2023年05月10日

2022年度自社株買い動向~自己株式の取得を行う理由と株価の関係~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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■設定金額、件数ともにコロナ禍前の水準を回復

2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)のTOPIX構成銘柄企業の自社株買い設定金額は9.3兆円と、前年度から1.2兆円増加し、コロナ禍前の水準を大きく上回った。
図表1 自社株買い設定金額等の推移
図表2は2019年度から2022年度の自社株買い動向を四半期ごとに集計したものである。
図表2 22年度は4-6月の設定が最も多かった
自社株買いは例年、決算発表と合わせて設定されることが多く、特に本決算の発表が集中する4-6月に自社株買いが設定されやすい。2022年度も4-6月の設定金額及び設定件数が最も多かった。ここ数年は、2020年度は新型コロナの影響から先行き不透明感が強く1年を通して低調、2021年度は業績の底入れや前年度に低調だった反動から、年度後半である10月以降の自社株買い設定が増加した。2022年度はコロナ禍前の水準にほぼ戻ったといえよう。

■2022年度も自社株買いを株式市場は好感

■2022年度も自社株買いを株式市場は好感

自社株買い設定の発表は、株価には一般的にプラスに働くと考えられている。過去の集計では、自社株買いの設定を発表した企業の株価は、発表翌営業日にTOPIXを約2%超過し、その後は上昇した水準でほぼ横ばいに推移していた。

2022年度はどうであったか確認する。図表3は、2022年度に自社株買いの実施を設定した企業の株価推移をまとめたものである。自社株買い設定日を基準日(0日)として、自社株買い設定企業の対TOPIX超過収益率を単純平均している。

2022年度に自社株買いの設定を発表したTOPIX構成銘柄企業720社についても、発表翌営業日に平均で約2%対TOPIXで上昇し、その後も2~3%で推移した。過去の集計と同様に自社株買いの設定に対して、株価はポジティブに反応した様子である。
図表3 2022年度も株価の反応はポジティブ

■自己株式の取得を行う理由と株価の関係は

■自己株式の取得を行う理由と株価の関係は

自社株買いと一口に言ってもその目的は企業によって様々である。図表4は、2022年度に自社株買いを設定した企業について、自己株式の取得を行う理由を確認するため、企業が公表した自社株買いの理由について、主な理由ごとに企業数を集計した結果である。
図表4 自己株式の取得を行なう主な理由
企業が公表している自己株式の取得を行う主な理由は、『株主還元』、『機動的な資本政策』、『資本効率の向上』が多かった。ただし、他にも譲渡制限付株式報酬制度や株式給付信託といった『インセンティブプランの導入』、『主要株主の保有株売却への対応』、『所有不明株主の株式買い取り』、『プライム市場上場維持』などを理由として挙げている企業もあった。
 
では、自社株買いを設定した理由によって、発表後の株価の反応に違いはあるのだろうか。2022年度の取得理由として最も多かった『株主還元』を取得理由に含んでいた企業と含んでいなかった企業で発表前後の株価推移を確認してみた。
図表5 『株主還元』を理由とした自社株買いはよりポジティブな反応
取得理由に『株主還元』というワードが含まれていた企業438社(図表5②株主還元)の株価は、発表翌営業日から10営業日後までの間、全体720社(図表5①全体)を上回って推移した。対して、『株主還元』というワードが含まれていなかった企業282社(図表5③株主還元以外)の株価は、対TOPIXでポジティブな反応はしていたものの、発表翌営業日から10営業日後の間、①全体と②株主還元を下回って推移した。
 
自己株式の取得を行う理由に『株主還元』をあげた企業の約半数は、『資本効率の向上』も理由としてあげている。企業の経営者が自社の株価が割安であることや将来の業績への自信を示す「アナウンスメント効果」に加えて、自社株買いによるEPS(一株当たり利益)の増加や、ROE(自己資本利益率)上昇への期待感も高まることで、株式市場から特に好意的に評価されたと考えられる。
 
 

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2023年05月10日「基礎研レター」)

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