明したように「全く逆だと思っていた」という感想が絶えない。この誤解は男性に限らず、女性においてもそう考えて「自分は家族形成に向いていないのではないか」といった諦念をもつ働く女性も少なくない。
 
一体、どうしてこのようなバイアスが長くまかり通っているのだろうか。

これは「何が何でも女性に社会で活躍して欲しくない」といった悪意からではなく、どちらかというと善意からくるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)による誤解であって、だからこそ修正されにくいのではないかと筆者は考えている。
【図表2】 専業主婦世帯と共働き世帯の推移(万世帯)
今から40年前の1980年代は、専業主婦世帯が64%~54%を占めていた。しかも男女雇用機会均等法の施行は1986年であるため、「高卒男性20名」「女性事務職採用」といった企業の採用もできた時代が含まれている。この時代に20歳代だった夫婦は現在60歳代である。また、育児休業法(現在の育児介護休業法)が施行されたのは1992年であり、当時20歳代だった夫婦は現在50歳代となっている。

つまり、現在50歳代以上の夫婦が若い頃は、主に夫だけが働いていて当たり前の環境下にあった、言い方を変えるならば、男性の経済力に頼れない女性は暮らしていくのが非常に厳しい時代だったといえる。

しかし時代は変わり、2012年以降、共働き世帯が6割を超え、2018年以降は7割をも超過し、専業主婦世帯割合との差を拡大し続けている。
 
中高年世代の若かりし頃の夫婦の「普通」が、もはや少数派になっていることに気が付かず、「そんなはずはないだろう」「驚愕だ」といった意見がいまだに絶えないこの状況は、若い世代に中高年世代が過去の自分の生き方をおしつけているという見方もでき、若い世代の生き方を意図せず妨害し、未婚化を進める原因ともなりかねないリスクを感じずにはいられない。
 
中高年世代が悪意を持ってそうしているのではなく、あくまでも「幸せな自分たちの生き方を認めてほしい」「幸せな自分たちを若い世代に踏襲してほしい」といった気持ちから来ているために、「いいことをしている」という認識のもとで一向にバイアスに気が付くことができないのではないだろうか。

中高年世代である筆者自らも含めて、すべての中高年読者に、今一度時代の変化を統計的に把握した上で議論ができているか、注意喚起したい。
 
2 注1)「専業主婦世帯」は、夫が非農林業雇用者で妻が非就業者(非労働力人口及び完全失業者)の世帯。2018年以降は、厚生労働省「厚生労働白書」、内閣府「男女共同参画白書」に倣い夫が非農林業雇用者で妻が非就業者(非労働力人口及び失業者)の世帯。
 注2)「共働き世帯」は、夫婦ともに非農林業雇用者の世帯。
 注3)2011年は岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果。
 注4)2013年~2016年は2015年国勢調査基準、2018年~2021年は2020年国勢調査基準のベンチマーク人口に基づく時系列接続用数値。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

(2023年08月28日「研究員の眼」)

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