2023年07月31日

経過措置適用企業の進捗状況と株価~東証市場再編後の課題~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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東京証券取引所は、2022年4月4日の新市場区分への移行に伴い設置した経過措置について、当初は終了時期を明確化せず「当面の間」としていた。しかし、2023年4月1日に改正規則を施行し、2025年3月以降に順次終了することを決定した。
 
本稿では、2023年7月時点の経過措置適用企業の進捗状況をまとめたうえで、各進捗状況に該当する企業の株価推移について確認した。

■上場会社数に占める経過措置適用企業の割合は14.5%

■上場会社数に占める経過措置適用企業の割合は14.5%

図表1は、東証の公表資料から市場別の上場会社数と上場維持基準への適合計画を開示した企業数をまとめたものである。
図表1 各市場に占める経過措置適用企業の割合
2022年4月4日の新市場区分移行時は、プライム市場上場1,838社のうち295社(全体の16.1%)が、上場維持基準適合のための計画書を開示し、経過措置が適用された。3市場合計では3,765社のうち549社(全体の14.6%)が経過措置適用企業だった。その後、上場維持基準に適合した企業もあれば、新たに基準未達と判断された企業も出てきており、直近の2023年7月では、プライム市場上場1,833社のうち282社(全体の15.4%)、3市場合計3,811社のうち554社(全体の14.5%)が経過措置の適用を受けている。

■経過措置適用企業の基準達成に向けた進捗状況

■経過措置適用企業の基準達成に向けた進捗状況

では、プライム市場に上場している経過措置適用企業について直近の進捗状況を確認していきたい。図表2は、2023年7月時点までに企業が開示している最新の「適合計画書」をもとに、流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金の上場維持基準に対する進捗状況と計画期間について確認したものである。縦軸を赤枠で囲った数字は各項目のプライム市場の上場維持基準である。赤色は上場維持基準を達成した企業(適合見込みを含む)、灰色は未達の企業、青色は後述するスタンダード市場への選択申請を決議した企業である。
図表2 基準達成に向けた進捗状況

■直近の適合計画書開示後の株価推移は

■直近の適合計画書開示後の株価推移は

東証は、今回の経過措置の終了時期の明確化に伴い、救済措置として市場再編前に市場第一部に所属していたプライム市場上場企業を対象に、2023年4月1日~9月29日までの6か月間は審査なしでスタンダード市場へ移行できる機会を設けた。筆者が各社公表資料を確認したところ、この救済措置を利用し、スタンダード市場への選択申請を決議した上場企業は2023年7月27日時点で62社あり、プライム市場の未達企業全体の21%を占めた。(6月末時点で東証に申請を行った企業は47社。『市場区分の再選択一覧(2023年6月末時点)』 )
 
図表3は、経過措置適用企業が直近で適合報告書を開示した日を基準に、株価の推移をまとめたものである。
図表3 適合計画書開示後の株価推移
「④スタンダード市場への選択申請を決議した企業」の株価は、開示翌営業日に約3%対TOPIXで下落し、その後も期間中5~6%対TOPIXで下落して推移した。スタンダード市場を選択した理由は企業によって違うものの、とりあえず株式市場ではネガティブに受けとめられたようだ。
 
上場維持基準の判定基準日は、売買代金が毎年12月末、売買高は毎年6月末と12月末、それ以外の項目は各社の決算期末となる。そのため、「③適合企業」には3月の決算期末が判定基準日となり、今回上場維持基準への適合を開示した企業が多く含まれる。それにもかかわらず、「③適合企業」の株価はほぼTOPIXと同じような推移をしており、適合計画書開示日に適合したことを開示したことだけでは、好感している様子は確認できなかった。
 
そこで、新市場区分がスタートした2022年4月4日時点で経過措置の適用を受け、プライム市場に上場した295社のうち、上場廃止などで経過措置を撤回した4社を除いた291社について、新市場区分への移行基準日である2021年6月末を基準としてやや長めの株価の推移を確認した。
図表4 移行基準日(2021年6月末)以降の株価推移
このように確認してみると、「③適合企業」の株価は基準日以降右肩上がりで上昇しており、直近の2023年6月末時点では約50%対TOPIXで上昇していた。上場維持基準適合に向けての各企業の取り組みが投資家から好意的に評価されたことで株価が上昇し、その結果、上場維持基準に適合したと考えられる。従って、こうした取り組みが既に株価に反映されているため、上場維持基準に適合したこと自体の開示は、投資家から特段評価されなかっただけなのかもしれない。この結果を踏まえると、企業価値向上に向けて真摯な取り組みを継続し、かつ、その成果をきちんと投資家にアピールしていくことが、継続的な株価上昇につながるのではないだろうか。

■まとめ

■まとめ

本稿では、経過措置適用企業の進捗状況と、進捗状況別の株価推移について確認した。2023年7月時点でプライム市場上場企業のうち282社が経過措置の適用を受けている。そのうち62社が既に救済措置のスタンダード市場への選択申請をしていた。この経過措置適用企業の中には、特に流通株式時価総額について現時点においても上場維持基準を大きく下回っている企業が多い。そのため、9月29日の申請期限を前に、8月以降もスタンダード市場への選択申請を行う企業が増えることが考えられる。さらに、上場維持基準に適合していても、自社の経営戦略と照らし合わせたうえで、あえてスタンダード市場を選択する企業も出てくるかもしれない。経過措置適用企業の進捗状況とともに、スタンダード市場への選択申請を決議する企業の動向についても引き続き注目していきたい。
 
 

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2023年07月31日「基礎研レター」)

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