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大学の不動産戦略

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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1――はじめに
こうした状況を踏まえ、弊社は、野村不動産ソリューションズ株式会社と共同で、全国の国公立大学および私立大学を対象に「大学の不動産戦略に関するアンケート調査」(以下、本調査)を実施した1。
本稿では、本調査の集計結果の一部を紹介し、大学の不動産戦略を概観したうえで、不動産市場への影響等について考察したい。まず、大学の保有施設とキャンパスの整備方針について概観する。続いて、大学の不動産投資(保有不動産の賃貸経営など)を概観し、不動産市場への影響等について考察する。
1 ・アンケート送付数;日本国内の国公立大学および私立大学 817校 [国公立大学194校・私立大学623校]
・回答数;107校(回収率:13%)[国公立大学30校・私立大学77校]
・調査時期;2022年7月~10月 ・調査方法:手交・郵送による調査票の送付・回収
「野村不動産ソリューションズ 法人営業本部 CRE 情報部 ニッセイ基礎研究所と共同で大学の不動産戦略におけるアンケートを実施」
2――大学の保有施設とキャンパスの整備方針
まず、大学経営における不動産戦略の位置づけを確認したい。本調査で「中長期計画等の内容」について質問したところ、「カリキュラム・教育改革・学習支援」(88%)が最も多く、次いで「社会連携、地域連携事業」(87%)、「財務改善および財政計画」(82%)、「校舎、施設設備の整備・拡充」(81%)が多かった(図表-1)。
日本私立学校振興・共済事業団「学校法人の経営改善方策に関するアンケート」(2018年4月実施)によれば、「学校法人の中長期計画の内容」について、「財務・財政計画」(91%)が最も多く、次いで「施設・設備の整備・拡充」(89%)、「カリキュラム・教学改革」(88%)となっている。
学校運営において、校舎や保有施設の整備は、財政計画やカリキュラム策定等とともに、重要な位置づけにあると言える。
また、本調査では、「キャンパス移転や拡充、サテライトキャンパス設置」との回答が22%を占めた。今後、約2割の大学がキャンパス再編を予定していることが分かった。
本項では、大学の保有施設の整備方針に関して、「(1)保有施設に関する現状認識」、「(2)施設の新設・改築の実施方針」、「(3)施設整備に期待する効果」の3点を確認する。
(1) 保有施設に関する現状認識
本調査で「保有施設についての現状認識および問題意識」について質問したところ、「施設の老朽化が進んでおり、対処を考えている」(77%)が最も多かった(図表-2)。
文部科学省「国立大学等施設の経年別保有面積」(2022年5月時点)によれば、国立大学の保有施設面積約2,900万m2のうち、経年が40年以上の施設(面積)は45%を占めている(図表-3)。また、日本私立学校振興・共済事業団「今日の私学財政」によれば、建物の減価償却比率50%以上の法人は、2016年度の180法人から2020年度の271法人へと増加している(図表-4)。私立大学においても、保有施設の老朽化が進んでいる。こうした現状から、約8割の大学で老朽化した校舎等への対応が課題であることが分かった。
また、「未利用・低利用となっている施設がある」との回答も約4割に達した(図表-2)。
会計監査院「平成21年決算監査報告」によれば、一部の国立大学に対して、未利用施設および未利用地について、合理的な理由がない場合には具体的な売却等の処分計画を策定するよう要求している。その後、一部の国立大学は未利用地等の売却を実施したものの、利用頻度の低い施設の有効活用に関して問題意識を持つ大学が、依然として多いことがうかがえる。今後、資産の有効活用の観点から、大学が資産売却等を計画し、不動産市場の売り手として存在感が増す可能性がある。
本調査で「施設の新設・改築の実施方針」について質問したところ、「施設の新設を過去5年以内に実施済み、もしくは現在、実施中」が43%、「施設の改築を今後、検討している」が43%、「施設の改築を過去5年以内に実施済み、もしくは現在、実施中」が36%、「施設の新設を過去5年以内に実施済み、もしくは現在、実施中」が32%を占めた(図表-5)。
大学改革支援・学位授与機構「大学基本情報」によれば、国公立大学は、過去10年(2013年度~2022年度)で年間約14法人(全体の1割)が保有施設の新築・改築を行い、建築総面積は平均で約5万m2となっている(図表-6)。
「当面、新設・改築の予定はない」は約2割にとどまっており(図表-5)、多くの大学が保有施設の整備を継続的に実行する方針であることが分かった。
2 上記図表-5において、「当面、新設・改築の予定はない」と回答した大学を除く全ての大学が対象。
続いて、本項では、大学のキャンパスの整備方針に関して、「(1)キャンパスの新設や移転、拡充、縮小等の方針」と「(2)サテライトキャンパス3設置の現状」を確認する。
3 大学の本部とは離れた別の場所に、設置されたキャンパス(研究科あるいは学部の授業を行うための教室、会議室等)
本調査で「キャンパスの新設や移転、拡充、縮小等の方針」について質問したところ、「現時点では、キャンパス移転や拡充、縮小等を行う意向はない」(64%)が最も多く、次いで、「現所在地で、キャンパスを拡充したい」(25%)が多かった。一定程度の大学がキャンパスの拡張意向を持っていることが分かった。
学生が大学を選択する項目の一つに、通学の利便性が高く、アルバイトや就職活動等も容易な都心立地のキャンパスが考えられる。近年、こうした学生の志向を受け、志望者の増加等を意図して、郊外部から東京23区内へキャンパスを移転する大学が多くみられた(図表-10)。
こうしたなか、2018年に施行された「地方大学振興法4」では、東京23区の大学の定員増が、原則10年間(2028年まで)認められなくなった。ただし、(1)既存学部の統廃合により新学部を設置する場合、(2)留学生・社会人の定員増を行う場合、(3)他の学校法人が東京23区内で減らす定員を譲り受ける形で学部の新設や定員を増やす場合は、例外規定として認められる5。
本調査において、「都心部にキャンパスを移転したい」(7%)、「都心部に新たなキャンパスをつくりたい」(5%)との回答が一定数みられた(図表-9)。一部の大学は、より多くの学生を確保するため、都心部にキャンパスを移したい意向があると推察される。
一方、「キャンパスを縮小・閉鎖したい」(1%)は、少数に留まった。生徒数の減少等を理由に、キャンパスの縮小・閉鎖を計画している大学は、現状では少ないと考えられる。
4 地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律
5 また、東京都や日本私立大学連盟等は、定員抑制を撤廃する要望を表明している。
東京都「東京23区の大学における定員抑制等に係る緊急要望」(2022年10月18日)
一般社団法人日本私立大学連盟「東京23区における大学規制に関する要望」(2022年10月28日)
(2023年07月26日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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