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2023年05月25日
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4|転出元別・年齢別でみる東京23区と周辺部間の人口移動
コロナ禍前の都心回帰は20代中心の動きであった(図9)。転出元別・年齢別に周辺部から東京23区への転入超過数を確認すると、コロナ禍前は概ね20代のみがプラスであったのに対して、それ以外の年代はマイナスで、なかでも10歳未満の転出が目立つ。これは、就職後の数年間を東京23区で暮らし、結婚して家族が増えると、周辺部へ転居するケースが多いことが想定される。先述したように、2019年に周辺部から東京23区への転入超過数がマイナスに転じたことを考慮すると、東京都心部の住宅価格の高騰により、コロナ禍前から子育て世代が郊外に転居する傾向か強まっていた可能性はある。
コロナ禍においては、20代の都心回帰が続く一方、子育て世代の郊外化が加速した。20代の転入超過数はプラス幅が縮小したもののプラスを維持し、2022年は2019年の水準を回復するなど、コロナ禍の影響はほぼ一巡したようだ。これに対して、2020年以降30~40代と10歳未満の転入超過数はマイナス幅が拡大し、2022年も回復が遅れていることから、在宅勤務の普及が子育て世代の郊外化を後押ししている可能性が考えられる。
コロナ禍前の都心回帰は20代中心の動きであった(図9)。転出元別・年齢別に周辺部から東京23区への転入超過数を確認すると、コロナ禍前は概ね20代のみがプラスであったのに対して、それ以外の年代はマイナスで、なかでも10歳未満の転出が目立つ。これは、就職後の数年間を東京23区で暮らし、結婚して家族が増えると、周辺部へ転居するケースが多いことが想定される。先述したように、2019年に周辺部から東京23区への転入超過数がマイナスに転じたことを考慮すると、東京都心部の住宅価格の高騰により、コロナ禍前から子育て世代が郊外に転居する傾向か強まっていた可能性はある。
コロナ禍においては、20代の都心回帰が続く一方、子育て世代の郊外化が加速した。20代の転入超過数はプラス幅が縮小したもののプラスを維持し、2022年は2019年の水準を回復するなど、コロナ禍の影響はほぼ一巡したようだ。これに対して、2020年以降30~40代と10歳未満の転入超過数はマイナス幅が拡大し、2022年も回復が遅れていることから、在宅勤務の普及が子育て世代の郊外化を後押ししている可能性が考えられる。
4――小ドーナツ: コロナ禍における駅近選好の変化
最後に、東京都の住宅街(駅)における駅近・駅遠エリア間の人口移動を確認する。東京都に所在する653駅を対象に、半径0.8km内(徒歩10分圏内)を駅近エリア、0.8km~1.6km内(徒歩10分~20分圏内)を駅遠エリアとして、各エリアの居住者数の動向を分析した5。具体的には、携帯位置情報データであるKDDI「KDDI Location Analyzer(以下KLA)」を用いて、(1)住宅街の居住者数、(2)駅近・駅遠エリアの居住者数、(3)年齢別にみた駅近・駅遠エリアにおける居住者数の動向を確認し、コロナ禍における駅近選好の変化について分析する6。
5 歩行距離を80m/分とした場合、駅近エリアは徒歩10分圏内、駅遠エリアは徒歩10分~20分圏内に相当する。
6 KLA は、au スマートフォンユーザーから同意を得た上で取得し、個人が特定できない形式で加工した GPS 位置情報と性年代等の属性データを活用し、任意のエリアや施設について通行・滞在人口を推計し、データを提供している。また、任意のエリアにおける(1)居住者、(2)勤務者、(3)来街者の別に滞在人口を集計することができる。位置情報をもとに居住地と勤務地を推計した上で、対象エリア内に居住地がある場合は居住者、勤務地がある場合は勤務者、それ以外は来街者として集計される。
5 歩行距離を80m/分とした場合、駅近エリアは徒歩10分圏内、駅遠エリアは徒歩10分~20分圏内に相当する。
6 KLA は、au スマートフォンユーザーから同意を得た上で取得し、個人が特定できない形式で加工した GPS 位置情報と性年代等の属性データを活用し、任意のエリアや施設について通行・滞在人口を推計し、データを提供している。また、任意のエリアにおける(1)居住者、(2)勤務者、(3)来街者の別に滞在人口を集計することができる。位置情報をもとに居住地と勤務地を推計した上で、対象エリア内に居住地がある場合は居住者、勤務地がある場合は勤務者、それ以外は来街者として集計される。
7 駅遠エリアにおいても、駅近エリアと同様の傾向のため、ここでは駅近エリアのデータを示した。
2|東京都の駅近・駅遠エリアにおける居住者数の変化率
一般に、コロナ禍によって、駅遠エリアを選好する傾向が強まるのではないかと考えられた。その理由として、在宅勤務が普及したことで、通勤利便性を重視し高い家賃を払ってまで駅近くに住むニーズが低下したこと、住環境の改善に向けて広い間取りのニーズが高まったことなどが挙げられる。
そこで、東京都653駅を居住者数の5分位階級別にした上で、2019年から2022年の平均居住者数変化率を、駅近エリアと駅遠エリアで比較した(図11)。その結果、居住者の多い駅では、駅近エリアと駅遠エリアの居住者の増加率にそれほど格差がみられない一方、居住者の少ない駅では、駅近エリアの方が駅遠エリアより増加率が大きいことを確認できる。このようにしてみると、駅近エリアから駅遠エリアへ人がシフトする動きは特段みられず、コロナ禍においても駅遠エリアの選好が強まっていないことを示唆している。
一般に、コロナ禍によって、駅遠エリアを選好する傾向が強まるのではないかと考えられた。その理由として、在宅勤務が普及したことで、通勤利便性を重視し高い家賃を払ってまで駅近くに住むニーズが低下したこと、住環境の改善に向けて広い間取りのニーズが高まったことなどが挙げられる。
そこで、東京都653駅を居住者数の5分位階級別にした上で、2019年から2022年の平均居住者数変化率を、駅近エリアと駅遠エリアで比較した(図11)。その結果、居住者の多い駅では、駅近エリアと駅遠エリアの居住者の増加率にそれほど格差がみられない一方、居住者の少ない駅では、駅近エリアの方が駅遠エリアより増加率が大きいことを確認できる。このようにしてみると、駅近エリアから駅遠エリアへ人がシフトする動きは特段みられず、コロナ禍においても駅遠エリアの選好が強まっていないことを示唆している。
5――おわりに
本稿では、大中小3つのドーナツに着目し、コロナ禍における国内の人口移動の変化やその特徴を分析した。結果は、以下の通りである。
コロナ禍の3年間において、人々は都市のリスクを意識した一方で、多くの人が集まる都市の魅力も再認識したのではないだろうか。コロナ禍で広まった新しい生活様式がどれほど定着するかは不透明だが、コロナ禍が起点となって人口移動に構造変化が生じている可能性もあり、今後も丹念にデータを確認していくことが重要だと思われる。
- 大ドーナツ:コロナ禍では、地方から東京圏の人口流入が減少したものの、東京一極集中の動きは続いている。年内にもコロナ禍前の勢いを回復する可能性があり、その場合、その他地方の20代の動向が鍵を握る。
- 中ドーナツ:東京23区と周辺部間の人口移動をみると、コロナ禍前から都心回帰が一服しており、コロナ禍では郊外化の動きが加速した。20代はコロナ禍の影響が一巡し、都心への流入が続く一方、在宅勤務の普及などを背景に子育て世代の周辺部への流出が継続する可能性がある。
- 小ドーナツ:コロナ禍を経ても、東京都の駅近エリアから駅遠エリアへのシフトは起きておらず、20代から30代の若年層ほど、駅近エリアを選好する傾向がある。
コロナ禍の3年間において、人々は都市のリスクを意識した一方で、多くの人が集まる都市の魅力も再認識したのではないだろうか。コロナ禍で広まった新しい生活様式がどれほど定着するかは不透明だが、コロナ禍が起点となって人口移動に構造変化が生じている可能性もあり、今後も丹念にデータを確認していくことが重要だと思われる。
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2023年05月25日「基礎研レポート」)
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