2023年03月29日

世帯構造の正しい理解に向けて-世帯類型別構成比からみる世帯財市場の構造-

生活研究部 井上 智紀

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1――はじめに

総務省統計局「国勢調査」より全国の約5,570万世帯について世帯類型別にみると、「単独世帯」が38.0%で最も多く、「夫婦と子世帯」(25.0%)、「夫婦のみ世帯」(20.0%)の順で続いている〔図表1〕。世帯人員の少ない「単独世帯」、「夫婦のみ世帯」、「ひとり親と子世帯」を合わせると67.0%と3分の2を占めており、かつて標準世帯といわれた「夫婦と子世帯」は4分の1に過ぎず、「3世代世帯」は5%を下回っている。これを世帯主年齢別に分解してみると、30歳未満では「単独世帯」が78.1%と突出して高くなっているほか、80歳以上も40.9%と高い。一方、30~40歳代では「夫婦と子世帯」が4割を超えて高く、50歳代でも3割台となっているほか、60~70歳代では「夫婦のみ世帯」が3割前後と高くなっている。
図表1 世帯類型別の構成比〔世帯主年齢階層別〕
このように世帯主年齢別に世帯類型の構成比を概観すると、生活者のたどる主要なライフコースは、親元を離れて一人暮らしをしていた者が30歳前後で結婚して夫婦となり、30~50歳代にかけて子どもをもうけて育て上げ、60~70歳代でまた夫婦のみの老後生活を送ったのち、80歳以上で配偶者と死別するなどして一人暮らしに、といったものが想像されよう。こうしたライフコースを念頭においた社会の姿からすれば、「単独世帯」とは若年の未婚者か、高齢の単身者であり、また、「夫婦と子世帯」といえば30~40歳代を中心とした、未就学または在学中の子どもがいる世帯、といった想定になるのではないだろうか。しかし、人口が減少し、少子高齢化が進む我が国において、こうしたステレオタイプな世帯像はどの程度あてはまっているのだろうか。

2――世帯主年齢を加味した構成比と都道府県間の差異

2――世帯主年齢を加味した構成比と都道府県間の差異

先にみた世帯類型別の世帯数の分布のうち、「夫婦のみ世帯」、「夫婦と子世帯」、「単独世帯」のそれぞれをさらに世帯主年齢別に3区分し、総世帯数に占める割合としてみると、「単独世帯(60代以上)」が14.1%で最も多く、僅差で「夫婦のみ(60代以上)」(14.0%)が続く〔図表2〕。以降は「夫婦と子(40~50代)」(12.6%)、「単独世帯(30代以下)」(10.9%)、「単独世帯(40~50代)」(8.7%)、「夫婦と子(60代以上)」(7.0%)の順で続いている。
図表2 世帯主年齢を加味した世帯類型別の構成比
これを都道府県別にみると、東京都で「単独世帯(30代以下)」「単独世帯(40~50代)」が高く、奈良県、和歌山県、山口県、長崎県、大分県、宮崎県、鹿児島県で「夫婦のみ世帯(60代以上)」が、北海道、和歌山県、山口県、愛媛県、高知県、長崎県、宮崎県、鹿児島県で「単独世帯(60代以上)」が、それぞれ高くなっている〔図表3〕。同じ世帯類型のなかでの世帯主年齢の差に着目してみると、多くの自治体において夫婦のみ世帯や単独世帯では60代以上の占める割合が高く、30代以下の2倍を超える自治体もみられている。また、夫婦と子世帯ではすべての自治体で40~50代が最も多くなっているものの、沖縄県以外では60代以上が次いで多くなっている。一方で30代以下については夫婦のみ世帯はすべての自治体で3%に満たず、夫婦と子世帯は10都道府県で5%にも満たない。このように、多くの自治体では「夫婦と子世帯」といえば“若年の夫婦と乳幼児など年少の子ども”世帯よりも“高齢の両親と同居する成人の子”世帯の存在感が大きく、“若年の夫婦”世帯や“若年の夫婦と乳幼児など年少の子ども”世帯は希少な存在となっているといえよう。
図表3 世帯主年齢を加味した世帯類型別構成比〔都道府県別〕
以上みてきたとおり、若年人口の減少や晩婚化の影響もあって、今や夫婦のみ世帯や夫婦と子世帯の中でも30代以下の若年層はごく僅かであり、単独世帯や夫婦のみ世帯では高齢層が中心的存在となっている。また、未成年の子をもつ夫婦と子世帯においても人口構成を鑑みれば世帯主年齢は40代後半が中心となっていよう。

日常的なビジネスの現場においてマーケットの規模感を意識する場面はそう多くはないとしても、冒頭に示したようなステレオタイプなイメージに囚われていては、意思決定を誤るリスクもあろう。市場の実態を見誤っている点がないか、年度が切り替わるタイミングなど、定期的に確認する機会をもつことも肝要ではないだろうか。
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