2023年04月07日

なぜ、炎上は繰り返されるのか-迷惑動画投稿がされてしまう構造を考える

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.313]

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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※ 本レポートは2023年02月07日発行の研究員の眼
なぜ、炎上は繰り返されるのか-迷惑動画投稿がされてしまう構造を考える
を要約したものです。

1―バイトテロ

アルバイト従業員が職場で迷惑行為を行い、SNSにその様子を投稿し炎上させることで職場や雇い主に大きな損害を与える通称「バイトテロ」という言葉が使われ始めたのが2013年。あれから10年経過した現在、バイトテロに限らず、消費者が小売店や飲食店での迷惑行為や非常識な行動を撮影し、SNS上で炎上してしまうと言う事象が後を絶たない。炎上により、迷惑行為を行った者は巨額な賠償金を請求されたり、デジタルタトゥーとしてその行為がネット上に漂い続け、社会的制裁を受けることになるのは、今や周知の事実である。なぜ、このような炎上はなくならないのだろうか。

2―従来の炎上の構造

今でこそほとんどの者が何かしらのSNSを利用している現代社会だが、バイトテロなる従業員による迷惑行為の動画が投稿され始めた2012年は、Twitterの全年代での利用率はわずか15.7%であった。そのため、2012年当時はSNSにおける諸問題が今よりは表層化してはおらず、自分のちっぽけな独り言が拡散され社会問題につながるというような意識もなく、後先を考えずに軽率な迷惑行為の投稿がされていたように思われる。だからこそ、それがたまたま大衆の目に留まってしまい、「炎上」という本人も思ってもいない結果が生まれてしまっていたのである。

SNS普及以前では、2ちゃんねるのような匿名掲示板において、ユーザーが特定の迷惑行為を題材にスレッドを立て、その場で迷惑行為を行った人の個人情報を特定するなど、今でいう炎上のような行為が散見された。また実社会においては、地域社会の目が迷惑行為を表ざたにし、且つその目が抑止力になっていた。しかし、昨今ではSNSの利用者の増加に伴い、かつては匿名掲示板で行われていたような特定行為や、その迷惑行為をわざと拡散し、世間に注目させるために迷惑行為を表ざたにさせようとする者もいる。これは、正義感や迷惑行為を告発(リーク)することで得られる承認欲求がモチベーションとなっているが、一方でSNSが今やマスメディアのように報道の機能として定着しており、迷惑行為が投稿への抑止力にも繋がっているのである。このようなリスクや抑止力があるにもかかわらず、なぜ迷惑投稿による炎上は繰り返されるのだろうか。

3―「悪ノリ」と「親密圏」

筆者はコミュニティにおける親密圏の存在が昨今の迷惑行為動画の投稿に繋がっていると考える。学生時代を思い出してほしい。休み時間に教室内で悪ふざけをしていたクラスメイトが、何人かいただろう。そこで行われたバカ騒ぎ、悪ふざけ、少々度を超えたいたずらは、他のクラスメイトが先生や大人に報告しない限り、公(問題)になるコトはなかった。構造としてはこれに近い。特に若者においては、現実社会におけるコミュニティは、SNS上でも繋がっている事が一般的であり、誰か知らない人と繋がるという側面のみならず、日常の延長、社会の地続きとして用いられることが普通である。また、同じSNSでもアカウントを複数擁し、同じ学校の仲間でも、より仲がいい仲間と繋がるための専用のアカウントを使用するなど、コミュニケーション方法や投稿する内容を使い分けている。信頼や依存度が高く仲のいいグループほど、親密圏は狭くなり、その仲間内でしか盛り上がることができないようなトピックや本レポートで言う迷惑行為を含む悪ノリなども投稿されがちだ。これは、現実社会における内輪ネタ・内輪ノリの延長なのである。学校の休み時間に悪ふざけをしているノリが、下校後もSNS上で続いており、悪ノリや悪ふざけで行われる行為のレベルが非常識なモノや迷惑行為になっていくのである。そのため、不特定多数のために動画を投稿(撮影)しているのではなく、特定の見せたい誰かがいるケースの方が多いのではないだろうか。また自身が、そのような非常識なことを内輪ネタにしているコミュニティに身を置いた場合は、誰もその非常識な行為を指摘することはないし、自身が選んだ仲間たちだけという親密圏の範囲を自ら決定できるからこそ、自分の仲間がチクるわけない、という信頼感がそのような動画として軽率に投稿される背景にあるのだろう。自分に限って炎上はしない、炎上は他人事であると考えている可能性も十分にあるのだ。

4―なぜコミュニティの外に内輪ネタが漏れていくのか

では、なぜ日常における内輪ネタの延長を気の置けない仲間にだけ共有しているのに、親密圏外(世間)に迷惑行為の投稿がリークされてしてしまうのだろうか。これは筆者の推測ではあるが、考えられる理由として、二つあげられる。

一つ目は、内輪ネタを他のコミュニティに顕示したいと思うメンバーがコミュニティの中にいる可能性だ。自分の友達にはこんなに面白いやつがいるんだぞ、とコミュニティ外の人に見せたいという欲求によって、投稿者の親密圏外の人にまでシェアされる事がある。その場合、その内輪ノリを不快に思った親密圏外の他人は、その人(投稿者)を擁護する必要がないため世間へ拡散し、その結果、その内輪ネタが問題視され炎上に繋がるのである。

二つ目は、コミュニティの中に、内輪ノリに対して不快感や疑問を抱き、その行為を問題視するために敢えてコミュニティの外に情報を拡散させようとする場合だ。笑いやエンターテインメント性を追求すればするほど内輪ノリはエスカレートする傾向があるが、エスカレートしていく過程で一線を越えて疑問や不快に思うこともあるだろう。また、そもそも公開範囲を間違えて親密圏の仲間以外が見ることができる状態にしてしまうと、そのネタは内輪ネタとして扱われず、自動的に問題行為として拡散されていくことになる。特に、親密圏外の仲間が学校内や顔見知りならば、投稿を消したり根回しすることで対応できるかもしれないが、そもそもSNSは顔見知りよりも社会的な人となりを知らない人と繋がるケースの方が多いわけで、そのような投稿が顔見知り以外の人にリーチしてしまえば、その投稿は正義感や迷惑行為を告発することで得られる承認欲求を満たす対象へと変化してしまうのである。

昨今のように、なんでも動画で残したり、配信をしてしまう消費文化が定着しているからこそ、その場で完結させる予定だった悪ノリが勝手に友達に撮影され、それが投稿されたりシェアされてしまうケースもある。また、本人が当初迷惑行為をする気がなくとも、撮影する側が囃し立てれば囃し立てるほど動画内の悪ノリはエスカレートし、周りの雰囲気が迷惑行為を助長させることにもつながるのである。
[図表]SNS普及による動画炎上の構造

5―まとめ

さて、ここまで論じてきた通り、筆者は昨今の迷惑行為の動画による炎上は、非常識な悪ノリや内輪ネタからエンターテインメント性を見出している場合、親密圏のコミュニティが現実社会のみならずSNS上でも地続きであるが故に、そのノリがSNS上でも行われてしまう事が大きな要因であると考える。

また、炎上した迷惑行為は氷山の一角であり、投稿されなかったり、撮影されていない迷惑行為も多々あり、普段からそのようなノリで楽しんでいるからこそ、何かの拍子でそれ等が外にリークして炎上につながっているのだと考える。このような炎上により有名になるコトや悪いことをすることがかっこいいという価値観を擁している者もおり、自分ならばもっと面白い(迷惑)行為ができると投稿し、立て続けに模倣犯が現れるのもお決まりとなっている。

確かに2012~2013年のバイトテロという言葉が生まれたころに比べて、SNSやインターネットリテラシーはより重要なモノであると認識されているし、SNSネイティブの若者も多く存在し、SNSに慣れ親しむ世代であるのは間違いない。しかし、利用歴が長い事やネイティブであるという事だけではリテラシーは身につかない。筆者が初めてインターネットに触れた頃は個人情報はもちろんのこと、ネット上に顔を晒してはいけないと言われたものだが、SNSの普及に伴いむしろ顔を出すこと自体が普通となり、自身が映った写真や動画がネットに漂い続けるリスクに対する認識も大きく変化している。友達と残す思い出も、その思い出が迷惑行為ならば、残した思い出自体が自身が迷惑行為をしたということの証拠そのものになるわけであり、そのような認識を含めてネットリテラシーについて他人事ではないという意識を持つことが大事だろう。また、自分が仲がいいと意識して引いた境界線でSNSを使用していても、インターネットは常にオープンな場所であるという認識を持つことも大事だろう。

なお、このレポートを読んで迷惑行為はばれないように行えば問題にはならない、というように誤って解釈した者がいても困るので、本レポートの目的は「なぜ迷惑行為が表ざたになるのか」その構造を考察しているにすぎない、という事を念のため付け加えたい。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2023年04月07日「基礎研マンスリー」)

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