2023年06月13日

身近に潜む子どもの事故(3)-日米ともに0歳は窒息に注意、15歳以上では日常生活で曝露可能性のある有害物質による中毒やレジャーでの溺死に要注意-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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3-3|2020年米国の5歳-9歳における不慮の事故内訳
続いて、2020年米国における5歳-9歳の不慮の事故(傷害)の内訳をみると、第1位は「MV Traffic:交通事故により受傷したオートバイ乗員やバス乗員」であり、1年間の死亡者数が319人(46.6%)であった。次に、「Drowning :その他の溺死及び溺水」が117人(17.1%)、続いて、「Fire/burn:煙、火及び火災への曝露」が60人(8.8%)であった。
図表4-1.2020年米国における5-9歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
図表4-2.2020年米国における5-9歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
日本の5-9歳の年齢層では、他の年齢階級と比べて最も不慮の事故による死亡者数が減少する年齢層であることが図表1にも示されている。発育発達が未熟な0歳児から4歳児と比べても、身体的・精神的な成長が認められる年齢階級となることから、ある程度危険な状況を判断し、対処行動をとろうと取り組むことができる発達段階にあることや、幼稚園や小学校において社会生活を学ぶことで、交通ルールや安全についての知識の習得機会があることが全体的な死亡者数の減少へ影響していると推察される。

しかし、この年齢階級において、火災などによる負傷要因の順位が上昇していることから、一人で火を取り扱うことや、火災訓練で煙を吸い込まない逃げ方を習得する必要はありそうである。教育機関のみならず、家庭においても避難訓練などを低学年児童と取り組むことは有益な対策となるであろう。
3-4|2020年米国の10歳-14歳における不慮の事故内訳
続いて、2020年米国における10~14歳の不慮の事故(傷害)の内訳をみると、第1位は「MV Traffic:交通事故により受傷したオートバイ乗員やバス乗員」であり、1年間の死亡者数が476人(54.0%)であった。

次は、「Drowning :その他の溺死及び溺水」で死亡数は91人(10.3%)、続いて、「Other Land Transport:その他陸上交通事故」の死亡数が52人(5.9%)であった。

日本の10~14歳では死因にばらつきがあるものの、溺死による死亡者数が最も多かったが、米国の10~14歳では、第1位と第3位に交通事故がランクインしていることが特徴的である。圧倒的に、車とバイク等同士での事故による負傷が多いことに加え、その他の陸上交通事故である、バスや鉄道などの公共交通機関での負傷がランク上昇していることが分かる。

10歳~14歳では、教育機関への通学や日常生活においての移動手段が幅広くなることにより、交通事故のリスクが増大するものと推察される。
図表5-1.2020年米国における10-14歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
図表5-2.2020年米国における10-14歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
3-5|2020年米国の15歳-24歳における不慮の事故内訳
最後に、2020年米国における15~24歳の不慮の事故(傷害)の内訳をみると、第1位は「MV Traffic:交通事故により受傷したオートバイ乗員やバス乗員」であり、1年間の死亡者数が6,741人(44.6%)であった。

次は、「Poisoning:有害物質による不慮に中毒及び有害物質への暴露」の死亡数が6,664人(44.1%)、続いて、「Drowning:その他の溺死及び溺水」で死亡数は593人(3.9%)であった。

交通事故と中毒が各4割強を占めていることから、米国の15歳から24歳の年齢層の不慮の事故(傷害)では、交通事故と中毒が特徴的であると言える。

この年齢区分は、日本では15歳~29歳と米国よりも広い年齢階級で区分されていたが、この年齢階級でも「有害物質による不慮の中毒」の死亡者数が最も多い結果となっており、日米共通の不慮の事故による死因と言える。

この年齢層では、学生生活での通学や、社会生活での通勤・移動において、交通事故のリスクが上昇することは想像に容易いが、実は我々人間は日常生活の中で常に有害物質に接しており、その曝露量×時間により蓄積されることでこの年齢層になって人体への影響が出現するのである。

例年公表されている厚生労働省の家庭用品に係る健康被害の取りまとめでは8、ピアスやネックレス製品、除菌剤による皮膚障害や吸入事故が報告されている。新型コロナウイルス感染症への消毒剤として注目を浴びた次亜塩素酸ナトリウム溶液も希釈濃度を間違える事例や、次亜塩素水と間違えることで嘔吐や様々な人体影響が出現することが報告されている。

特に、小柄な子どもが有害物質に曝露すると、大人と比較して人体影響を受けやすいという特徴を持つ。年齢が高くなると触れる機会が多くなる有害物質への知識を持って、日頃より留意してほしい。
図表6-1.2020年米国における15-24歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
図表6-2.2020年米国における15-24歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
 
8 厚生労働省「2021年度 家庭用品に係る健康被害の年次とりまとめ報告」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000193024_00012.html 

4――まとめ

4――まとめ

本稿では、「不慮の事故(傷害)」の内訳に関する統計データを用いて、日米で比較し分析した。

その結果、人口動態統計から捉える日本の不慮の事故の特徴として、0歳児では窒息、15歳以上で溺死による死亡や有害物質による暴露が死因要因として特徴的であることが明らかとなった。

また、CDCが公表する傷病レポートより、2020年米国の不慮の事故(傷害)の特徴として、0歳では(日本同様)窒息による死亡数が最も多く、1-4歳では溺死、5歳以上では交通事故による負傷が致命傷となる傾向が明らかとなった。 

日米ともに、発育発達が未熟な0歳児では窒息に留意する必要があることは共通していた。また、行動範囲が拡大するものの、リスク回避や安全を保つことが困難である1歳-4歳の年齢層では溺死に結びつく可能性のある水回りに留意する必要が明らかとなった。

さらに、社会生活に伴う移動が増加する5歳以上の年齢層では、交通事故に留意する必要があることが示唆される結果となった。

子どもを持つ保護者や周りの大人は、本稿を参考にしながら子どもの発達段階に伴う不慮の事故に留意していただきたい。引き続き、子どもの健康や安全に関する情報発信に努める。
(資料)ICD-10に準拠した日本における不慮の事故(傷害)内訳対照表
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2023年06月13日「基礎研レポート」)

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