2023年04月27日

少子化進行に対する意識と政策への期待(2)-これから子育て世代で約3割が期待、経済基盤の安定化と社会の意識改革が必須

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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4――「次元の異なる少子化対策」に期待していない理由~政府の課題認識の甘さ、過去の不成功体験

1全体の状況~政府の課題認識の甘さや不成功体験(約4割)、未婚化、選挙対策との懐疑的な声も
政府の「次元の異なる少子化対策」に期待していないとの回答者に対して、その理由をたずねたところ、最も多いのは「政府の課題認識が甘いと思うから」(38.8%)であり、次いで僅差で「政府の少子化対策は、これまでも上手くいっていないと思うから」(38.5%)、「そもそも結婚をしない人が増えているから」(34.6%)、「(統一地方選や衆議院補欠)選挙に向けて、受けの良い政策を打ち出しただけのように感じるから」(32.1%)、「岸田政権を支持していないから」(29.7%)、「政府の少子化対策は、いつもスピードが遅いと思うから」(27.7%)、「(「次元の異なる(異次元)」という)表現にインパクトがあるだけのように感じるから」(27.5%)までが3割前後を占める(図表4)。

また、「防衛予算増額の議論から注意をそらすために感じるから」(19.0%)、「財源確保に向けた議論が進んでいないと思うから」(18.5%)、「少子化の進行速度が想定以上に速いから」(17.6%)、「少子化対策より優先すべき社会課題があると思うから」(16.9%)も約2割を占めて目立つ。

つまり、政策に期待をしていない理由には、政府の課題認識の甘さや過去の政策の不成功体験、主目的は選挙や防衛予算増額であるといった政府の取り組みへの懐疑的な見方に加えて、未婚化の進行や少子化速度が想定以上であることなど現状の厳しい状況などがあがる。
図表4 「次元の異なる(異次元の)少子化対策」に期待をしない理由(複数選択、20~74歳 n=1,145)
2属性別の状況~子育て中の女性は過去の不成功体験、高齢者は選挙目的などから期待せず
性年代別に見ると、20歳代の男性と60歳以上の女性以外は全体と同様に「政府の課題認識が甘いと思うから」、あるいは「政府の少子化対策は、これまでも上手くいっていないと思うから」が首位を占める(図表5(a))。一方、20歳代の男性では「そもそも結婚をしない人が増えているから」・「岸田政権を支持していないから」(41.5%、なお、20歳代の女性も「岸田政権を支持していないから」が「政府の課題認識が甘いと思うから」と同率首位で36.1%)が、60歳代の女性では「そもそも結婚をしない人が増えているから」(47.4%)が、70~74歳の女性では「表現にインパクトがあるだけのように感じるから」(41.5%)が首位を占める。

また、「政府の課題認識が甘いと思うから」は男性の60歳以上や女性の30歳代で、「政府の少子化対策は、上手くいったことがないと思うから」は女性の30~50歳代で、「そもそも結婚をしない人が増えているから」は男性の20歳代や女性の50・60歳代で、「選挙受けの良い政策を打ち出しただけのように感じるから」は男性の70~74歳や女性の50歳以上で、「岸田政権を支持していないから」は男性の20歳代や70~74歳、女性の20歳代で、「政府の少子化対策は、いつもスピードが遅いと思うから」は男性の20歳代や女性の30歳代で、「表現にインパクトがあるだけのように感じるから」は男性の20歳代や女性の70~74歳で、「防衛予算増額の議論から注意をそらすために感じるから」は女性の70~74歳で、「財源確保に向けた議論が進んでいないと思うから」は男女70~74歳で、「少子化の進行速度が想定以上に速いから」は女性の60歳代で、「少子化対策より優先すべき社会課題があると思うから」は女性の20歳代や50歳以上で、「自分や家族に関係がないから」は女性の70~74歳で、「予算を倍増しても足りないと思うから」は男性の20歳代で、「日頃から興味がない事柄だから」は男性の30歳代や女性の20歳代で多い。

つまり、子育て中の女性では過去の政策の不成功体験から、高齢男女では主目的は選挙などといった政府の取り組みへの懐疑的な見方から期待していない様子がうかがえる。
図表5 属性別に見た「次元の異なる(異次元の)少子化対策」に期待していない理由(次へ続く)
図表5 属性別に見た「次元の異なる(異次元の)少子化対策」に期待していない理由(前からの続き)
ライフステージ別に見ると、第一子大学入学以外は全体と同様に「政府の課題認識が甘いと思うから」、あるいは「政府の少子化対策は、これまでも上手くいっていないと思うから」が首位を占める(図表5(b))。一方、第一子大学入学では「選挙受けの良い政策を打ち出しただけのように感じるから」(40.9%)が首位を占める。また、それぞれのライフステージで見られる特徴は年代別に見られた傾向とおおむね一致している(文章での表記は省略)。なお、性年代別の結果では、子育て経験者も多い50歳以上の女性や20歳代の女性で少子化対策以外に優先すべき社会課題があると思う割合が約4分の1を占めて多いことも特徴的であったが、このうち20歳代の女性ではライフステージが未婚・独身が約8割、60歳以上の女性では未婚・独身と第一子独立以上の子育て中以外のライフステージが約9割(50歳代は約7割)を占める(ただし、参考値)。

職業別に見ると、パート・アルバイトと専業主婦・主夫以外は全体と同様に「政府の課題認識が甘いと思うから」、あるいは「政府の少子化対策は、これまでも上手くいっていないと思うから」が首位を占める(図表5(c))。一方、パート・アルバイトと専業主婦・主夫では「そもそも結婚しない人が増えているから」(どちらも約4割)が首位を占める。また、それぞれの職業で見られる特徴は年代別などこれまでに見られた傾向とおおむね一致している(文章での表記は省略)。

5――おわりに

5――おわりに~将来世代の経済基盤の安定化とともに、「こどもまんなか社会」実現の意識改革が必須

本稿ではニッセイ基礎研究所が実施した調査に基づき、前稿の少子化進行の原因に関わる意識に続いて、政府の「次元の異なる少子化対策」への期待について捉えた。その結果、期待をしている層は全体では約2割にとどまるが、未就学児を子育て中などの子育て前半世代やこれから子育てをしていく世代では約3割を占めて比較的多くなっていた。一方、これらの世代でも、政策に期待していない層も同程度に多く、その理由には、政府の課題認識の甘さや対応の遅さなど過去の政策の不成功体験などがあがり、特に子育て中の女性では厳しい見方をしていた。

当調査では「『次元の異なる』という表現にインパクトがあるだけ」との声も27.5%(ライフステージが第一子誕生である未就学児のいる世帯では38.2%)を占めるが、新型コロナ禍も相まって想定以上に出生数が減少する中では、やはりここで政府には「異次元」の対策を求めたい。

そこで何より重要なことは、これから子育てをしていく世代へ響く対策を実施していくことである。前稿で見た通り、20歳代から30歳代にかけて未婚者の結婚や子どもを持つ希望は大幅に減退する。希望が減退する前に、将来を担う世代にどれだけ希望を持ってもらえるかが重要だ。

繰り返し述べてきた通り3、少子化対策を考える上で、将来を担う世代の経済基盤の安定化を図ることに加えて、子育て中の女性の家事・育児負担を軽減するために子育て支援サービスの拡充や男性の育児休業の促進などもあわせて進めていく必要がある。

政府は今後3年間を集中取り組み期間として、「こども・子育て支援加速化プラン」を掲げている(図表6)。この加速化プランを見ると、児童手当の拡充や住宅支援の強化といった経済支援策のほか、男性の育休取得促進などの女性の負担軽減策も盛り込まれている。

一方で、本稿で見た通り、政策への期待が弱い背景には、過去の政策の効果をあまり感じていない国民が多いこともあるが、そもそも若い世代の経済基盤がゆらいでいることがあるだろう。給付金が拡充されても、生活の土台となる経済基盤、すなわち雇用環境が安定していなければ、結婚も子どもを持つことも考えにくい。

足元では新卒採用が活発化し、初任給の大胆な引き上げに踏み切る大企業も増えているが、ひと昔前と比べて、家族形成期の若者の非正規雇用者率は上昇している(図表7)。2014年頃からは景気回復による新卒採用の積極化や「女性の活躍」推進政策によって、女性の非正規雇用者率は低下傾向にあるが、男性ではやや低下している程度であり、1990年と比べて約4.5倍に上昇している。

本来、産業の発展や雇用者の賃金上昇などを期待する場合、労働力の流動化が求められるが、新卒一括採用の歴史の長い日本では、新卒で正規雇用の職に就くことが経済基盤の安定化を図る上では未だ重要である。政府は「2030 年代に入るまでのこれからの6~7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス4」と言うのであれば、非正規雇用の若者の正規雇用化(あるいは正規雇用者と同様に賃金が上昇していく見通しを持てるようなキャリアパスに誘導すること)は急務であり、正規雇用の女性の就業継続(出産・子育てで女性の正規雇用の職を途切れさせないこと)を確実に進めていく必要がある。雇用環境からのアプローチは、少子化対策として直接的な解決策には見えにくいかもしれないが高い効果は期待できるものと考える。
図表6 こども・子育て支援加速化プランの概要/図表7 雇用者に占める非正規雇用者の割合(25~34歳)
さらに、前稿で見たように、若い世代が子育てに感じる経済的要因以外の負担感の強さも無視できない。少子化の進行が社会課題として認識されていても、子育てをする中では依然として閉塞感を感じることも多いだろう。子どもの泣き声などで肩身の狭い思いをしながら公共交通機関を利用する親は多く、バリアフリーが完備されている施設はむしろ珍しいため、ベビーカーでの外出は苦労も多い。また、子どもの声が騒音との苦情から閉鎖を余儀なくされた公園などもある。

図表6の加速化プランの中には「こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革」という項目もある。具体的な数字としてあらわれる経済支援策などに関心は高まりがちだが、社会全体の意識改革も必須だ。雰囲気づくり、というと柔らかすぎるかもしれないが、社会全体でこどもを育てていく、子育てを見守っていく、そして、将来を担う世代の味方であるという雰囲気をいかに醸成できるかが鍵だ。今後、こども家庭庁には、キャッチフレーズでうたう通り、「こどもまんなか社会」の実現を期待したい。
 
3 久我尚子「求められる将来世代の経済基盤の安定化-非正規雇用が生む経済格差と家族形成格差」ニッセイ基礎研レポート(2023/3/27)、「大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並水準で3億円超」ニッセイ基礎研レポート(2023/2/28)など。
4 こども政策担当大臣「こども・子育て政策の強化について(試案)」(令和5年3月 31 日)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2023年04月27日「基礎研レポート」)

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