2023年06月09日

貸出・マネタリー統計(23年5月)~銀行貸出の伸び率が4%に接近、経済危機時以外としては最高レベルに

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:都銀の伸びが急拡大

(貸出残高)                                                                  
6月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、5月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.78%と前月(同3.50%)から大きく上昇した(図表1)。伸び率の水準は2021年4月(4.26%)以来の高水準となるが、当時はコロナ禍後の資金繰り懸念によって資金需要が急増した特殊な時期であった。リーマンショック後やコロナ禍といった経済危機時を除いた場合、足元の伸び率は現行統計で遡れる1992年以降で最高レベルにある。業態別では、都銀の伸びが前年比4.04%(前月は3.51%)、地銀(第2地銀を含む)の伸びが同3.57%(前月は3.50%)とともに上昇したが、特に都銀の伸びが顕著になっている(図表2)。

経済活動再開に伴う運転・設備資金需要のほか、原材料・燃料価格高騰(による仕入れコスト増)に伴う資金需要やM&A向け、不動産向けの資金需要などが複合的に貸出の押し上げに繋がっているとみられる。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
(図表5)貸出伸び率の業種別寄与度 (業種別貸出動向)
なお、今年3月末時点の貸出の伸び(前年比4.01%)について主な業種別の寄与度(四半期・末残ベース)を確認すると、不動産向けが0.99%(昨年12月末時点では0.76%)、大半を住宅ローンが占める個人向けが0.80%(12月末時点は0.78%)となっており、広義の不動産領域と言える両者で全体の伸びの約半分を占める状況が続いている(図表5)。

一方、コロナ禍時に資金繰り悪化を受けて急増した対面サービス業向けは緩やかな減少が続いており、ゼロゼロ融資など危機時に膨らんだ借入の返済が徐々に進んでいることがうかがわれる。

2.マネタリーベース:国債買入れが平時に近付く

6月2日に発表された5月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲1.1%となり、前月(同▲1.7%)からマイナス幅が縮小した(図表6)。マイナス幅の縮小は2カ月ぶりとなる。

マイナス幅縮小の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金のマイナス幅縮小(前月▲2.3%→当月▲1.6%)である。金利上昇圧力が一服したことで、資金供給要因となる長期国債買入れ額は7.4兆円と平時のレベル(緩和縮小観測が台頭していなかった昨年年初までは6兆円前後で推移)に戻りつつある(図表7)。一方、昨年半ばにマネタリーベースを大きく減少させたコロナオペの回収が既に峠を越えていることで、同要因による当座預金押し下げ圧力はほぼ解消している。また、利用減少に伴うものとみられるが、国債補完供給(日銀による国債の一時的な貸出)が資金供給要因となったことも当座預金のマイナス幅縮小に寄与した。

その他の内訳では、貨幣流通高の伸びが前年比▲3.1%(前月は▲3.4%)とマイナス幅を縮小する一方、日銀券発行高の伸びが同1.3%(前月は1.5%)と低下している(図表6)。
 
なお、5月のマネタリーベースは、季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、前月比0.4兆円減と前月からほぼ横ばい推移となっている(図表9)。昨年末から今年3月にかけては金利抑制のための国債買入れで急増していたが、4月以降は増勢が一服している。
(図表6) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表7)日銀の国債買入れ額とコロナオペ(月次フロー)
(図表8)マネタリーベース残高の伸び率/(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:市中通貨量は緩やかな増加基調

6月9日に発表された5月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.67%(前月は2.56%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.14%(前月は2.07%)と、ともにやや上昇した(図表10)。今年に入ってからの伸び率は横ばい圏での動きが続いている。

M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月4.8%→当月4.8%)の伸び率は横ばいに留まり、現金通貨(前月1.5%→当月1.4%)の伸びはやや低下したが、準通貨(定期預金など・前月▲1.8%→当月▲1.6%)とCD(譲渡性預金・前月▲11.5%→当月▲11.3%)のマイナス幅が縮小し、全体の伸び率上昇に繋がった(図表11・12)。
(図表10) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表11) 現金・預金の伸び率
通貨量は実態として緩やかな増加基調が続いている。既述の通り、銀行貸出は高い伸びとなっており、その分(通貨量にカウントされる)預金が創造されているものの、多額の貿易赤字が続いていることが、預金残高の伸び率抑制を通じて通貨量の伸び率抑制に働いているとみられる。
(図表12)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比2.41%(前月は2.79%)と低下した(図表10)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びがわずかに上昇したものの、規模の大きい金銭の信託(前月5.6%→当月2.8%)の伸びが急低下したほか、国債(前月7.0%→当月6.2%)の伸びもやや鈍化したことが影響した(図表12)。一方で、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月5.0%→当月6.0%)や外債(前月▲1.9%→当月▲0.4%・為替変動の影響を含む)の伸び率がやや上昇したことが一定の支えになった。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年06月09日「経済・金融フラッシュ」)

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