コラム
2023年06月09日

経過措置適用企業の進捗状況~東証市場再編後の課題~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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東京証券取引所は、2023年1月30日に市場再編に伴い設置した経過措置について、当初未定としていた計画期間の終了時期を、2025年3月以降順次終了とする見直しを発表し、2023年4月1日に改正規則を施行した1
 
図表1は、経過措置適用企業の状況についてTDnetに開示された各社の資料をもとに筆者が集計したものである。2023年5月31日時点で、プライム、スタンダード、グロースの3市場合計3,795社のうち、経過措置適用中のため適合計画書を提出した企業は660社あり、そのうち504社(適合計画書を提出した企業の76%)が依然として上場維持基準未達であった。
図表1 各市場に占める経過措置適用企業の割合
図表2は、プライム市場に上場している企業の直近の進捗状況である。2023年5月末までに経過措置適用企業が開示している最新の「適合計画書」をもとに、流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金の上場維持基準に対する進捗状況と計画期間について確認したものである。縦軸を赤枠で囲った数字は各項目のプライム市場の上場維持基準である。赤色は上場維持基準に適合した企業(適合見込みを含む)、灰色は未達の企業、青色は後述するスタンダード市場への選択申請を決議した企業である。
図表2 基準達成に向けた進捗状況
このように上場維持基準に対する進捗状況を確認すると、上場基準との乖離がかなり大きく、現実的には基準達成が難しいと思われる企業も少なくない。特に、流通株式時価総額で上場基準との乖離が大きい企業が多い。時価総額を大きくするためには、基本的に企業業績の量的な拡大とともに、当期利益を継続的に増加させていく等のことが不可欠であり、そう簡単にできることではない。「適合計画書」の内容は、投資家が納得できる実効性のあるものである必要がある。
 
東証は、今回の計画期間の終了時期の明確化に伴い、救済措置として市場再編前に市場第一部に所属していたプライム市場上場企業を対象に、2023年4月1日~9月29日までの6か月間は審査なしでスタンダード市場へ移行できる機会を設けている。筆者が各社公表資料を確認したところ、この救済措置を利用し、スタンダード市場への選択申請を決議した上場企業は31社あり、プライム市場の未達企業全体の12%を占めた。(5月末時点で東証に申請を行った企業は30社。『市場区分の再選択一覧(2023年5月末時点)』2)31社のうち、30社は流通株式時価総額が基準に対して未達であった。図表3は、スタンダード市場選択の理由と進捗状況の一例をまとめたものである。
図表3 『スタンダード市場選択の理由』と進捗状況の一例
スタンダード市場選択の主な理由としては、上場基準との乖離による基準達成の難しさ、終了時期の明確化による上場廃止リスクを理由にあげている企業が多かった。東証の決定した終了時期以降も会社が当初定めた計画期間までは監理銘柄として市場に残ることはできるが、実際に監理銘柄になった場合、株価や株式売買高の面で通常よりも取り組みの結果が反映されにくくなる可能性があることを理由としてあげた企業も見られた。
 
スタンダード市場への選択申請は今年9月まで可能ではあるものの、3月本決算企業の多くは6月の株主総会までに、対応を決定するものと思われる。引き続き注目していきたい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2023年06月09日「研究員の眼」)

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