2023年07月14日

2022年度 生命保険会社決算の概要

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――保険業績(全社)

2022年度の全生命保険会社の業績を概観する。

生命保険協会加盟会社は、4月1日現在42社であり、6月中に2022年度決算が発表された。これらを、伝統的生保(17社)、外資系生保(13社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(7社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した(図表-1)。
【図表-1】 主要業績(2022年度)
42社合計では、年換算保険料ベースで新契約は17.4%増加しており、個々の会社や商品にもよるが、全体としては、コロナ前の2019年度業績の規模を上まわるまでに回復してきている。保有契約は▲0.8%減少となった。
 
「伝統的生保」の新契約年換算保険料は、19.3%増加(前年度 22.0%増加)となった。主に外貨建保険の販売増により、大きく回復してきている。保有契約年換算保険料は0.3%の増加(前年度も0.3%増加)。以下同様に保険料ベースでの増減を示す。

「外資系生保」は、新契約が10.0%増加(前年度 6.1%増加)し、保有契約は▲0.2%減少(前年度 1.6%増加)した。

「損保系生保」は、新契約が21.8%増加(前年度 4.0%増加)で、保有契約は1.5%増加(前年度 1.3%増加)となった。

「異業種系生保等」は新契約が13.8%増加(前年度 13.7%増加)、保有契約は4.5%増加(前年度 5.2%増加)となった。
【図表-2】新契約年換算保険料(2022年度)
次に、新契約年換算保険料の個人保険、個人年金保険および第三分野の内訳を見たものが図表-2である。41社(かんぽ生命を除く。)合計で、個人保険は対前年15.0%増加した(前年度 12.8%増加)。また個人年金は、24.4%増加(前年度も24.4%増加)となった。各社が注力している分野にもよるが、全体としての販売業績はコロナからの回復、海外金利上昇による外貨建保険の販売の好調により増加(回復)傾向となった。第3分野は微減となった。
 
基礎利益(再び図表-1)は、全体では▲30.8%減少と大幅に減少した(基礎利益については今回算出方法の一部が変更されたので、これは新基準どうしで比較した増減。これらについては後述する。なお、旧基準どうしによる前年度は10.9%増加。)。主に新型コロナウィルス関連の給付金支払いの増加、外貨建資産のヘッジコストの増加、あらたに外貨建保険に必要とされた責任準備金積増し負担によるものである。基礎利益が増加した会社数は、42社のうち11社に留まる。

2――大手中堅9社の収支状況

2――大手中堅9社の収支状況

以下で、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみていくことにする。

なお、大手グループにおいては、複数の保険会社があって、保険販売面で医療保険・金融機関窓販などに役割の分担がなされている面があるので、収支の方もグループ連結でみるべきと考えられるが、今のところ収支面においては、グループ内の保険子会社の占める割合が小さいことや、もとからある9社単体の開示情報が比較的多いこと、から従来通り9社でみることにしている。
1資産運用環境と有価証券含み益
2022年度までの資産運用環境は図表-3の通りである。
【図表-3】運用環境
国内の株価については、日経平均株価が前年度末27,821円から、ロシア・ウクライナ情勢に影響されることもあったが、国内の経済活動の再開による堅調な企業業績の支えがあり、年度末には28,041円と、前年度末より若干上昇した。

国内金利については、10年国債利回りは引き続き低水準ではあるが、日銀の金利政策の変更による上昇などにより、2021年度末には0.389%と、前年度末からは上昇した。

為替については、海外金利の上昇に伴い、内外金利差が拡大したことなどにより、対米ドルでは年度末には133.53円/ドルとなり、対ユーロでは年度末には145.72円/ユーロと、2年続けて円安ドル高・ユーロ高の方向に進んだ。他の通貨では、従来から外貨建保険で比較的よく使われる豪ドルについてみるとほぼ横ばいであった。
【図表-4】有価証券含み益(大手中堅9社計)
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社の有価証券含み益は、図表-4に示す通りとなった。国内債券の含み益が▲4.9兆円減少、国内株式の含み益が▲0.1兆円減少、外国証券含み益は債券・株式とも減少し合計では▲3.4兆円減少した。その結果、有価証券合計では▲8.6兆円減少と2年続けて大幅に減少した。

多くの生保は近年、国内の低金利状況や外貨建保険の販売増加に伴い、外国債券の保有を増加させてきた。今般、米国をはじめとした世界的な金利上昇の影響を大きく受け、円安にもかかわらず外国債券含み損を抱える会社が多くなっている。米国では債券含み損を抱えた銀行の破綻も報道されており、わが国においても金融機関の財務状況への悪影響が懸念される。
2基礎利益は大きく減少
【図表-5】基礎利益の状況(大手中堅9社計)
【図表-6】3利源の状況(開示7社計)
最初に、基礎利益の算出方法の改定について述べておく。(2021年度につき、新・旧と記載)

基礎利益が収支の実態を正確に、かつ全社同じ基準で表現できるように、2022年度決算から(多くの会社では比較対象として2021年度分も)以下の図表-7のように算定方法が変更された。
【図表-7】基礎利益(あるいは利差益、基礎利回り)の改定
この結果、これまでキャピタル損益として扱われていたヘッジコストが利差益での負担となり、また投信解約損益はキャピタル益に遷される。

現状では一般に、利差益の減少ひいては基礎利益の減少、また基礎利回りは低下する方向に改定されている(なお、経常利益への影響はない)。

なお、再保険関係に関する損益に関しては、既に対応済みの会社が多く、ほぼ影響はないようだ。

(これらについては、最後に「トピックス」としても触れる。)
 
そうした中、2022年度の基礎利益は15,414億円、対前年度▲32.9%の減少となった(図表-5) 。

うち利差益は、2022年度は6,991億円、▲19.5%減少となった。

危険差益・費差益等の保険関係収支は8,422億円、▲41.0%の減少となった。
 
3利源とも一定程度公表している7社のみの合計金額を見た(一部推定)ものが図表-6である。これで保険関係収支のうち危険差益と費差益の内訳がわかる。

危険差益は、▲45.7%減少(前年度は▲8.2%減少)となった。2022年度の減少は新型コロナによる給付金支払いの大幅な増加によるものである。
【図表-8】新型コロナによる給付金等の支払状況の一例
新型コロナウィルス感染症による、生命保険会社の保険金・給付金の支払いは、例えば一部の大手社の状況は図表-8のようになっており、特に入院給付金のほうは、みなし入院が急増して2021年度は約10倍、2022年度はさらにその約8倍増加した。これはほぼダイレクトに2022年度の危険差益ひいては基礎利益の減少となって現れている。

ただし、ひとまず新型コロナの給付金支払いは沈静化しているため、基礎利益(危険差益)の急減も一時的なものに留まると考えられており、一部の大手会社が公表している2023年度予想では、回復に向かうとみられている。ただしそのほかに、保有契約の減少傾向や、2017年の死亡表の改定(保険料の値下げ)の影響は、危険差益の減少として現れるものと考えられる一方、第三分野商品(医療保険)については保有も増加しており、選択効果もあるので危険差の拡大方向に寄与していると推定される。このあたりは例年同様であろうと推測される。
 
費差益については、2022年度には増加したものの、かつての規模からすると低水準に留まっている。費差益は、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。付加保険料については、過去予定利率の引下げ、すなわち保険料の値上げを緩和するために逆にセットで引き下げられた会社が多く、その影響で費差益が減少傾向にあると考えられる。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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