2023年07月19日

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1. はじめに

仙台のオフィス市場では、昨年は大規模ビルの新規供給がないなか、空室率は低下し、成約賃料は概ね横ばいでの推移となった。一方、今年の新規供給面積は13年ぶりに1万坪を超えて約1.5万坪に達し、今後についても複数の大規模ビル開発が計画されている。本稿では、仙台のオフィスの現況を概観した上で、2027年までの賃料予測を行う。

2. 仙台オフィス市場の現況

2. 仙台オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、仙台市の空室率(2023年6月時点)は4.6%となり、前年比▲0.5%低下した(図表-1)。仙台のオフィス市場では、昨年は大規模ビルの新規供給がないなか、コロナ禍からの経済正常化に伴うオフィスの新規開設や拡張移転等の動きが広がり、需給が改善した。

空室率をビルの規模1別にみると、「大規模2.7%(前年比▲0.6%)」、「大型5.0%(同▲0.4%)」、「中型6.7%(同▲1.2%)」、「小型10.3%(同+1.2%)」となり、「小型」を除く全ての規模が前年から低下した(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 仙台オフィスの規模別空室率
全国主要都市では、オフィス床の解約や事業拠点の一部閉鎖などに伴い、空室面積が増加傾向にあり、成約賃料にも頭打ち感がみられる。2022年下期の仙台市の成約賃料は、前期比▲4.7%、前年同期比+0.5%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2022年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、東京都心5区、大阪、名古屋が上昇、仙台、札幌、福岡が低下と分かれる結果となった。成約賃料は、札幌市が上昇、東京都心5区が下落、その他の都市は概ね横ばいとなった。仙台市は主要都市で一番大きく空室率が低下したが、成約賃料は横ばいであった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した仙台市の賃料サイクル2は、2010年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いた。その後、2020 年下期から「空室率上昇・賃料下落」局面に移行したが、2022年に入り、再び空室率が低下している(図表-5)。
図表-4 2022年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 仙台オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、仙台ビジネス地区では、2022年末の賃貸可能面積(総供給面積)は 47.4万坪(前年比+0.03万坪)となり、前年とほぼ同水準であった。一方、2022年末のテナントによる賃貸面積(総需要面積)は45.2万坪(前年比+0.9万坪)となり、空室面積は2.2万坪(前年比▲0.9万坪)と前年比▲29%減少した(図表-6)。
図表-6 仙台ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 仙台ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
2022年末時点で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「駅前地区(35.7%)」で、次いで「一番町周辺地区(31.0%)」、「駅東地区(15.1%)」、「県庁・市役所周辺地区(12.9%)」の順となっている(図表-8)。 「賃貸可能面積」は、新規供給がなく前年と同水準であった。これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「駅前地区」(同+0.4万坪)、「一番町周辺地区」(同+0.2万坪)、「駅東地区」(同+0.2万坪)で増加し、合計+0.9万坪となった(図表-9)。この結果、空室面積は、仙台ビジネス地区全体で▲0.9万坪の減少となった。
図表-8 仙台ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2022年)/図表-9 仙台ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2022年)
エリア別の空室率(2023年6月時点)を確認すると、「駅前地区5.0%」(前年比▲0.5%)、「県庁・市役所周辺地区5.2%」(同▲0.1%)、「周辺オフィス地区8.8%」(同▲0.2%)が低下した一方、「一番町周辺地区4.4%」(同+0.6%)と「駅東地区7.6%」(同+4.0%)は上昇した(図表-10左図)。

募集賃料は、「駅東地区(前年比+1.9%)」を除く全ての地区で下落し、「県庁・市役所周辺地区(同▲1.1%)」の下落率がやや大きくなっている(図表-10右図)。
図表-10 仙台ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 仙台オフィス市場の見通し

3. 仙台オフィス市場の見通し

3-1. 新規需要の見通し
(1)オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、2022 年の仙台市の転入超過数は+2,938人(前年比+28%)となり、転入超過が続いている(図表-11)。一方、2022年の宮城県の就業者数は120.6万人(前年比▲0.9万人)となり、3年連続で減少した(図表-12)。
図表-11 主要都市の転入超過数/図表-12 宮城県の就業者数
また、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、仙台市の生産年齢人口は、2015年以降、減少が続いている(図表-13)。
図表-13 仙台市の生産年齢人口
下では、仙台市のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東北地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(東北財務支局)は、2020年第2四半期に「▲39」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2023年第2四半期は「+10.0」となった(図表-14)。全国と比較した場合、コロナ禍による景況感の悪化幅は小さかったものの、その後の回復スピードはやや遅い傾向にある。

「従業員数判断BSI4」(東北財務支局)は、人手不足を表わす「+22.0」(2020 年第1四半期)から「+5.3」(第2四半期)へ大幅に低下したが、その後は上昇傾向で推移し2022年第4四半期には「+22.6」に達した。しかし、2023年に入ってから弱含みに転じ、2023年第2四半期は「+18.4」となり、全国平均(+22.6)を下回っている(図表-15)。
図表-14 企業の景況判断BSI(全産業)/図表-15 従業員数判断BSI(全産業)
仙台市では、人口の流入超過が継続しているものの、宮城県全体の就業者数は3年連続で減少し、仙台市の生産年齢人口も減少基調で推移している。また、東北地方の「企業の経営環境」と「雇用環境」はコロナ禍で受けたダメージから回復に向かっているものの、全国平均と比較して回復ペースが遅い傾向にある。以上のことを鑑みると、仙台市のオフィスワーカー数の拡大は今後も力強さに欠くことが予想される。

3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感 が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
(2)テレワークの進展に伴うワークプレイスの見直し
宮城県経済商工観光部雇用対策課「労働実態調査結果報告書」によれば、「テレワークの導入状況」について、「導入済み」との回答は2020年の22%から2022年の31%に増加した(図表-16)。

本社所在地が宮城県外(東京等)の企業に限定すると、「導入済み」との回答は50%に達している。産業別にテレワークの導入状況5を確認すると、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」(100%)や「金融業、保険業」(59%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(57%)では半数を超える水準となっている(図表-17)。

仙台においても、コロナ禍を経て、本社所在地が東京の企業や、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等を中心に、テレワークを導入する企業が増えているようだ。今後も、テレワークを採り入れた新たな働き方が定着し、仙台市でもワークプレイスを見直す動きが一定程度は広がる可能性があり6 、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。
5 「導入済み」と回答した割合
6 共同通信「メルカリ、仙台の拠点閉鎖へ オフィス見直し策の一環」(2023年3月29日)
図表-16 宮城県 テレワーク導入率/図表-17 宮城県 産業別テレワーク導入率
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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