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保険会社をシステミック・リスク監督対象に決定した米国監督当局(FSOC)- AIG、プルデンシャル(米国)およびノンバンクGEキャピタルを決定

小松原 章
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2008年9月に発生した金融危機の際には、大規模かつ複雑な業務を行う金融機関の破綻が、金融市場および金融仲介の機能不全を通じ金融システムの安定性を損ない、実体経済に著しい悪影響を与えることが強く認識された。
こうした事態を受け、いわゆる金融システミック・リスクを回避することを主たる目的にした金融規制改革法であるドッド・フランク法が成立(2010年7月)し、同法に基づき新たにシステミック・リスク監督のための業種横断的な組織である金融安定監視評議会(FSOC)が設立された。
財務長官を長とするFSOCの監督対象には、大規模銀行(銀行持株会社)のみでなく、法令で定める基準に照らしてFSOCが決定したシステム上重要なノンバンク(保険会社を含む)も含まれることとされた。
これらシステミック・リスク監督対象の金融機関には保険会社も含まれることから、保険業界は規制対象になることを懸念し、連邦議会、パブリックコメント等を通じて種々の反論を行ってきた。
生保について大雑把に見ると次のような趣旨で反論を行ってきた。
(ⅰ)保険業務はその事業内容上システミック・リスクを発生させない
将来の死亡保障に備えるために契約者が拠出する保険料は非常に長期的な性質を持っており、生保会社は、こうした性質を考慮して長期の安定的な収益をもたらす確定利付資産に投資している。
すなわち、生保会社の資産と負債はマッチングしており流動性リスクは小さい。
また、生命保険契約には契約者の解約請求によって現金引き出しをすることができるが、解約に対しては解約手数料(いわゆる解約控除)の賦課という形で資金の早期引き出しを抑止する仕組みが組み込まれており、この面からも流動性リスクは小さい。
したがって、生保会社は、短期調達・長期運用で流動性危機に陥った銀行とはリスク特性が異なる。
(ⅱ)保険会社は、主たる監督機関(州監督当局)によって厳格な監督規制に服している
生保会社は、すでに州の保険法令によって、厳格な投資規制、自己資本規制(リスク・ベース・キャピタル)、責任準備金規制、販売規制等消費者保護規制および定期的な検査を受けている。
また、生保会社の経営危機に当たっては、州の再建・清算法令および支払い保証基金による契約者への支払い保証の実施など、格別の契約者保護策が整備されている。
このような情勢の中で、FSOCは、ドッド・フランク法に基づきシステミック・リスク認定のための種々の要素、具体的には、会社業務の性格、規模、範囲、集中度合い、相互関連性、レバレッジ等を考慮した結果、2013年6月に3社(AIG、プルデンシャルの保険会社2社、ノンバンクのGEキャピタル)を指定した。これを受け、7月に2社(AIG、GEキャピタル)が決定した後、10月に異議申し立てしていたプルデンシャルが決定し、3社すべてがシステミック・リスク監督対象機関となった。
FSOCの決定はあくまでも種々の要因を総合的に勘案して行われるものであるが、保険会社を指定するに当たって、従来保険業界が主張してきた点については概ね次のように判断し、異なった見方を示している。
(ⅰ)生保業務の長期安定性について―流動性リスクは少ない点
生保会社の負債(責任準備金)は、通常長期の負債と見なされているが、実際問題として、わずかなペナルティまたはゼロのペナルティで自由に資金を引き出すことができるので、短期負債になりうる。当該会社が経営危機に陥った場合には、短期間に多くの解約行動が誘発され、流動性財源が圧迫されることにより、資産の投売りが発生し、金融市場に大きな混乱をもたらす恐れがある。
(ⅱ)既存の監督機関による監督の実効性について
監督対象となった保険会社(保険グループ)2社は、規模が大きく国際的に活動している。したがって、経営危機に陥った場合に、これらの再建または秩序ある清算を行うには、複数国、複数州の監督機関、裁判所との間の適格な調整および法的手続きが必要となる。
これに対して、これら保険グループの保険子会社は、各州、各国別の監督に服しており、グループ全体として連結ベースの監督に服しているわけではない。
現在の監督体制のもとではこのような大規模・複合的な保険会社(グループ)の秩序ある清算を体験したことがなく、清算に伴い金融の安定性は脅かされる恐れがある。
このようにFSOCは、金融システミック・リスクへの対処という観点から、従来の保険業界の主張とは異なった判断をし、総合的に見て特定の保険会社はシステミック・リスク監督の対象とすることが適切であると結論付けた。
システミック・リスク対象となった保険会社には、FRBによる一段と高度な健全性規制(自己資本規制、流動性規制、秩序ある清算計画の設定等)が課せられることになる。
FRBの健全性監督においても、保険会社側は、自己資本規制等において銀行中心の手法を採用せずに、保険会社のリスク特性を踏まえた形で実施されるように望んでおり、新しい規制であるだけに、関係監督当局の今後の動向が注目されるところである。
(2013年11月15日「研究員の眼」)
小松原 章
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