コラム
2023年03月24日

大阪・関西万博について知っておきたいこと

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆

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5――収支はどうか

万博は非営利とされるものの、当然に収支は黒字である方が良い。2000年以降の登録博で、赤字と判明しているのは2000年のドイツ(ハノーバー)万博のみである(図表4)。来場者が想定を大幅に下回ったことがその原因とされる。2021年のUAE(ドバイ)万博は、新型コロナウイルス感染症の影響で、開催を1年遅らせたこともあってか、収支についてはまだ公表されていない。なお、2025年開催に向け立候補していたフランス(パリ)は、2018年2月に立候補を取り下げた。理由は「納税者の財政上のリスクを排除できないため」としている。大阪・関西万博では昨今の物価上昇を背景に資材価格その他は当初見積もり時より上振れ、費用は更に膨らむことが想定される。発信する内容を魅力溢れるものとし、来場者を多く吸引する等で収入を確保することが求められる。
(図表4)2000年以降の万博の収支(登録博)

6――過去に露見した不祥事

近時、国際的な巨大イベントの誘致やスポンサー選定等に絡む汚職等の不祥事が取り沙汰される。もはや驚きをもって受け止めるという反応は少なくなってしまったのではないだろうか。

過去の万博に関して、日本と同じG7構成国で開催された2015年イタリア(ミラノ)万博で判明したことは参考になろう。各種報道によれば、開幕前に政治家や企業経営者、万博の調達責任者らが汚職や談合の容疑で逮捕された。また、これを受けインフラ担当大臣が辞任に追い込まれた。更には、開幕後、マフィア傘下企業がパビリオンや下水道を含む会場建設に関与していたことが判明し、マネーロンダリングや脱税等でも逮捕者が出た。

万博開幕は2015年5月であったが、開幕しても工事が完了していなかった。開幕時には万博反対派等による暴動も発生した。
 
報道によると、昨年来発覚した東京オリンピック・パラリンピックにおける一連の不祥事を受けて、万博協会はコンプライアンス規程を整備した。また、同協会はこれに関係する事業者の入札参加資格の1年間停止措置を行っている。

大阪・関西万博に関しては最初から最後までクリーンなものであった、と終了後に胸を張って言えることを期待したい。その観点からも、国民が早い段階から万博に関心を持つことは、重要であると考える。

7――不可抗力による中止・延期など

2020年ドバイ万博17においては、新型コロナウイルス感染症への対応で、開催は1年間延期された。

国際博覧会条約第5条では、「国際博覧会の開会日並びに全般的な特徴については、登録または認定の時に確定するものとし、国際事務局の同意がある場合を除くほか、変更することができない。」と規定されている。

大阪・関西万博の一般規則第37条によると、登録博を中止した場合は、開催者は、参加を受諾した国に対して、本博覧会参加により直接生じた妥当性のある費用を補償せねばならない。また、開催者は入場料収入の一定比率に相当する損失として、BIE運営・予算委員会の提案を受けてBIE総会が定める金額をBIEに補償する。ただし、総会が自然災害とみなすような事態に起因する「不可抗力」18によるものとBIE総会で認められれば、補償は支払われないと定められている。

ドバイ万博の場合は、UAE政府がBIEに日程変更を要請し、BIE執行委員会にて検討の上、BIE総会にて加盟国の3分の2が、UAE政府の延期要請に賛成票を投じたことで承認された。

大阪・関西万博においても、新たな感染症の蔓延や巨大地震等の問題が発生する懸念を完全に払拭することは難しい。いかなるイベントも延期や中止の可能性はあり、その場合の取り決めを、関係当事者間の契約書で規定しておくことは極めて重要である。
 
17 前述のとおり、当初の開催期間は2020年10月20日~2021年4月10日を予定していたが、実際は2021年10月1日~2022年3月31日となった。
18 フォースマジュール(Force Majeure(仏))とも。一般的に、外来の、偶発的な、当事者の努力では回避不可能な事象で、契約の履行を不可能にするものを指す。自然災害(地震、津波、落雷、火災、洪水、暴風他)や、疾病、ストライキ、戦争、テロ、内乱、暴動、法律変更、強制収用、国有化、外貨兌換停止、海外送金規制等が挙げられる。何が不可抗力に該当するかは個々契約により定義され、不可抗力により当事者の義務が猶予されたり一部または全部免責等となるような建付が考えられるが、国際博覧会条約では不可抗力について何を指すかは明記されていない。BIE総会が認めた場合に開催期間の変更等ができるよう規定されている。大阪・関西万博の一般規則においては、「BIE総会が自然災害と見做すような事態に起因する『不可抗力』」が対象とされている。例えば、万博の開幕前後に日本周辺で戦争等が起き、それに起因して万博が中止または延期となった場合の取扱についてどうなるか、本稿執筆時には判明しなかった。

8――おわりに

2年後の4月には、大阪・関西万博が始まる。無事に開催を迎え、参加者、訪問客も多く確保し、プロジェクトの収支も計画以上の結果となることを望む。また、それだけでなく、大阪や関西地域の持つ底力や未来への可能性を世界に知らしめ、もって日本の経済力や魅力が更に高まること、大会後のレガシーが未来に良い影響を与え続けられることが期待される。

今後報道等を通じて万博情報に触れることが多くなると考えられる。そのために万博の背景についての一般的な情報の提供のために本稿を執筆した。少しでも読者の皆様の万博への関心の高まりの一助となると幸いである。
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総合政策研究部   主任研究員

小原 一隆 (こばら かずたか)

研究・専門分野
経済政策・人的資本

経歴
  • 【職歴】
     1996年 日本生命保険相互会社入社
          主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
         (海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
     2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・公益社団法人日本証券アナリスト協会

(2023年03月24日「研究員の眼」)

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