2023年07月14日

2022年度 生命保険会社決算の概要

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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3利差益も減少~算定方法の変更によるヘッジコストの負担増加~
【図表-9】利差益の状況(大手中堅9社計)
【図表-10】利差益(逆ざや)状況の推移(大手中堅9社計)
利差益について、さらに詳しく見てみる(図表-9、10)。

これらの表の中の「基礎利回り」とは、基礎利益のうち、資産運用損益が貢献する部分の利回り換算であり、主に債券利息や株式配当金などの収入からなる(有価証券売却損益等は含まれないが、今年からヘッジコストはここで控除することとなっている。)。これを、契約者に保証している利率(予定利率)と比べて、上回る場合に利差益と呼び、下回る場合は利差損といってもいいが、一般には逆ざやと呼ぶ。 
 
2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2022年度は6,991億円と(新基準でみても)減少した(一部の会社はまだ逆ざや)。
 
多くの会社で利息配当金収入は増加したが、これは海外の高い金利を享受できる外債利息の増加によるものであろう。しかし2022年度から基礎利益でヘッジコストを負担するように改定が行われているため、そうした新基準で比較すると、まさにそのヘッジコストが増加したため、基礎利回りは低下している。

運用資産の中核である国内債券に関しては、ゼロ近くの金利が続いているので、たとえ年限の長い(=一般には利回りの高い)ものを多く保有したとしても、利回りは低下傾向にあると思われる。幾分上昇傾向にあるとはいえ、今の金利水準が続けば、利息収入に引き続き悪影響をもたらすことになるだろう。

その一方で、新型コロナ禍からの経済環境の回復もあって、株式配当金や投資信託の分配金などの増加が、債券の利回り低下を補っているのが現状と推測される。

(現時点では2022年度のそうしたさらなる内訳は未開示のため、状況からみた推測にすぎないが。)
 
一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。
 
基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存しているのがここ数年の現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて楽観はできない。ただし、2022年度は新型コロナ給付金の急増という一時的な要因が大きく、2023年度の予想としては、「危険差は回復、利差益は減少ないし横ばいで、全体として基礎利益はまずは増加(回復)」と予測している会社が多い。
 
4当期利益も減少~内部留保の割合は高いが、配当金額は相対的に増加
次に当期利益の動きをみる(図表-11)。基礎利益(①)は大幅に減少、キャピタル損益(②+③)も減少して、その合計で17,827億円と対前年度▲10,744億円の減少となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金の繰入額であり、9社中6社が、個人年金や終身保険など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっている。

これは逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額積み増し分である。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。

危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入は、基本的には保険業法に基づく統一の積立ルールに沿っているとはいえ、そのルールの範囲内での政策的な積み増しの判断の余地はある。それを見るため、これらを繰入・戻入する前のベースに修正した「当期利益」(表中(A))は前年度より▲3,121億円減少して11,356億円となっている。同じく政策要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態に、さらに戻せば、15,667億円(A')と前年度より▲8,307億円減少している。

さてこうした利益の使途であるが、上記の危険準備金、価格変動準備金などの合計である内部留保は減少している(内部留保の増加(B))。これに、追加責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)は10,240億円と、これも前年度より▲8,063億円減少している。
【図表-11】当期利益とその使途(大手中堅9社計)
一方、配当であるが、5,427億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなった。

このような見方をすれば、2022年度は「実質的な利益」の65%が内部留保に、残り35%が契約者への配当にまわっているとみることができ、利益が減少した分、配当への割合が相対的に高まっているが、引き続き内部留保の充実も着実に行われている。例えば、コロナ給付金が急増したからといって既存の準備金を取り崩す必要はなかったようだ。(なお、ここで算出した「内部留保」からは、いずれ株主配当も支出されることも、剰余の使い方として区別する必要があろうが、持ち株会社形態の場合どう評価するかなどの考慮が必要なので、こうした表においては無視した。)

配当還元の金額は、対前年▲244億円減少している。ほとんどの会社が配当は前年度決算から据置きとしている。(1社が一部増配)
5ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持、ESRの開示も一部の会社から始まる。
【図表-12】ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)
健全性の指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表-12である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の999.1%から955.0%と下がってはいるが、引き続き高水準にある。

2022年度は、また当期利益の使途でもふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が少々増加したが、その他有価証券の含み益が減少したため、マージン(=分子)は減少した。

一方リスク(=分母)の方では、資産運用リスクが前年度に引き続き若干減少している(さらなる詳細は不明だが、有価証券の時価下落によるリスク対象資産額の減少によるものか)。こうしてマージンとリスクがともに減少して、ソルベンシー・マージン比率は、ほぼ横ばいで高水準を維持している。
 
これまで現行方式によるソルベンシー・マージン比率の内訳をみることにより、保有リスクとそれに対する準備金等の対応状況は、ある程度窺い知ることができていたが、2022年度分からは、経済価値ベースのソルベンシー指標(ESR :Economic Solvency Ratio)を、大手4社グループなど一部の会社が開示し始めている。

これは新たな算出方法(例えば資産、負債とも経済価値、いわば時価ベースで評価するなど)による、会社のリスク量に対する自己資本の率であり、開示された大手社の数値はおよそ200%~250%程度である。全社が開示するのは2025年度とされている。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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