2023年06月07日

FSOC(金融安定監督評議会)がノンバンクSIFI指定に関する解釈ガイダンスの改定等を提案-ノンバンクSIFIの指定復活の動き-

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6―提案された解釈ガイダンスの主要な変更点

今回の新たな解釈ガイダンス案は、ノンバンクSIFIを指定するための2段階のプロセスについては、これを踏襲してはいるものの、現行のガイダンスの下でノンバンクSIFIを指定するためにFSOCに課されている手続き上の主要な要件を削除する形になっている。

具体的には、以下の通りである。
1.活動ベースのアプローチの優先順位
2019 年の解釈ガイダンスでは、FSOCは「活動ベースのアプローチ」を優先すると規定している。この「活動ベースのアプローチ」によれば、FSOCがシステム全体ベースで潜在的なリスクの特定を優先し、その後、関連金融規制当局が特定されたリスクに対処できるようにし、これらのリスクに対処するために、企業をノンバンク SIFI として指定するオプションの優先順位が下げられている。

解釈ガイダンス案によれば、FSOCがノンバンク金融会社の指定候補の検討を開始する前に、金融安定性へのリスクに対処するために、まずは連邦および州の規制当局に依存するという記述が削除されており、「活動ベースのアプローチ」を優先する必要がなくなる。FSOCは他の金融規制当局と引き続き連携していくことになるが、ノンバンク SIFI 指定の前に「活動ベースのアプローチ」に従う必要がなくなり、FSOCのノンバンクSIFI指定の優先順位が下げられることはなくなる。

2.費用便益分析
2019年のガイダンスでは、FSOCがノンバンクSIFIの指定を行う前に費用便益分析を実施すると記載されていたが、解釈ガイダンス案はこの要件を削除し、「合理的な特異性を持って指定の潜在的なコストと便益を評価することは指定の前には不可能であり、ノンバンク金融会社の費用便益分析を実行してもバランスの取れた全体像が得られる可能性は低い」と指摘している。

3.財務的苦境の可能性の評価
2019年の解釈ガイダンスでは、FSOCがノンバンクSIFI指定を行う前にノンバンクの経営破綻や破綻の可能性を評価すると述べられているが、解釈ガイダンス案では、この要件が削除されており、「FSOCは会社の重大な財務的苦境の可能性の評価が必要又は適切であるとは信じていない」と述べている。

4.「米国の金融安定性に対する脅威」の解釈
解釈ガイダンス案によれば、2019年ノンバンク指定ガイダンスで定められた「米国の金融安定に対する脅威」の定義について、「この定義は、金融安定性に対する脅威が「あり得る」かどうかをFSOCが判断するように求めているドッド-フランク法第113条に基づく法定基準と大きく対照的である」として、これを削除している。

また、「第113条に基づく分析のために、FSOCは分析フレームワーク案に示された金融安定性の記述を参照して、『米国の金融安定性に対する脅威』を評価することを期待する」と述べられている。

5.SIFI指定手続き等
ノンバンクSIFIを指定するための2段階のプロセスや指定プロセスにおけるFSOCとの関与や透明性を高めるための手続き等については、基本的には2019年の解釈ガイダンスを踏襲している。則ち、(1)FSOC は検討中のノンバンクに通知し、予備分析を実施する。(2)次のステップに移行したことをノンバンクに通知した後、FSOC はさらに詳細な評価を実施する。新たに指定された企業は、ヒアリングを要求することができる。 

なお、2012年のノンバンクSIFI指定ガイダンスで導入されていた、FSOCによる追加審査の対象となるノンバンク金融会社を特定するための定量的指標を用いた臨界値段階については、今回の解釈ガイダンス案でも導入されていない。

以上のように、今回の解釈ガイダンス案は、多くの点である意味において2012年の解釈ガイダンスのアプローチに戻った形になっている。なお、解釈ガイダンス案の記述は、FSOCの手続きに限定しており、評議会がとる広範なアプローチについては、新たな分析フレームワーク案に関する文書に記載される形になっている。

7―まとめ

7―まとめ

以上、ここまで、FSOCによる「金融安定性リスクに関する分析フレームワーク」の提案、及び「ノンバンク金融会社の決定に関する解釈ガイダンス」の新たな提案について、その概要及び現行の解釈ガイダンスからの主要な変更点について報告してきた。

2019年の解釈ガイダンスの変更により、実質的にノンバンクSIFI指定は廃止されたとの認識が広がっていたが、今回の解釈ガイダンス案によれば、ノンバンクSIFIの指定が復活する可能性が高まったことになる。規定上は、今回のノンバンクSIFIの指定対象に、保険会社も含まれる形になっているが、実際に保険会社が指定される可能性が高いのかどうかについては、2019年の解釈ガイダンスの変更時の議論やその後のノンバンク金融会社を巡る環境変化の中での保険会社の動向等によって、決定されていくことになる。

生命保険業界等は、一般的に生命保険会社が金融システムに対するシステミックリスクの原因になっているとは考えておらず、今回の提案についてもその旨を主張していくことになるものと思われる。彼らは、今回の規制強化の提案は、PEやヘッジファンド等を対象にしたものだと考えているようだ。

この背景には、グローバルなベースでも、これまでFSB(金融安定理事会)によって指定されてきたG-SIIs(Global Systemically Important Insurers:グローバルにシステム上重要な保険会社)について、2022年12月に、FSBがIAIS(保険監督者国際機構) と協議して、保険セクターにおけるシステミックリスクの評価と軽減のための包括的枠組みの最初の実施評価に基づいて、G-SIIsの年次特定を中止(discontinue)することを決定した、ということが挙げられる。これにより、(かなりの特殊なケースを除いて)もし米国での保険会社に対するSIFI指定が復活するようなことがあれば、かなりの議論を呼ぶことが容易に想像されることになる。

ただし、IAISは、その評価方法の定期的な3年ごとのレビューの継続を含め、包括的枠組みを強化し続け、このタイミングに合わせて、FSBは 2025年11月に、包括的枠組みに基づくシステミックリスクの評価と軽減のプロセスに関する経験もレビューする。このレビューに照らして、FSB は、IAISと協議して、必要とみなされた場合、更新された G-SIIs識別プロセスを復活(reinstate)させる可能性を含め、そのプロセスを調整することを決定する可能性がある、としている。従って、G-SIIsの指定も完全に排除されたわけではないようだ。

いずれにしても、FSOCによる今回の提案により、米国におけるノンバンクSIFIの指定を巡る問題は再び脚光を浴びる形になっている。保険会社を含めて、ノンバンク金融会社にとって、SIFI指定の可能性についての不確実性が明確に高まる形になっている。

今後とも、米国の保険会社に対するシステミックリスク等の規制を巡る動向については、関係者の関心が高いテーマであることから、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年06月07日「基礎研レポート」)

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