2023年03月17日

ECB政策理事会-金融市場の緊張の中でも0.50%ポイント利上げ

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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(質疑応答(趣旨))
  • 将来の金利経路についてどのように見ているか。数日前まではさらなる利上げがあるように思えたが、声明文ではガイダンスが示されなかった。これは政策金利がピークに達した可能性を意味するのか
    • 反応関数の仕組みについては声明文の1段落目にある
    • (1)最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、(2)基調インフレ率の動向、(3)金融政策の伝達の強さ、であり、新しく、明確に特定されている。
    • 不確実性が減少し、ベースライン見通しに沿うようであれば、カバーすべき領域はより多いが、ベースライン見通しのカットオフ日は海外見通しと技術的な前提は2月15日、ユーロ圏の予想については3月1日である
    • 予測には最新動向が含まれておらず、最近の金融市場で見られる緊張の影響も含まれていない
    • 不確実性が高まったため、データ依存の原則を強化し、将来に対する反応関数とともに示した
 
  • 銀行部門に関して、多くの人がクレディスイスとシリコンバレー銀行で発生したことと金融危機時にベアスターンズに見た失敗を比較している。08年のような危機の淵にいるというリスクを見たか
    • 我々は枠組みを改革し、バーゼルⅢに同意し、自己資本比率を引き上げ、カバレッジ比率を引き上げており、銀行部門は08年よりもはるかに強い状況にあると考えている
    • さらに、必要な場合には手段も持っている
 
  • ベースラインが優勢ならば、よりカバーすべき領域があるとの発言をさらに解説して欲しい。会合前にはレーン氏を含むほぼすべてのメンバーが3月以降のさらなる利上げが必要になるだろうと言っていたが、このコミットメントは後退したのか、インフレ対応へのスタミナが切れたのか、インフレに降参したのか
    • インフレ対応という我々のコミットメントは衰えておらず、中期的に2%目標に戻すという決意がある
    • 決意は損なわれておらず、カバーすべき猟奇への経路、歩む道とベースは完全にデータに依存する
 
  • 今回の会合で他の選択肢は議論されたか、政策立案者たちが支持した代替案は何か
    • 理事会の提案は声明文に記載されたもので、他の選択肢は提案されなかった
    • 非常に大多数の人々により採択され、決定を支持しなかったのは3・4人で、彼らは原則に反対したのではなく、さらに今後の展開を見極め、データを集める時間を欲していたと思われる
 
  • データ依存の決定について、物価安定と金融安定という目標間の衝突はないのか。金融安定のためにどの程度の利上げペース減速を考えているか、金融安定のために減速すべきではないか
    • 物価安定と金融安定はトレードオフの関係にはないと考えている
    • 今回の決定はそれを実証していると思う
    • 我々は物価安定のために0.50%ポイントの利上げを実施し、それとは別に市場の緊張も注視している
    • (デギンドス氏)資本は金融危機時よりはるかに高く、流動性も強固である。金利の上昇は欧州銀行の利鞘という観点からは好ましく、債券ポートフォリオの潜在的な損失を相殺する以上の収益性の改善がある
    • (デギンドス氏)クレディスイスへのエクスポージャーはかなり限定的であり、集中しておらず、エクスポージャーの大部分を有する単一の取引先もない
 
  • 米国で見られた金融機関の問題、昨年の英国の年金基金については驚きだったか。それとも金融政策の専門家が予測していたものだったのか
    • (明確な回答なし)
 
  • 金融安定と物価安定のトレードオフについて掘り下げて欲しい。インフレ見通しの状況からはさらなる利上げが必要だが、金融危機や金融システムへの負荷を悪化させるリスクが予想されるのではないか
    • 我々は物価安定と金融安定にトレードオフを見ておらず、それぞれ別の手段で対処する
    • 政策金利は物価安定に、その他の利用可能な手段、必要があれば追加手段を金融安定に用いる
    • 金融データは我々のインフレ評価に利用される
 
  • 意思決定において、あなたは基調的なインフレ率が鍵となる要因の一つだと述べたが、この大部分の基調的なインフレ指標の緩和が見られないということは、利上げが止められないということを意味するのか
    • データ依存のなかで、基調的​なインフレ要素の上昇を観察する限りはインフレとの闘いを止めることはできない
    • 2%目標の方向に向かっているという確証を得る必要がある
    • ある領域ではわずかな改善が見られるものの、正直に言えば、多くない
 
  • 反応関数のひとつである金融政策の伝達について、あなたは金融政策の伝達を維持するために、理事会は手段を調整・適用する用意があると述べた。銀行の緊張が金融政策の伝達を妨害し始めた時に、TPIを使うことはできるのか、また資産購入策による保有残高の削減、QTのペースを調整することも手段になるのか
    • TPIは経済のファンダメンタルズや一般的なマクロ経済政策とは関係のない要因によって引き起こされる出来事に対して設計されているが、金融市場の緊張がこれに当てはまるか、我々は決定していない。ただしその可能性はある
    • 我々はこれに関する議論をしていないが、理事会で議論される必要がある
    • APPの部分的な再投資についても我々はなにも決定していない
 
  • あなたが言及した基調的なインフレ率において、利益の影響を重要な要因として置いているか。企業利益のインフレへの影響についての考えを教えて欲しい
    • 我々は基調的なインフレ率の要因について様々な要素について議論しており、その一つとして企業による利益の増加が果たす役割について評価した
    • 我々が期待しているのは、コストプッシュショックは税のように機能しているが、その負担が適切な形で共有されることである
    • 負担の共有がどうであれ、2次的効果(second-round effect)のスパイラルになることは懸念だが、負担共有は社会、企業のレベルで議論が必要なもので、特に2次的効果を軽減させるという側面では歓迎されるものである
 
  • デギンドス氏はいくつかの銀行は脆弱かもしれないと、今週初に閣僚たちに述べた。今日のあなたの声明ではそれはなかった。報告されたことについての詳細や、その認識は。
    • 声明文のユーロ圏の銀行部門は手厚い資本と流動性を有しており強靭である、とあり、これを強く支持する
    • (デギンドス氏)閣僚に話したことは覚えているが、それは先ほど伝えたこととほぼ同じである。銀行は強靭であり、高い自己資本比率、強靭な流動性バッファー、質の高い主要な流動性バッファー、米国機関に対する限定的なエクスポージャーを持ち、総合評価はかなり明確である。つまり欧州の銀行部門は強靭である。
 
  • スタッフの創造性について、必要があればECBはFRBが債券価格を時価ではなく額面で受け入れるような手段を考案できると思うか、それとも法的な制約があるのか
    • 我々が現在有している手段は、FRBがすでに保有していた手段よりもおそらく広範囲で利用しやすく、現時点では代替手段が必要だとは見ていない
    • もし必要になればもちろんその状況に立ち向かい、権限の範囲内で何ができるかも見ている
 
  • スペインでの預金利率の低さについて、銀行はECBからの流動性が十分にあるためだと言っているが、低金利はTLTROの満期が来るまで続くと思うか、それとも銀行とは異なる立場に立っているか
    • 現在、多くの国で預金利率を決定するために預金ファシリティ金利が考慮されていることを観察しているが、顧客と銀行との間で議論が必要な事項である
    • 多くの国で、銀行は実際にそれを実施しており、銀行間の競争がそれを促進していることを見ている
 
  • 最新の経済・金融データについて、経済のデータについては基調的なインフレ率など過去の会合で多くを聞いてきた。金融データについてより詳細が知りたい、あなたが見ているデータな何か、新たに重点が置かれるのか、あるいはすでにあったのか
    • 様々な分析手段を使って注意深く見ている
    • 与信、企業向け与信、家計向け与信、取引条件、制約などを見て金融環境が引き締まっているか、その経済への影響を評価している
 
  • 我々が見ている銀行株の変動の大きさは、今日の決定、必ずしも金利の決定ではなく、先の経路を明確に示さないという決定にどれだけの影響を及ぼしたのか、
    • (明確な回答なし)
    • 現在、すでに存在していた不確実性に加えて、ここ数日観察される金融市場の緊張がそれを増幅している
    • そのため、理事会の26人のメンバーによる決断は、反応関数の第1の要因によって明らかに困難であったが、カバーする必要のある領域を考慮し、我々は0.50%ポイントの利上げは確実な決定だと確信している
 
  • 08年と多くの類似点がある。明らかに銀行の状況は異なるが、近年で最も大きな金融危機が発生する2か月前の08年7月にECBは金利を引き上げている。同じ過ちを犯すリスクはあるか
    • 銀行は08年とは異なる状況にあり、危機と全く同じとは言えない
    • 我々は歴史と過去に実施されてきたことには留意しているものの、今回の決定は強固なものであると信じている
 
  • 金融政策の伝達について、利上げが経済に波及するには長い時間がかかる。不確実性を考えると、少なくとも減速すべき状況ではないか。今後数回の会合で減速する状況にはならないのか
    • 信用部門には金融政策の良好な伝達が見られ始めている
    • 信用コストは上昇しており、銀行の一部でおそらくリスクの評価・再評価をし、引き締めが見られる
    • 1年前の12月に金融政策の正常化を決定したことを考えるとかなり急速に伝達されたように見える
    • 需要の減速が起きているかはまだ分からない
    • データ依存であり、うまくいけば不確実性が解消され、5月や6月、その後の会議においてその時点での見通しと評価を見ていく
 
  • 金融市場の弱さの兆候が見られ始めたことにメッセージがあると思うか、金融危機の記憶を呼び起こすものだが、「何かが壊れるまで利上げする」というフレーズもあるが、将来の利上げを再考する理由は異例であるということだけなのか
    • 銀行部門への信頼を改めて強調したい
    • 我々の決定は強固であり、現在の状況では完全に正当化されるものだと信じている
 
  • 米国の銀行が破綻したが、米国特有の事例だと考えているか。欧州とは何が本質的に異なるのか、欧州の銀行が脆弱ではないということなのか、金利水準が脆弱ではないということなのか
    • 欧州では強力な監督があり、手厚い資本と強固な流動性があり、またエクスポージャーは集中していない
    • SSM(単一監督メカニズム)で実施された作業に基づけば、カリフォルニアで発生した事例と似たような状況にはない
    • (デギンドス氏)シリコンバレー銀行のビジネスモデルは独特であり、資産と負債のミスマッチにより金利の大きな変化に対して脆弱になったと米当局により指摘されている
 
  • ECBのバランスシートについて、削減幅の増加に関して議論したか、その場合はいつ引き上げられる可能性があるのか
    • 今日は多くのことを議論したが、その特定事項については議論しなかった
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年03月17日「経済・金融フラッシュ」)

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