2023年08月21日

FRBは巨額の債務超過もドルの信認は揺るがず~日銀の出口戦略への参考となるか~

金融研究部 客員研究員 小林 正宏

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■要旨
 
  • FRBはインフレ抑制のため金融引き締めに転じ、2022年3月から政策金利であるFF金利の誘導目標水準を順次引き上げ、2023年7月には5.25~5.50%となった。
     
  • リーマン・ショック後の量的緩和やコロナ対応でFRBのバランスシートの規模は最大時で9兆ドル近くに膨らんだ。その後、量的引き締めで保有する米国債やMBSを縮小しているが、2023年8月16日時点でなお総資産は8兆ドル余となっている。
     
  • 市場への資金供給量が拡大した中で政策金利を誘導するため、FRBは準備預金への付利水準を引き上げる等して対応している。この負債サイドの資金調達コストが利上げに伴い急上昇する一方、保有する米国債やMBSは固定利付で低金利のものが大半で、逆鞘が拡大する中、2022年決算で、事実上の債務超過額に相当する繰延資産は188億ドルとなった。
     
  • FRBは繰延資産を計上した他、保有する有価証券の評価損も1兆ドルを超えることを公表していたが、その後の赤字幅の拡大ともども、大きな話題にはなっていない。ドルの実質実効為替レート、対円の相場ともに影響は受けておらず、中央銀行の財務の悪化により通貨の信認が揺らぐような事態には至っていない。
     
  • 日本銀行も異次元金融緩和でバランスシートが拡大し、2023年7月末時点で572兆円余の日本国債(2~40年債)を保有している。その満期構造はFRBより若干短めとなっているが、FRBが金融緩和の出口において財務が悪化しても通貨の信認が揺らいでいないことは、将来日本銀行が同様の局面に差し掛かった際の参考になるだろう。


■目次

1.FRBの総資産と政策金利
2.利上げのFRBの財務への影響と米ドルへの信認
3.日本銀行への示唆
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金融研究部   客員研究員

小林 正宏 (こばやし まさひろ)

研究・専門分野
国内外の住宅・住宅金融市場

経歴
  • 【職歴】
     1988年 住宅金融公庫入社
     1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
     1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
     2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
     2022年 住宅金融支援機構 審議役
     2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
          7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)

    【加入団体等】
    ・日本不動産学会 正会員
    ・資産評価政策学会 正会員
    ・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師

    【著書等】
    ・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
    ・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
    ・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
    ・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など

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