2023年06月07日

新型コロナ収束後に残された課題

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.315]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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新型コロナウイルス感染症は、5/8に感染症法上の位置づけが「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から「5類感染症」に移行した。これにより、感染対策は「法律に基づき行政が様々な要請・関与をしていく仕組み」から、「個人の選択を尊重し、国民の自主的な取組をベースとしたもの」に変更された。

具体的には、政府が一律に日常における基本的感染対策を求めることはなくなり、新型コロナ陽性者及び濃厚接触者の外出自粛は求められなくなった。また、これまでは限られた医療機関でのみ受診可能であったが、幅広い医療機関において受診可能となった。医療費等については、1割から3割の自己負担が原則となるが、一定期間は公費支援が継続される。

感染は今後も拡大する可能性があり、一定の感染対策を継続する必要はあるが、新型コロナウイルス感染症は、流行が始まって3年以上が経過してようやくほぼ収束したと考えてよいだろう。

今後求められるのは、これまでの取り組みに対する検証だ。様々な対策が感染抑止に一定の役割を果たしたことは確かだが、それと引き換えに景気の急速な悪化、実質的な私権制限、教育現場の混乱、出生数の大幅減少など社会経済活動に大きな弊害をもたらした。感染対策の妥当性については多面的な検証が必要だろう。

新型コロナの流行初期に筆者が最も懸念していたことは、経済活動の大幅な制限によって失業者が増加し、そのことが経済問題を理由とした自殺者の大幅な増加につながってしまうことだった。

この点については、雇用調整助成金の特例措置を導入したことが功を奏した。失業者は2020、2021年と増加したが、経済活動の急激な落ち込みを踏まえれば、失業者の増加は限定的にとどまり、2022年には減少に転じた。この結果、1990年後半以降に景気が急速に悪化した時のように経済的な理由による自殺者が急増することは回避された[図表1]。
[図表1]失業者数と自殺者数(原因・動機)の関係
しかし、問題は全体の死亡者数が大幅に増えていることである。日本は高齢化の影響もあり、コロナ禍前の2019年までの10年間で年平均2万人程度死亡者数が増えていた。新型コロナの流行が始まった2020年の総死亡者数は前年に比べて8000人の減少となったが、2021年は前年から6.7万人、2022年は13.0万人の急増となった[図表2]。
[図表2]総死亡者数が急増
死因別には、老衰が最も多く、2020~2022年の累計(2022年は11月まで)で5.4万人増、それに続くのが新型コロナの3.8万人増、心疾患の2.2万人増となっている。老衰の増加は高齢化の影響も大きいが、2015~2019年の年平均0.9万人増から2022年は2.4万人増とそのペースが加速している。一方、インフルエンザ、肺炎はコロナ禍前よりも死亡者数が減少している[図表3]。全体の死亡者数の増加が新型コロナによる死亡者数の増加を大きく上回っている理由としては、医療逼迫によって救えるはずの命が救えなくなったこと、自粛生活の長期化に伴い免疫力が低下したこと、フレイル状態に陥った高齢者が急増したことなどが考えられる。
[図表3]死因別の死亡者数の増減
感染対策の究極の目的は死者の増加を最小限にとどめることだ。新型コロナによる死者を減らしたとしても、それ以外の要因で死者を大幅に増やしてしまったとすれば、対策は失敗だったということになる。死者急増の原因を特定することは困難かもしれないが、新たな感染症はいつかまた出現する。多大な犠牲を払って得た今回の経験を次のパンデミックに活かすためにも、英知を結集して原因究明を行うことが求められる。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年06月07日「基礎研マンスリー」)

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