2023年06月13日

身近に潜む子どもの事故(3)-日米ともに0歳は窒息に注意、15歳以上では日常生活で曝露可能性のある有害物質による中毒やレジャーでの溺死に要注意-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1――はじめに

子どもの死亡原因の上位を占める「不慮の事故」は、子どもの発達段階が大きな影響を与える。子どもの事故死亡リスクを上げるも下げるも、その環境を整える保護者に責務が生じると言って差し支えない。子どもの発達段階を知識として習得し、その予防策を講じることは重要な保護者の役目なのである。

そこで、保護者や子どもを取り巻く大人たちに事故予防の重要性を認識してもらうことを目的に、レポート3部作を通して、子どもの不慮の事故における特徴を概観した。

第1稿では1、厚生労働省の令和3年人口動態統計データを用いて分析した結果、「不慮の事故」による死亡者数は長期的には大幅な減少が認められるものの、子どもの死因別順位では、0歳-19歳の子どもが含まれる年齢層全てにおいて「不慮の事故」が4位以内に入ることが明らかになった。

また、第2稿では2、CDCの傷病レポートから米国における子どもの不慮の事故の死因順位を分析した結果、日本同様、0歳では第5位、1歳-24歳の子どもの年齢が含まれる全ての階級において「不慮の事故」が第1位を占め、子どもの発達段階や、夏季ごろの行動範囲の拡大に伴うリスク増大との関連性が指摘される結果となった。

本稿では、子どもの不慮の事故の特徴をより詳細に捉えるために、(ICD-10に準拠した分類である)厚生労働省の人口動態統計から「日本の家庭における不慮の事故の死因別内訳」と、CDCの傷病レポートから「米国の家庭における不慮の事故の死因別内訳」を比較し、子どもの不慮の事故の特徴を分析する。
 
1 乾 愛 基礎研レポート「身近に潜む子どもの事故(1)」(2023年6月6日)
 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75033?site=nli
2 乾 愛 基礎研レポート「身近に潜む子どもの事故(2)」(2023年6月8日)
 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75050?site=nli

2――2022年人口動態統計から捉える、日本の不慮の事故詳細

2――2022年人口動態統計から捉える、日本の不慮の事故詳細

2-1|日本の家庭における「不慮の事故」では、0歳が窒息、15歳以上で溺死や中毒死が特徴的
まず、令和3年人口動態統計から、家庭における不慮の事故による死因別、年齢区分別の死亡者数を図表1へ示した。(*主な死因と死因詳細項目の数は足し上げても合致しないことに留意)

その結果、家庭における不慮の事故での死亡者総数は、13,352人であり、主要な死因別からみると、「不慮の溺死及び溺水」が5,398人と最も多く、その中でも「浴槽内での溺死及び溺水」が4,997人と最も多い結果が明らかとなった。次に、「その他の不慮の窒息」が3,317人で、その中でも「気道閉塞を生じた食物の誤嚥」が2,360人であった。そして、「転落・転倒・墜落」が2,486人と続き、その中でも「スリップ,つまずき及びよろめきによる同一平面上での転倒」が1,521人であった。

0歳-24歳の年齢区分でみると、死因別では、「その他の不慮の窒息」が85人と最も多く、次に、「不慮の溺死及び溺水」が46人、続いて「有害物質による不慮の中毒」が36人であった。
図表1-1.家庭における不慮の事故による死因別、年齢区分別死亡者数
図表1-2.家庭における不慮の事故による死因別、年齢区分別死亡者数
また、家庭における不慮の事故での死因を、全体と0歳から29歳までの子どもの年齢を含む階級とで比較すると3、「窒息」や「溺死」についての死因が多いことは同様の傾向が認められるが、子どもの年齢層では、主な死因として「有害物質による中毒死」が上位にくる。

さらに、家庭における不慮の事故での死因を年齢区分別にみると、0歳では「その他不慮の窒息」が52人と最も多く、1歳から4歳、5歳から9歳、10歳から14歳については死因のばらつきがあり、15歳以上29歳では「有害物質による中毒死」が36人と最も多い結果となっている。

0歳から15歳以上の年齢区分では、0歳児の窒息と15歳-29歳での有害物質による中毒死や溺死に留意する必要があることが分かる。

0歳児育児では、子どもの発育段階から短時間睡眠と頻回な授乳やおむつ交換対応などが続き、添い寝での窒息事例4や、抱っこでの圧迫窒息での死亡事例5が報道されている。

また、10歳代ではGWなどの長期休暇を中心に、レジャー施設での溺死事例6が相次いでおり、ゲートウェイドラッグや乱用に至りやすいのも10歳代であることから7、長期休暇前に不慮の事故を防ぐための教育と対策は重要となる。
 
3 5歳以上は29歳までの年齢区分のため単純に子どものみの傾向として取り扱うことはできないことに留意
4 NHKWB特集「添い乳で赤ちゃん窒息死相次ぐ、授乳に注意」(2021年7月2日)
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210702/k10013112201000.html 
5 讀賣新聞Yomi Dr.「1か月女児を抱いたまま母親が運転 帰宅したら反応なく18時間後死亡…スリング内での窒息を防ぐには」(2021年1月19日)https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20210113-OYTET50002/
6 朝日新聞「東大でもテニスを夢語った孫が… ラフティング事故遺族の訴え」(2023年5月10日)
7 産経新聞「10第の薬物まん延大麻の危険性甘くみるな」(2020年8月5日)

3――2020年CDC統計レポートから

3――2020年CDC統計レポートから捉える、米国の子どもにおける不慮の事故詳細

次に、CDCが公表する傷病レポートの統計データから、2020年米国における「不慮の事故(傷害)」についての内訳を子どもの年齢層が含まれる0歳から24歳階級区分別に以下の図表2~6へ示した。

尚、CDCが用いる不慮の事故(傷害)の分類は、日本でも用いられている国際的な疾病分類ICD-10に基づくものであり、この疾病分類コードを厚生労働省が準拠した日本語表記で整理したものを、筆者が対照表として整理し、本稿レポートの最後に参照資料として添付する。
3-1|2020年米国の0歳における不慮の事故内訳
2020年米国における0歳の不慮の事故(傷害)の内訳をみると、第1位は「Suffocation:その他の不慮の窒息」であり、1年間の死亡者数が1,024人(85.8%)であった。

次に、「MV Traffic:交通事故により受傷したオートバイ乗員やバス乗員」が72人(6.0%)、「Drowning :その他の溺死及び溺水」が34人(2.8%)であるが、0歳児の不慮の事故(傷害)において、不慮の窒息が8割強を占めることが特徴的であると言える。

図表1の日本の0歳児の不慮の事故における内訳においても窒息が最も死亡者数が多いことから、呼吸機能が未熟な0歳児を育児する保護者は、衣服や抱っこ紐による圧迫、柔らかい布団や不必要な玩具など、窒息の原因となりうる環境を排除する必要がある。
図表2-1.2020年米国における0歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
図表2-2.2020年米国における0歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
3-2|2020年米国の1歳-4歳における不慮の事故内訳
続いて、2020年米国における1~4歳の不慮の事故(傷害)の内訳をみると、第1位は「Drowning :その他の溺死及び溺水」であり、1年間の死亡者数が425人(36.9%)であった。次に「MV Traffic:交通事故により受傷したオートバイ乗員やバス乗員」が286人(24.6%)、続いて、「Suffocation:その他の不慮の窒息」が118人(10.2%)であった。

図表1の日本の1歳から4歳の不慮の事故における内訳にはバラつきが認められるが、米国の1歳から4歳の不慮の事故(傷害)の内訳も、0歳児ほど死亡者数に差が認められる特異的な死因はない。

しかし、溺死の死亡者数が最も多いことから、0歳児よりも行動範囲が拡大するものの安全配慮の知識や判断、それをコントロールする身体能力が未熟なことから、窒息よりも溺死での死亡が多いことが推察される。

1歳から4歳をもつ保護者や周りの大人は、日常生活での水回りの環境や、レジャー・旅行先での行動範囲について特に注意を払う必要があると言える。
図表3-1.2020年米国における1-4歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
図表3-2.2020年米国における1-4歳児の「不慮の事故」内訳別、死亡者
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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