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- 日米欧のコロナ禍後の資金循環
2023年07月07日
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コロナ禍や戦争といった大きなショックに見舞われ、世界経済も変化している。以下では、資金循環を通して日米欧のコロナ禍後の経済を、見ていく。
コロナ禍後の経済状況
まず、コロナ禍後の経済状況を簡単に振り返っておきたい。
19年末から20年初の新型コロナウイルスの発生と初期の感染拡大期(以下では「コロナショック期」と呼ぶ)は、健康被害を抑えるため、経済活動を厳しく制限した国・地域が多かった。これに伴い、成長率は急低下し、政府や中央銀行は積極的に財政支出・金融緩和を実施した。20年終盤にはワクチンが開発・実用化され、景気回復の後押しとなった。
21年入り後も感染拡大の波は止まらなかったが、主要国では感染抑制と経済・社会活動の両立を模索し、経済活動の制限は期間や地域を極力限定する対応を採った。21年後半からは、ワクチンの普及などで次第に感染の脅威が低下したことを受け、経済・社会活動の制限も段階的に廃止され、感染抑止のために経済活動を制限することはほぼなくなった(以下では「ウィズコロナ期」と呼ぶ)。
一方で、21年以降はコロナショック期のモノ需要の高まり(いわゆる「巣ごもり消費」)や供給制約によって世界的にインフレ圧力が高まった。さらに22年2月にはロシアがウクライナに侵攻、G7を中心とした西側諸国はロシアに対して厳しい経済・金融制裁を課した。戦争によってロシア産資源の価格が急騰し、インフレが助長された。
インフレ率の上昇を受けて、21年後半から中央銀行は金融引き締めに転じたが、高インフレは予想以上に深刻化し、現時点でもFRBやECBは金融引き締めの姿勢を崩していない。インフレ鎮静化の観点からは財政にも引き締めが求められるものの、インフレから家計・企業を救済するという目的のため、財政支援を検討・実施する地域もある。例えば、ロシア産の天然ガスに依存していた欧州では、エネルギー危機を乗り切るために、手厚い支援策が講じられた[図表1]。
19年末から20年初の新型コロナウイルスの発生と初期の感染拡大期(以下では「コロナショック期」と呼ぶ)は、健康被害を抑えるため、経済活動を厳しく制限した国・地域が多かった。これに伴い、成長率は急低下し、政府や中央銀行は積極的に財政支出・金融緩和を実施した。20年終盤にはワクチンが開発・実用化され、景気回復の後押しとなった。
21年入り後も感染拡大の波は止まらなかったが、主要国では感染抑制と経済・社会活動の両立を模索し、経済活動の制限は期間や地域を極力限定する対応を採った。21年後半からは、ワクチンの普及などで次第に感染の脅威が低下したことを受け、経済・社会活動の制限も段階的に廃止され、感染抑止のために経済活動を制限することはほぼなくなった(以下では「ウィズコロナ期」と呼ぶ)。
一方で、21年以降はコロナショック期のモノ需要の高まり(いわゆる「巣ごもり消費」)や供給制約によって世界的にインフレ圧力が高まった。さらに22年2月にはロシアがウクライナに侵攻、G7を中心とした西側諸国はロシアに対して厳しい経済・金融制裁を課した。戦争によってロシア産資源の価格が急騰し、インフレが助長された。
インフレ率の上昇を受けて、21年後半から中央銀行は金融引き締めに転じたが、高インフレは予想以上に深刻化し、現時点でもFRBやECBは金融引き締めの姿勢を崩していない。インフレ鎮静化の観点からは財政にも引き締めが求められるものの、インフレから家計・企業を救済するという目的のため、財政支援を検討・実施する地域もある。例えば、ロシア産の天然ガスに依存していた欧州では、エネルギー危機を乗り切るために、手厚い支援策が講じられた[図表1]。
資金循環とは
資金循環の概念を確認しておく。
資金循環とは、端的には家計・企業政府といった各部門(経済主体)のお金(通貨・信用)の流れのことを指す。特に、統計データとしては各部門の資金過不足が注目されることが多い。資金過不足とは「純貸出(+)/純借入(-)」とも呼ばれ、資金の運用・調達の観点(金融面)で見れば、各部門(家計・企業・政府など)における正味の運用額を示すものである(プラスなら正味の運用、マイナスなら正味の調達)。
資金過不足はフローの概念であり、これをストックの変化として捉えれば、各部門における金融資産の増加額と負債の増加額の差額ということになる。
また、この資金過不足(例えば正味の運用額)が実体経済活動からどのようにして得られた(残った)のか、という源泉に着目すれば、各部門における収入(所得)から支出(消費や投資)を除いた差額、あるいは貯蓄(所得-消費)から投資を除いた差額として計算できる[図表2]。
資金循環とは、端的には家計・企業政府といった各部門(経済主体)のお金(通貨・信用)の流れのことを指す。特に、統計データとしては各部門の資金過不足が注目されることが多い。資金過不足とは「純貸出(+)/純借入(-)」とも呼ばれ、資金の運用・調達の観点(金融面)で見れば、各部門(家計・企業・政府など)における正味の運用額を示すものである(プラスなら正味の運用、マイナスなら正味の調達)。
資金過不足はフローの概念であり、これをストックの変化として捉えれば、各部門における金融資産の増加額と負債の増加額の差額ということになる。
また、この資金過不足(例えば正味の運用額)が実体経済活動からどのようにして得られた(残った)のか、という源泉に着目すれば、各部門における収入(所得)から支出(消費や投資)を除いた差額、あるいは貯蓄(所得-消費)から投資を除いた差額として計算できる[図表2]。
つまり、ある部門で貯蓄が投資を上回っている状況(貯蓄超過)であれば、その部門は余った正味資金を金融市場で運用しており(「資金余剰」と言う)、逆に投資超過であれば必要な正味資金を金融市場から調達していることになる(「資金不足」と言う)。資金過不足は、貯蓄と投資の差額であるので「貯蓄投資バランス」とも呼ばれる。
なお、ある部門の運用資金は、他の部門の調達資金になっており、海外部門を含めたすべての部門の資金過不足を合計すると(理論上は)ゼロになる。
なお、ある部門の運用資金は、他の部門の調達資金になっており、海外部門を含めたすべての部門の資金過不足を合計すると(理論上は)ゼロになる。
欧米に共通する事象として、コロナショック期に家計部門の資金余剰が急拡大し、その後ウィズコロナ期にかけて資金余剰が縮小傾向にあることが挙げられる。また家計の資金余剰に呼応する形で政府部門の資金不足が急拡大し、その後は縮小傾向を辿っている。
これはコロナショック期に拡大した財政支援策によって、政府部門から家計部門に給付金等により資金が移転されたことなどを反映している(政府部門の資金不足は財政赤字に相当する)。加えて、家計では特にサービス消費が抑制されたため、貯蓄が急増した。この平時を上回る貯蓄は「過剰貯蓄」などとも呼ばれている。現在のインフレ下でも積みあがった「過剰貯蓄」を取り崩すことで消費額を維持できるため、景気の底堅さの要因になっている。
家計部門の資金余剰は、ウィズコロナ期を経て、直近の米国ではコロナ前を下回る水準まで低下したが、ユーロ圏ではコロナ前水準程度にとどまっている。政府部門の資金不足は、米国ではコロナ前水準まで縮小(財政赤字が縮小)したが、ユーロ圏では依然としてコロナ前水準を上回る状況にある。その分、ユーロ圏では海外部門での資金不足の縮小が見られる。海外部門の資金不足は経常黒字に相当するため、ユーロ圏では資源高を受けた経常黒字の縮小(一時赤字化)が海外部門の資金不足として現れている。
なお、上記以外のユーロ圏と米国の違いとして、コロナショック期においてユーロ圏では企業部門(非金融機関)の資金余剰が目立ったが、米国ではそれほど増加しなかったという点が挙げられる。そのため、ユーロ圏においては企業部門の資金余剰も、家計部門の過剰貯蓄のように作用し、高金利下でも投資活動を維持するバッファーになり得る。
日本でも、欧米と同様にコロナショック期の家計資金余剰の拡大、政府資金不足の拡大が観察できる[図表5]。その後の推移はユーロ圏と類似しており、家計部門では「過剰貯蓄」の取り崩しがあまり進まず、政府資金不足(財政赤字)もそれほど縮小せず、海外部門で資金不足(経常黒字)が縮小傾向にあるという特徴が見られる[図表6]。
これはコロナショック期に拡大した財政支援策によって、政府部門から家計部門に給付金等により資金が移転されたことなどを反映している(政府部門の資金不足は財政赤字に相当する)。加えて、家計では特にサービス消費が抑制されたため、貯蓄が急増した。この平時を上回る貯蓄は「過剰貯蓄」などとも呼ばれている。現在のインフレ下でも積みあがった「過剰貯蓄」を取り崩すことで消費額を維持できるため、景気の底堅さの要因になっている。
家計部門の資金余剰は、ウィズコロナ期を経て、直近の米国ではコロナ前を下回る水準まで低下したが、ユーロ圏ではコロナ前水準程度にとどまっている。政府部門の資金不足は、米国ではコロナ前水準まで縮小(財政赤字が縮小)したが、ユーロ圏では依然としてコロナ前水準を上回る状況にある。その分、ユーロ圏では海外部門での資金不足の縮小が見られる。海外部門の資金不足は経常黒字に相当するため、ユーロ圏では資源高を受けた経常黒字の縮小(一時赤字化)が海外部門の資金不足として現れている。
なお、上記以外のユーロ圏と米国の違いとして、コロナショック期においてユーロ圏では企業部門(非金融機関)の資金余剰が目立ったが、米国ではそれほど増加しなかったという点が挙げられる。そのため、ユーロ圏においては企業部門の資金余剰も、家計部門の過剰貯蓄のように作用し、高金利下でも投資活動を維持するバッファーになり得る。
日本でも、欧米と同様にコロナショック期の家計資金余剰の拡大、政府資金不足の拡大が観察できる[図表5]。その後の推移はユーロ圏と類似しており、家計部門では「過剰貯蓄」の取り崩しがあまり進まず、政府資金不足(財政赤字)もそれほど縮小せず、海外部門で資金不足(経常黒字)が縮小傾向にあるという特徴が見られる[図表6]。
金融引き締めの波及は道半ば
欧米の貸出動向調査によれば、利上げや3月に発生した米シリコンバレー銀行の破綻によって銀行の貸出態度は厳格化している。したがって、今後、貸出や投資の減速が鮮明になる可能性がある。
半面、企業が収益力を維持し、投資の減速が緩やかなものにとどまる可能性も否定できない。グリーン化や経済安全保障に関連した供給網の再構築への対応、デジタル化など人手不足に対応するのための労働生産性向上への取り組みは投資の底堅さに寄与する要因となる。この場合は、利上げによる景気減速効果が限定的となり、インフレ率の鎮静化に時間を要するかもしれない。そのため、金融引き締めの実体経済への波及ペースが注目される。
半面、企業が収益力を維持し、投資の減速が緩やかなものにとどまる可能性も否定できない。グリーン化や経済安全保障に関連した供給網の再構築への対応、デジタル化など人手不足に対応するのための労働生産性向上への取り組みは投資の底堅さに寄与する要因となる。この場合は、利上げによる景気減速効果が限定的となり、インフレ率の鎮静化に時間を要するかもしれない。そのため、金融引き締めの実体経済への波及ペースが注目される。
(2023年07月07日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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