2023年05月18日

「政府の少子化対策への期待」に影響する要因とは?-婚活機会の提供と育児協力者の確保策は期待大、男性への理解醸成と若者の経済的支援で失望回避策を-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1――はじめに

日本では、2022年の出生数(速報値)が80万人をきり、日本在住の外国人を除いた確定値は77万人ほどと示され、推計よりも10年も前倒しとなった少子化に強い危機感を示す事態となった。

これらの事態を受けて、政府は異次元の少子化対策における子ども関連予算の倍増等を表明し、2023年3月31日には少子化に対する提言(仮)が提示された。

少子化に限らず急激な人口減少は、社会制度や医療制度などの根幹を揺るがすものであり、少子化への対策が遅れるほど成果(人口維持・増加)が後ろ倒しとなり、危機的な状況から一向に抜け出せない致命傷となり得る。

しかし、少子化進行に対し政府が危機的状況の回避に向けた政策を取りまとめる一方で、社会を構成する我々国民はこの事態をどのように受けとめ、認識しているだろうか。

本稿では、少子化の進行について、国民がどの程度の認識を持っているのかを明らかにするため、2022年度特別調査「第12回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」1のデータを用いて、日本の少子化に対する意識調査を実施した結果と、政府の少子化対策への期待度に影響する要因を分析した。

その結果、政府の少子化対策への期待は、期待している者518人(20.3%)よりも、期待していない者1145人(44.8%)の割合の方が高い結果が明らかとなった。

また、多変量解析の結果、婚活機会の確保策や家族構成が変容する中で育児協力者を確保する政策については、政府の少子化対策への期待上昇に寄与する一方で、男性への理解醸成や、若年者の経済支援策を拡充しない限り、政府への期待は見込めないことも明らかとなった。
 
1 2022年度特別調査「第12回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」調査概要
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74622?site=nli 

2――回答者の基本属性

2――回答者の基本属性

本調査は、2023年3月29日から3月31日の期間に、マクロミルモニターにインターネット調査を実施し、2,558名の回答を得ている。これら回答者の基本属性を以下に示す。
図表1.回答者の基本属性
回答者の性別は、男性1,267名(49.5%)、女性1,291名(50.5%)であり、やや女性の回答者が多かった。

回答者の年齢は、平均49.82歳±14.4(最小20歳、最大76歳)であり、年齢区分では、20歳-24歳が78名(3.0%)、25歳-29歳が224名(8.8%)、30歳-34歳が174名(6.8%)、35歳-39歳が217名(8.5%)、40歳-44歳が250名(9.8%)、45歳-49歳が294名(11.5%)、50歳-54歳が267名(10.4%)、55歳-59歳が235名(9.2%)、60歳以上が819名(32.0%)であり、回答者の3割は60歳以上であった。

回答者の居住地域は、北海道117名(4.6%)、東北地方133名(5.2%)、関東地方996名(38.9%)、中部地方435名(17.0%)、近畿地方479名(18.7%)、中国地方133名(5.2%)、四国地方48名(1.9%)、九州地方217名(8.5%)と、全体の4割が関東地方に偏りが認められるものの、日本全国の地域別人口構成割合に概ね合致する結果となっている。今回は全ての都道府県から回答が得られている。

回答者の婚姻状態は、既婚が1,517名(59.3%)、未婚が1,041名(40.7%)、子ども有無別では、子ども有りが1,405名(54.9%)、子ども無しが1,153名(45.1%)であった。

回答者の世帯年収別(N=2348名)2では、200万未満が225名(9.6%)、200-400万未満が491名(20.9%)、400-600万未満が504名(21.5%)、600-800万未満が348名(14.8%)、800-1000万未満が209名(8.9%)、1000-1200万未満が91名(3.9%)、1200-1500万未満が68名(2.9%)、1500-2000万未満41名(1.7%)、2000万以上が20名(0.9%)、不明351名(14.9%)であった。日本全体の世帯年収では300万―400万の占める割合がピークであるのに対し、本件での回答者は400-600万の回答者割合が最も高いことから、日本全体の平均よりは世帯年収が一段階高い層が回答している傾向が認められる。

これらの回答者の属性により、概ね日本全体の傾向を示していると考えて差支えないが、性別や世帯年収との関連性を検討する際には留意する必要があるデータであると認識していただきたい。
 
2 本調査の回答者は2558名であるが、欠損値があり、回答者総数が異なる場合にのみ、(N=〇名)と表示する。

3――日本の少子化進行に関する意識調査の結果(単純集計)

3――日本の少子化進行に関する意識調査の結果(単純集計)

次に、政府の少子化対策への期待と各理由、少子化進行の要因に関する意識調査の結果を示す。尚、この結果は、本調査の概要結果と一部重複するものとなるが、後述の多変量解析を実施する上で重要なため、割愛せずに単純集計の結果を示すものである。
3-1|政府の少子化対策への期待
政府の少子化対策への期待値を図表2へ示した。その結果、「とても期待している」135人(5.3%)、「やや期待している」383人(15.0%)、「どちらともいえない」494人(19.3%)、「あまり期待していない」535人(20.9%)、「全く期待していない」610人(23.8%)、「聞いたことがない」401人(15.7%)であった。

政府が示した異次元の少子化対策について、全く期待していないと回答した者の割合が2割超という実態が明らかとなった。
図表2.政府の少子化対策への期待
3-2|政府の少子化対策へ期待する理由
次に、上述の設問で「とても期待している」と「やや期待している」と回答した者について、政府の少子化対策へ期待する理由について、518人に回答を求めた。その結果、「日本にとって重要な課題だから」と回答した者が294人、次いで、「少子化の進行を食い止めて欲しいから」と回答した者が253人、続いて、「自分や家族、親族に関係がありそうだから」と回答した者が118人という結果となった。

この回答において、政府に期待する理由について、これまでの少子化対策の成果を認めるものではなく、重要な課題と認識しつつ、これからの対策に期待をしている傾向が伺える。
図表3.政府の少子化対策へ期待している理由
3-3|政府の少子化対策へ期待しない理由
続いて、3-1|の設問において、「全く期待していない」と「あまり期待していない」と回答した者について、政府の少子化対策へ期待しない理由について、1,145人に回答を求めた。

その結果、「政府の認識が甘いと思うから」と回答した者が444人、次に「政府の少子化対策はうまくいったことがないから」と回答した者が441人、続いて「そもそも結婚をしない人が増えているから」と回答した者が396人であった。

これらの理由からは、政府の少子化対策は有益な効果をもたらすものではなかったと印象づいていることと、そもそもの若者の価値観に背くような対策について期待しないことが伺える。若者の価値観の変容を受け入れた上で、希望する人には安心安全に子育てができる環境にあるという少子化対策のメッセージを伝え、なぜ少子化対策をする必要性があるのかが伝えきれていないことが指摘できる。
図表4.政府の少子化対策へ期待していない理由
3-4|日本の少子化進行要因への意識
続いて、日本の少子化進行への意識調査の結果を図表5へ示す。その結果、「そう思う」と回答した割合が高かった順は、「少子化の進行は、若い世代の経済環境が厳しくなっていることが原因だ」798人が最も多く、次いで「少子化の進行は、子育てにお金がかかりすぎることが原因だ」777人、続いて「少子化の進行は、若い世代の価値観が変容していることが原因だ」525人であった。

「そう思う」と「ややそう思う」を足した要因割合の高い順についても同様で、「少子化の進行は、若い世代の経済環境が厳しくなっていることが原因だ」が1,587人、次いで「少子化の進行は、子育てにお金がかかりすぎることが原因だ」が1,538人、続いて「少子化の進行は、若い世代の価値観が変容していることが原因だ」1,459人とであった。

これらの結果からは、日本の少子化の進行は、現在及びこれからの若者の価値観の変容や、若者を取り巻く経済環境が強く関与するものであるとの認識を示す結果となった。現在の、子育て支援に対する経済的な補助のみならず、家族形成前の若者の価値観へ介入する教育機会の確保や、奨学金のような借金型の経済的支援を脱却する必要性が伺える。
図表5.日本の少子化進行要因への意識
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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