2023年06月06日

コロナが精神疾患に与えた影響-アメリカではコロナ禍により、抑うつと不安症が3倍以上に増加

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

近年、精神疾患の患者が増加している。日本では、精神疾患の総患者数が2020年に614.8万人に増加した。特に、3年前(2017年)に比べて約1.5倍に急増している。その原因として、コロナ禍に対する外出自粛等の感染拡大防止策が精神疾患の患者に影響を与えたことが考えられる。ただし詳細は、今後の疫学研究の結果を待つ必要がある。
図表1. 日本で精神疾患を有する総患者数
アメリカでも、精神疾患の患者の増加が見られている。日本と同様に、コロナ禍によって、2020年に精神疾患の有病率が急上昇した。アメリカのアクチュアリー会の研究機関では、2022年11月に、精神疾患の動向に関するレポート(以下、単に「レポート」)を公表している1。本稿では、そのレポートをもとに、コロナ禍で精神疾患がどう変化したか、その特徴について見ていくこととしたい。
 
1 “Mental Illness and It's Impact on U.S. Mortality and Longevity”(SOA Research Institute, Nov. 2022)

2――アメリカの抑うつ症と不安症の推移

2――アメリカの抑うつ症と不安症の推移

はじめに、アメリカの抑うつと不安症の様子を概観していこう。

1コロナ禍で抑うつと不安症の有病率は急上昇
まず、コロナ禍の前後で、抑うつと不安症の症状を呈した成人の割合(有病率)がどう変化したか、見てみよう。
図表2. アメリカの抑うつと不安症の有病率推移
上図の通り、アメリカでは、コロナ禍が始まって以降、有病率が3倍以上に大きく上昇している。有病率は、外出制限等の規制が撤廃された後も、2020年当時の高い水準にとどまっている。
2女性のほうが有病率が高い
有病率がピークとなっていた、2020年11月中旬の様子を詳しく見てみよう。性別ごとの違いを見ると、女性のほうが有病率が高い。レポートによると、これには、雇用が大きく影響しているという。女性のほうが男性よりも、コロナ禍により離職した割合が高く(女性は4人に1人、男性は5人に1人)、そのことが精神疾患の発症に影響を与えたとしている。
図表3. アメリカの性別ごとの有病率 (2020年11月11~23日)
3若年ほど有病率が高い
次に、年代別に有病率を見てみる。若年ほど、有病率が高いことがわかる。レポートによると、ここにも雇用の影響が強くあらわれているという。コロナ禍により、雇用喪失が激しかった若年ほど、精神疾患の有病率が高かった、との分析である。特に、20歳代以下は、抑うつと不安症のどちらかの症状の有病率も6割近くとなっており、多くの若者が精神疾患に苛(さいな)まれたことがうかがえる。

なお、レポートでは、こうした精神疾患と年代の関係はパンデミックの前から存在しており、感染症のみならず、他の環境的または世代的要因が影響している可能性についても指摘している。
図表4. アメリカの年代ごとの有病率 (2020年11月11~23日)
4高卒未満の有病率が高い
続いて、教育による違いを見ていく。有病率は、高卒未満の人で高く、大卒以上の人では低かった。コロナ禍による影響がどのようにあったかについて、レポートでは触れられていない。
図表5. アメリカの教育ごとの有病率 (2020年11月11~23日)
5人種による有病率の違いもある
最後に、人種による違いを見ていく。人種・民族別では、「非ヒスパニックの他の人種、および複数の人種」、「ヒスパニック系人種2」、「非ヒスパニックの黒人系単一人種」で、相対的に有病率が高かった。「非ヒスパニックの白人系単一人種」と「非ヒスパニックのアジア系単一人種」は、相対的に低かった。
図表6. アメリカの人種ごとの有病率 (2020年11月11~23日)
 
2 スペイン語以外を話すラテン系人種についても、「ヒスパニック系人種」に含めている。

3――コロナ感染と精神疾患の発症

3――コロナ感染と精神疾患の発症

前章でみた抑うつと不安症の増加のなかには、コロナへの感染により発症したものもあるだろう。ヨーロッパとアメリカの調査結果をもとに、その様子を見ていこう。

1|重症のコロナ感染者は、長期に渡って精神疾患を患う傾向
デンマーク、エストニア、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、イギリスのヨーロッパ6ヵ国を対象とした研究の結果3によると、7日以上寝たきりの状態が続いたコロナ感染者は、診断から6ヵ月以上経っても抑うつや不安症の有病率が高い状態が続いていることが明らかとなった。重症のコロナ感染者は、長期に渡って精神疾患を患う傾向が見てとれる。
図表7-1. 抑うつ有病率 (コロナの重症度別)
図表7-2. 不安症有病率 (コロナの重症度別)
 
3 “Acute COVID-19 Severity and Mental Health Morbidity Trajectories in Patient Populations of Six Nations: An Observational Study” Ingibjörg Magnúsdóttir, Anikó Lovik, Anna Bára Unnarsdóttir, et al.(Lancet Public Health 7, no. 5:E406–E416., 2022) https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(22)00042-1/fulltext (2023年6月6日に参照)
2感染防止プロトコルにより診療の負担が増加
また、アメリカの退役軍人を対象とした研究4によると、コロナに感染した人は感染しなかった人に比べて、診断後1年間に精神疾患に罹患する確率(発症率)が高かったという。抑うつ症、不安症、ストレスおよび適応障害、認知機能低下、睡眠障害の各疾患で、リスク差5がプラスとなっていた。
図表8. 精神疾患発症のリスク差
 
4 “Risks of Mental Health Outcomes in People with COVID-19: Cohort Study” Yan Xie, Evan Xu, Ziyad Al-Aly(BMJ 376:e068993., 2022) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35172971/ (2023年6月6日に参照)
5 リスク差は、コロナに感染した人の精神疾患の発症率から、感染しなかった人の発症率を引き算したもの。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

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