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- 少子化対策の変遷と課題
2023年07月27日
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1――はじめに~次元の異なる少子化対策が打ち出されるが、国民の期待は高まらない
岸田政権の新しいこども・子育て政策の全容が発表された。6月16日に閣議決定された骨太の方針2023では、岸田政権の看板政策である『こども・子育て政策は最も有効な未来への投資であり、「こども未来戦略方針」に沿って、政府を挙げて取組を抜本強化し、少子化傾向を反転させる』と明記された。ただ、政権の一丁目一番地の政策となった子育て政策だが、国民の反応は思った程良くない。
当社が2023年3月に行った調査によると、政府の「次元の異なる(異次元の)少子化対策」に期待している層は20.3%、期待していない層は44.7%となり、少子化対策への期待が高まっていないことが明らかとなった。続いて、期待していない理由を聞いてみると「政府の課題認識の甘さ」(38.8%)、「これまでも上手くいっていない」(38.5%)、「そもそも結婚をしない人が増えている」(34.6%)、「スピードが遅い」(27.7%)、などが理由として挙げられる。
本稿では、日本の少子化対策の変遷を振り返り、どのような対策が強化され残された課題は、どこにあったのかを探ってみたい。
当社が2023年3月に行った調査によると、政府の「次元の異なる(異次元の)少子化対策」に期待している層は20.3%、期待していない層は44.7%となり、少子化対策への期待が高まっていないことが明らかとなった。続いて、期待していない理由を聞いてみると「政府の課題認識の甘さ」(38.8%)、「これまでも上手くいっていない」(38.5%)、「そもそも結婚をしない人が増えている」(34.6%)、「スピードが遅い」(27.7%)、などが理由として挙げられる。
本稿では、日本の少子化対策の変遷を振り返り、どのような対策が強化され残された課題は、どこにあったのかを探ってみたい。
2――1970年代以降の少子化対策は「仕事と家庭の両立支援」を中心に展開
日本の少子化は1970年代から始まったとされる。ただ、国民に広く認識されるようになったのは、合計特殊出生率(以下、出生率)が1.57と過去最低を記録した、いわゆる「1.57ショック」が起きた1990年であると言われている。日本では、ここから「エンゼルプラン」(1994年)を始めとする少子化対策が本格的にスタートし、仕事と育児の両立支援を中心に展開されていく。
近年では、出会い・結婚・妊娠・出産・子育てといった、各段階に対応した総合的な少子化対策が推進され、地方創生や教育政策とも結び付いて、少子化対策の幅は広がりを見せている。しかし、それら対策の恩恵は、保育所施設の整備が進む大都市の一部が受けるに留まり、全体的な出生率の回復にはつながっていない[図表1]。
近年では、出会い・結婚・妊娠・出産・子育てといった、各段階に対応した総合的な少子化対策が推進され、地方創生や教育政策とも結び付いて、少子化対策の幅は広がりを見せている。しかし、それら対策の恩恵は、保育所施設の整備が進む大都市の一部が受けるに留まり、全体的な出生率の回復にはつながっていない[図表1]。
なお、1990年代の少子化対策には、出生を促すような目標は掲げられていなかった。なぜなら、戦前の「産めよ殖やせよ」という人口政策への反省があり、女性の社会進出への足かせになりかねないとの懸念があったからだ(桐原(2021))。そのため、出生後の環境整備に重点が置かれ、保育サービスや育児休業制度の充実などの両立支援策が対策の中心となった。
しかし、出生率は過去最低を更新し続け、2003年には1.30を下回る。そこで政府は、2003年に次世代育成支援対策推進法と少子化社会対策基本法を作り、少子化対策の焦点を出生率向上に当てる。ここから、若者の自立支援や職場環境の整備、地域における特色ある子育て支援が開始された。
さらに2012年には、子ども・子育て関連3法が成立し、消費税引き上げで確保される追加の財源を、子ども・子育て支援の「量的拡充」と「質の向上」の実現に充てることが決まるなど、財源面でも手厚く措置が講じられた。2015年には「希望出生率1.83」という数値目標も初めて打ち出される。諸外国を見ても出生率を政策目標にしている国は珍しい。その後も、関連政策の拡充が続き、2017年には幼児教育・保育無償化の方針が打ち出されている。
なお、これまでの少子化対策で改善された点も多い。例えば、保育サービスの拡充は、当初から中心的な取組みとして量的拡充等が進められたが、1990年には22,703か所の保育所等に約198万人の利用定員数しかなかったものが、2022年には39,244か所の保育所等に約304万人の利用定員数を抱えるまでに拡大している。
また、育児休業制度は1992年4月にスタートし、男女労働者の雇用継続と仕事と家庭の両立を支援する制度として、その対象や給付が拡充されている。2010年度から男性の子育て参加や育児休業取得の促進等を目的とした「イクメンプロジェクト」が始まり、現在では男性の育児休業取得を促進する取組も行われている。女性のM字カーブの解消が進んだ意義も大きいだろう。
しかし、残念ながら出生率の回復にはつながってはいない。2023年には出生数が80万人を割り込み、過去最低の1.26に低下している。その原因の1つとして、多くの識者から指摘されているのが未婚化・晩婚化である[図表2]。
しかし、出生率は過去最低を更新し続け、2003年には1.30を下回る。そこで政府は、2003年に次世代育成支援対策推進法と少子化社会対策基本法を作り、少子化対策の焦点を出生率向上に当てる。ここから、若者の自立支援や職場環境の整備、地域における特色ある子育て支援が開始された。
さらに2012年には、子ども・子育て関連3法が成立し、消費税引き上げで確保される追加の財源を、子ども・子育て支援の「量的拡充」と「質の向上」の実現に充てることが決まるなど、財源面でも手厚く措置が講じられた。2015年には「希望出生率1.83」という数値目標も初めて打ち出される。諸外国を見ても出生率を政策目標にしている国は珍しい。その後も、関連政策の拡充が続き、2017年には幼児教育・保育無償化の方針が打ち出されている。
なお、これまでの少子化対策で改善された点も多い。例えば、保育サービスの拡充は、当初から中心的な取組みとして量的拡充等が進められたが、1990年には22,703か所の保育所等に約198万人の利用定員数しかなかったものが、2022年には39,244か所の保育所等に約304万人の利用定員数を抱えるまでに拡大している。
また、育児休業制度は1992年4月にスタートし、男女労働者の雇用継続と仕事と家庭の両立を支援する制度として、その対象や給付が拡充されている。2010年度から男性の子育て参加や育児休業取得の促進等を目的とした「イクメンプロジェクト」が始まり、現在では男性の育児休業取得を促進する取組も行われている。女性のM字カーブの解消が進んだ意義も大きいだろう。
しかし、残念ながら出生率の回復にはつながってはいない。2023年には出生数が80万人を割り込み、過去最低の1.26に低下している。その原因の1つとして、多くの識者から指摘されているのが未婚化・晩婚化である[図表2]。
欧米では、未婚でも(法的な婚姻関係になくても)出産するケースが多く見られるが、日本では、結婚後に出産に至るケースが大多数である。夫婦が理想とする子どもの数は、2021年時点で2.25人と5年前(2.10人)から大きく低下しているわけではない。やはり母数の減少、すなわち婚姻の減少が、日本の出生率低下に大きな影響を及ぼしている。
3――少子化支援の枠組みからも漏れてしまった非正規雇用
未婚化・晩婚化の原因は、「雇用・所得の悪化」「教育費の負担」「仕事と育児両立の難しさ」など様々である。しかし、日本の少子化対策は、これまで「大卒、大都市、大企業」の働き手の両立支援を中心としたもので対象の広がりを欠いていた。そして、日本では親と同居を続ける独身者が多く、結婚相手に恋愛感情より経済的な要素を強く求めるなど、子育てにおける親の責任は将来にわたって重かった。そのため、欧米のような両立支援だけでは、少子化を食い止めるには至らなかったのだろう。
加えて、非正規雇用が拡大するなど、支援の行きわたらない層が拡大したことも挙げられる。25歳から34歳の子育て世代について、今の若者(2022年)を親の世代(1990年代)と比べてみると、非正規雇用者の割合は、男性で4.3%から14.3%、女性で28.2%から31.4%に上昇している。これは、30年ほど前の親の世代には、結婚や子育てを考える男性の95.7%が正規雇用であったが、現在では85.7%まで低下し、14.3%が非正規雇用で不安定な収入環境に置かれていることを意味する。
実際、日本の所得分布を見ると、平均年収は443万円となっているが、若者が一定割合を占めるだろう400万円以下の層が、この20年ほどの間に急激に増えている[図表3]。不安定な非正規雇用者の増加と共に、中間層の没落が起きている現状が鮮明に見られる。
加えて、非正規雇用が拡大するなど、支援の行きわたらない層が拡大したことも挙げられる。25歳から34歳の子育て世代について、今の若者(2022年)を親の世代(1990年代)と比べてみると、非正規雇用者の割合は、男性で4.3%から14.3%、女性で28.2%から31.4%に上昇している。これは、30年ほど前の親の世代には、結婚や子育てを考える男性の95.7%が正規雇用であったが、現在では85.7%まで低下し、14.3%が非正規雇用で不安定な収入環境に置かれていることを意味する。
実際、日本の所得分布を見ると、平均年収は443万円となっているが、若者が一定割合を占めるだろう400万円以下の層が、この20年ほどの間に急激に増えている[図表3]。不安定な非正規雇用者の増加と共に、中間層の没落が起きている現状が鮮明に見られる。
このような状況は、女性の社会進出は一定進んだものの、十分な所得を得て働き続けるには、まだ不十分な環境で起きている。「男性が家計を支えるべきだ」という役割分業意識が変わらなければ、結婚は増えない。社会全体のパイを広げ、分配を広げる中で、収入が不安定で増えないという男性を、どのように結婚という決断まで持っていくか、そのような男性と結婚しても問題ないと言える女性を、どうやって増やしていくかに掛かっている。
国民が政府の少子化対策に否定的な見方をする背景には、将来に対する期待の低さが共通認識となっていることを感じる。すなわち、所得が増えて豊かな生活ができる、そうした将来展望が描けない諦めだ。少子化が進んだ背景には未婚化・晩婚化があるが、その裏には雇用の非正規化が進み、低所得に陥る若者が増えたことがある。経済的に結婚や子供を諦める人が増えていく中、日本では人口減少が進み、過去のような高成長を実現できる見込みが薄れている。そのため、政府がどれだけ子供対策を強化しようとも、事態は改善して行かないという悲観が根付いていると思われる。
国民が政府の少子化対策に否定的な見方をする背景には、将来に対する期待の低さが共通認識となっていることを感じる。すなわち、所得が増えて豊かな生活ができる、そうした将来展望が描けない諦めだ。少子化が進んだ背景には未婚化・晩婚化があるが、その裏には雇用の非正規化が進み、低所得に陥る若者が増えたことがある。経済的に結婚や子供を諦める人が増えていく中、日本では人口減少が進み、過去のような高成長を実現できる見込みが薄れている。そのため、政府がどれだけ子供対策を強化しようとも、事態は改善して行かないという悲観が根付いていると思われる。
4――少子化問題は総合対策、将来ビジョンを決める決断が必要
少子化対策では、これをやれば解決するという単純明確な処方箋がない。結婚観・家族観が多様化する中では、支援の枠を広げることが必要になる。共働き・片働き・ひとり親世帯など、あらゆる世帯を対象として、出会い・結婚・妊娠・出産・子育て・教育など、すべてのライフステージを支援することが重要である。
また、上記で見てきたように経済的な支援だけでなく、先行きの悲観論を打破することも極めて重要だ。若者雇用の安定や賃金上昇、経済的負担の軽減まで幅広く施策を展開し、結婚・子育てを諦める人をできるだけ少なくしていく必要がある。そして、若者への分配を増やし、少子化対策の財政規模を拡大することが必要だ。日本では、家族関係社会支出の対GDP比が2.01%と、諸外国の3%程度と比べて明らかに劣後している。財政は厳しい状態にあるが、世界で最も深刻な少子化に陥っている国からすれば少なすぎるだろう。
なお、本件とは少し離れるが、外国人政策について現実的な政策に移行すべき時期が来た言える。将来の日本は、人口減少で経済・労働・産業などあらゆる面で問題が出て来る。外国人政策をどうするのかを決めないと、日本は「未来予想図」を描くことはできない。
仮に、日本が移民政策を完全にやらないという決断をするのであれば、少子化や人口減少から生じる問題は、今の延長線上での話ではなくなる。本当に異次元の対策を始めないと袋小路に陥ってしまう。それとは逆に、外国人労働の受け入れを促進し、移民などにも寛容な政策にシフトしていくのであれば、外国人に日本を選んでもらえるよう、日本の習慣や法制度などを変えていく必要がある。
政策として少子化対策に本腰を入れるのであれば、今まで先送りしてきた議論を決め切ることも、必要ではないだろうか。
このレポートは、「週刊 金融財政事情」2023.7.18号の内容を加筆修正したものです。
また、上記で見てきたように経済的な支援だけでなく、先行きの悲観論を打破することも極めて重要だ。若者雇用の安定や賃金上昇、経済的負担の軽減まで幅広く施策を展開し、結婚・子育てを諦める人をできるだけ少なくしていく必要がある。そして、若者への分配を増やし、少子化対策の財政規模を拡大することが必要だ。日本では、家族関係社会支出の対GDP比が2.01%と、諸外国の3%程度と比べて明らかに劣後している。財政は厳しい状態にあるが、世界で最も深刻な少子化に陥っている国からすれば少なすぎるだろう。
なお、本件とは少し離れるが、外国人政策について現実的な政策に移行すべき時期が来た言える。将来の日本は、人口減少で経済・労働・産業などあらゆる面で問題が出て来る。外国人政策をどうするのかを決めないと、日本は「未来予想図」を描くことはできない。
仮に、日本が移民政策を完全にやらないという決断をするのであれば、少子化や人口減少から生じる問題は、今の延長線上での話ではなくなる。本当に異次元の対策を始めないと袋小路に陥ってしまう。それとは逆に、外国人労働の受け入れを促進し、移民などにも寛容な政策にシフトしていくのであれば、外国人に日本を選んでもらえるよう、日本の習慣や法制度などを変えていく必要がある。
政策として少子化対策に本腰を入れるのであれば、今まで先送りしてきた議論を決め切ることも、必要ではないだろうか。
このレポートは、「週刊 金融財政事情」2023.7.18号の内容を加筆修正したものです。
【参考文献】
・桐原康栄(2021)「少子化の現状と対策」,国立国会図書館,調査と情報-ISSUE BRIEF-(2021.12. 7)
・久我尚子(2023)「少子化進行に対する意識と政策への期待(2)」,ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2023.4.27
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年07月27日「基礎研レポート」)

03-3512-1837
経歴
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
矢嶋 康次のレポート
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