2023年08月22日

今時の専業主婦世帯のプロファイル-夫婦のいる勤労者世帯の3割へ減少、約半数が55歳以上

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~増え行く共働き世帯、専業主婦世帯は夫婦のいる勤労者世帯の3割へ減少

図表1 専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移 近年、共働き世帯が増加する一方、専業主婦世帯は減少している(図表1)。1980年では専業主婦世帯は1,114万世帯(夫婦のいる勤労者世帯の64.5%)で共働き世帯(614万世帯、同35.5%)の2倍弱を占めていたが、1990年代半ばに共働き世帯が上回るようになり、2022年では専業主婦世帯(569万世帯、同29.9%)は共働き世帯(1,262万世帯、同70.1%)の半数に満たなくなっている。

このような中で、当社をはじめとした調査・研究機関では、働く女性に注目した分析を増やしてきた一方、専業主婦に対する興味関心は低下している印象がある。よって、本稿では、政府統計等を用いて、あらためて最近の専業主婦世帯の特徴(妻の年齢分布や就業希望など)を捉えたい。なお、本稿では原則として、専業主婦世帯は、総務省「労働力調査」における「男性雇用者と無業(非労働力人口に失業者を加えたもの)の妻から成る世帯」、共働き世帯は「夫婦ともに雇用者から成る世帯」とし、この両者をあわせて「夫婦のいる勤労者世帯」としている。

2――年齢階級別に見た特徴

2――年齢階級別に見た特徴~「女性の活躍」で若い世代ほど専業主婦減少、25~34歳世帯の4分の1へ

まず、妻の年齢階級別に、夫婦のいる勤労者世帯に占める専業主婦世帯の割合の変化を見ると、全ての年齢階級で低下している(図表2)。以前は、専業主婦率は45~54歳を底に若いほど、また、高年齢ほど高まる傾向があり、グラフはV字の形状を描いていた。一方、特にこの10年間においては、若年層における低下幅が大きいことで、V字の側は平坦化している。

つまり、20年ほど前は25~34歳や55歳以上では共働き世帯より専業主婦世帯の方が多かったが、足元では専業主婦世帯の方が多いのは65歳以上のみ(約6割)となっている。また、54歳以下では専業主婦世帯は年齢によらず4分の1程度で、共働き世帯が7割を超えて多数派となっている。

特に、出産・育児期の多い若年世帯で専業主婦が減っている背景には、2013年に政府が成長戦略として「女性の活躍推進」を掲げたことで、企業等において、育児休業や時間短縮勤務制度の活用、在宅勤務によるテレワークの推進など、仕事と家庭の両立を図るための環境整備が一層進んだためと思われる。言い換えれば、出産や育児期等にある女性の就業を促進する上で効果の大きな政策であったということだろう。
図表2 妻の年齢階級別に見た夫婦のいる世帯に占める専業主婦世帯の割合の変化

3――妻の年齢階級分布に見た特徴

3――妻の年齢階級分布に見た特徴~共働き世帯より専業主婦世帯で高齢化進行、55歳以上が約半数へ

次に、妻の年齢階級分布の変化を見ると、夫婦のいる勤労者世帯全体については、高年齢層が増える一方(55歳以上は2002年17.7%→2022年30.9%で+13.2%pt)、若年層は減っている(34歳以下は同24.8%→同14.2%で▲10.6%pt)(図表3)。背景には、少子高齢化や未婚化の進行、男性の就業期間の延長1などがあげられる。

また、専業主婦世帯については、2002年では全体と比べて高年齢層(55歳以上は21.9%で全体より+4.2%pt)や若年層(34歳以下が30.4%で同+5.6%pt)が多いことが特徴的である。一方で、2002年から2022年にかけては、専業主婦世帯では高年齢層が全体を上回って増える(55歳以上は2002年21.9%→2022年45.3%で+23.4%pt、全体の増加幅より+10.2%pt)一方、若年層は全体を上回って減ることで(34歳以下は同30.4%→同11.5%で▲18.9%pt、同▲8.3%pt)、全体と比べて高齢化が進行している(55歳以上が全体より+14.4%pt)。
図表3 夫婦のいる勤労者世帯の妻の年齢階級分布の変化
一方、共働き世帯については、全体と比べて高年齢層の増加幅(同14.3%→同25.2%で+10.9%pt、同▲2.3%pt)も、若年層の減少幅(同19.5%→同15.2%で▲4.3%pt、同+6.3%pt)もやや小さくなっている。また、全体と比べて55歳以上の割合も少ない(全体より▲5.7%pt)。

つまり、前述の通り、若年世帯ほど専業主婦が減ったことで、共働き世帯と比べて専業主婦世帯の方が高齢化は進行しており、足元では専業主婦世帯の約半数は55歳以上が占めるようになっている(全体では約3割)。
 
1 総務省「労働力調査」によると、高齢男性の労働力率は上昇しており(65歳以上は2002年29.9%→2022年34.9%で+5.0%pt)、このことは夫婦のいる勤労者世帯に占める高年齢層の妻の増加につながる。

4――専業主婦世帯の就業希望状況

4――専業主婦世帯の就業希望状況~若い年代ほど希望多い、非求職理由の大半は「出産・育児のため」

図表4 専業主婦の就業希望のある割合の変化 専業主婦の就業希望のある割合は、全体では2002年は26.4%、2022年は15.4%(2002年より▲11.0%pt)を占めて低下している。

なお、冒頭で見た通り、夫婦勤労者世帯に占める専業主婦世帯の割合は足元では約3割だが、仮に就業希望のある専業主婦が全て就業した場合は約4分の1にまで減少する。

年齢階級別に見ると、若い年代ほど就業希望率は高い傾向があるが、全ての年代で低下している(図表4)。なお、2022年で最も高いのは25~34歳(27.9%)で約3割を占める。

年齢階級別に就業希望率の変化を見ると、もともと就業希望率の低い55歳以上では僅かな低下にとどまるが(55~64歳では2002年9.6%→2002年8.5%で▲1.1%pt、65歳以上では同4.4%→同2.8%で▲1.6%pt)、就業希望率の高い44歳以下では比較的大きく低下している(25~34歳では同35.2%→同27.9%で▲7.3%pt、35~44歳では同35.4%→同2022年24.8%で▲9.6%pt)。

44歳以下の低下幅が大きい背景には、仕事と家庭の両立環境の整備が進み、若い年代ほど就業希望を叶える妻が増えていることで、専業主婦という母集団の性質が変化していることがあげられる。
図表5 就業希望のある専業主婦の非求職理由(2022年) また、就業希望のある専業主婦が求職活動をしていない理由を見ると、全体では「出産・育児のため」(35.7%)や「適当な仕事がありそうにない」(33.7%)が3割を超えて多い(図表5)。

年齢階級別には、若いほど「出産・育児のため」が多く、25~34歳では75.0%、35~44歳では58.5%を占めて圧倒的に多い。一方、年齢とともに「適当な仕事がありそうにない」が増え、45歳以上では4割台を占めて最多となる。また、高年齢層では「健康上の理由のため」も増え、55歳以上では約1割を占める。

つまり、依然として、出産・育児期と重なる年代では、仕事と家庭の両立の困難さから就業をあきらめている女性が少なからず存在しており、出産・育児期にキャリアを中断したことは、その後の「適当な仕事がありそうにない」という状況にも結びついている様子がうかがえる。

5――夫の年収階級別に見た特徴

5――夫の年収階級別に見た特徴~専業主婦世帯は再雇用等で300万円未満層が約3割へ増加

夫婦のいる世帯の夫の年収分布を見ると、2002年では、いずれの世帯でも年収500万円~699万円を中心に分布しており、専業主婦世帯では高収入層や低収入層が、共働き世帯では中間層がわずかに多い傾向はあるものの、世帯による大きな違いは見られない(図表6)。

ところで、日本では古くから「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という価値観が存在することで、専業主婦世帯の夫は高年収である(夫が高年収であると妻は非就業)という印象もあるのかもしれない。一方で2002年のデータを見ると、その図式は成り立っていないことが分かる。

なお、既出レポートで見た通り2、夫が高収入であるほど、妻の就業率は低下する傾向はあるのだが、近年では、夫の収入の多寡によらず働く妻が増えているために、夫の年収が1,500万円以上でも妻の約6割は就業している。つまり、夫が高年収でも妻は就業している世帯の方が多い。

2022年でも同様に、いずれの世帯でも夫の年収は年収500万円~699万円を中心に分布している。また、共働き世帯については2002年とおおむね変わらない(各年収階級の変化幅は1%程度)。

一方、専業主婦世帯については、300万円未満の比較的低年収層が増え(2002年20.4%→2022年27.9%で+7.5%pt)、1,000万円以上の高年収層がやや増えることで(同9.8%→同12.2%で+2.5%pt)、300万円~1,000万円未満の中間層が減っている(同69.8%→同59.8%で▲10.0%pt)。この背景には、3節で見たように、専業主婦世帯が共働き世帯と比べて高齢化していることで、定年後の再雇用といった雇用形態で働く夫が増えていることなどがあげられる。
図表6 世帯類型別に見た夫婦のいる世帯の夫の年収分布の変化
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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