2023年03月10日

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(2)在宅勤務の進展に伴うワークプレイスの見直し
大阪市・公益財団法人大阪産業局「新型コロナウィルス感染症による企業活動への影響に関する調査」によれば、在宅勤務(テレワーク)を「実施中・実施済」との回答割合は、概ね3割から4割の範囲で推移しており、2022年12月調査では34%となった(図表-15)。大阪市においても、「在宅勤務」を取り入れた働き方が一定程度定着している模様である。
図表-15 大阪市 在宅勤務(テレワーク)の実施状況
また、大阪府商工労働部・政策企画部「2022年度大阪府内企業経営実態調査」(2022年11月調査)によれば、大阪府のテレワーク導入率は28%で、産業別では、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業(82%)」や「金融業、保険業(55%)」、「学術研究、専門・技術サービス業(48%)」において高い傾向にある(図表-16)。

こうしたなか、大阪市でもワークプレイスの見直しを検討する企業が増え始めている。ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査」によれば、「ワークプレイス戦略の見直しの着手状況」に関して、「既に着手している」との回答は2021年の10%から2022年の17%へ増加した。着手予定を含めると全体で5割を超える(図表-17)。今後、大阪でもワークプレイスの見直しが更に進むことが予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。
図表-16 大阪府のテレワーク導入率/図表-17 ワークプレイス戦略の見直しの着手状況
(3)大型イベント開催(大阪・関西万博)の経済波及効果への期待
2025 年開催予定の大阪万博による経済効果への期待は大きい。関西生産性本部「第35回KPC定期調査結果」によれば、大阪万博に「非常に関心がある」と「関心がある」との回答は、合計で8割を超えた。また、大阪シティ信用金庫「中小企業における大阪・関西万博に関する意識調査」(2022年7月)によれば、経営にプラスの影響があると回答した企業は66%に達した。万博をビジネス拡大の機会と捉える企業は多い。

また、上記の関西生産性本部の調査において、万博への期待に関して、「国内外の観光客の増加による関西経済の活性化を期待する」(40%)との回答が最も多く、次いで、「未来社会の実験場として、最先端の技術・知見を提供することが重要である」(35%)との回答が多かった。万博では、新技術・サービスの導入が計画されており、その1つとして、会場内と周辺地域を結ぶ交通手段として、「空飛ぶクルマ」の導入が挙げられる。1時間20便程度の運行を目指すとしており、会場である夢洲と、(1)大阪市内、(2)大阪湾岸部、(3)伊丹空港、(4)神戸空港、(5)関西国際空港、(6)神戸市内、(7)淡路島、(8)京都・伊勢志摩等をそれぞれ結ぶ8ルートが、候補となっている6。今年3月には、淀川上空で無人飛行試験が行われた7

アジア太平洋研究所「関西経済白書2022」によれば、万博の経済波及効果は2兆 5,276億円で、このうち、大阪府への波及効果は1兆 8,496億円と試算されている(図表-18)。オフィス需要に対してもプラスの効果が期待できそうだ。

一方、大阪府と大阪市が2022年12月に行ったアンケート調査によれば、大阪・関西万博に「行きたい」または「どちらかといえば行きたい」と答えた人は全体で41.2%(前年比▲10.7%)、大阪府内では46.3%(同▲11.8%)、府外では30.9%(同▲8.7%)となり、前年から低下した8

また、万博の会場整備に関して、2023年2月に行われた約2千席の劇場ホール「大催事場」の建設工事入札では、予定価格内での応札がなく不成立との報道があった。万博協会は資材価格・人件費の高騰などが要因としている9。想定よりも、来場者が大幅に下回る、あるいは会場建設費が大幅に上回る場合、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向を注視したい。
図表-18 大阪・関西万博の経済波及効果
 
6 日本経済新聞「空飛ぶクルマ、大阪万博で8路線・1時間20便 初の実用化」2022/3/17
7 日本経済新聞「空飛ぶクルマ、大阪府で試験」2023/3/3
8 産経新聞「大阪・関西万博の「期待値」なぜ下がる? ミャクミャク様も困惑する衝撃アンケート」2023/2/20
9 産経新聞「万博「大催事場」また入札不成立 建設コスト見直しへ」2023/2/11
3-2. 新規供給見通し
前述の通り、「梅田地区」と「淀屋橋・本町地区」は、オフィス面積全体の約3割をそれぞれが占める。現在、両エリアでは大規模開発計画が進行中であり、オフィス市場における存在感がさらに高まる見通しである。以下では、「梅田地区」と「淀屋橋・本町地区」のオフィス開発計画を概観したい。
(1)「梅田地区」
「梅田地区」では、北区梅田3丁目の「大阪中央郵便局」跡地で、日本郵便、JR西日本、大阪ターミナルビル、JTBおよび日本郵政不動産が地上 39 階建ての複合ビル(延床面積約22.7万m2)を開発中で、2024年3月に開業予定である10(図表-19 ①)。このうち、オフィスは11階から27階の17フロアで、賃貸面積は約6.8万m2、基準階面積は西日本最大級の約4千m2となる予定である。

また、JR西日本は、JR大阪駅の混雑緩和等の観点から、新たな改札口を西側高架下に整備している。同時に、新改札口に隣接した地上 23 階建ての複合ビル「(仮)大阪駅新駅ビル」(延床面積約6万m2、オフィス賃貸面積約2.3万m2)を開発中で、2024年秋に開業予定である11(図表-19 ②)。

さらに、JR大阪駅前では、三菱地所を代表企業とする開発事業者JV9社が、うめきた2期地区開発プロジェクト「グラングリーン大阪」(地区面積約9.1ha)を開発中である(図表-19 ③)。北街区のホテル、商業施設および都市公園の一部が2024年夏に先行開業し、2027年頃までに全面開業する予定である。このうち、オフィスは、南街区で西棟(貸室面積約9.3万m2)と東棟(約2万m2)が2024年11月に竣工予定である12
図表-19 「梅田地区」におけるオフィス開発計画
 
10 日本郵便株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、大阪ターミナルビル株式会社、株式会社JTB、日本郵政不動産株式会社「JR大阪駅直結の大型複合施設「梅田3丁目計画(仮称)」上棟 2024年竣工へ向け、オフィスフロアの概要が決定」(2022年11月15日)
11 西日本旅客鉄道株式会社HP「大阪駅西高架エリア開発」
12 「グラングリーン大阪」HP
(2)「淀屋橋・本町地区」
「淀屋橋・本町地区」では、2023年3月に地上19階建ての「本町ガーデンシティテラス」(延床面積約1.9万m2)が竣工予定である(図表-20 ①)。翌2024年は、NTT都市開発が中央区淡路町4丁目で地上21階建ての複合ビル「アーバンネット御堂筋ビル」(延床面積約4.2万m2、賃貸オフィス面積約2.3万m2)を竣工予定である13(図表-20 ②)。また、ダイビルは中央区南久宝寺町4丁目の「御堂筋ダイビル」を地上21階建てのオフィスビル(延床面積約2.0万m2)に建て替える予定である14(図表-20 ③)。

その後も、複数の大規模開発が計画されている。中央日本土地建物と京阪ホールディングスは、淀屋橋駅東地区の「日土地淀屋橋ビル」と「京阪御堂筋ビル」を共同で、地上31階の複合ビル(延床面積約7.3万m2)に建て替えを行い、2015年7月に竣工予定である15(図表-20 ④)。

また、淀屋橋駅西地区では、大和ハウス工業、住友商事、関電不動産開発が、3社が所有する敷地・建物を共同化し、地上29階のオフィス主体の複合ビル(延床面積約13.2万m2)を開発中で、2025年12月に竣工予定である16(図表-20 ⑤)。
図表-20 「淀屋橋・本町地区」におけるオフィス開発計画
 
13 NTT都市開発株式会社「御堂筋淡路町敷地における新築工事着工および計画建物名称「アーバンネット御堂筋ビル」決定のお知らせ」(2021年7月26日)
14 ダイビル株式会社「「御堂筋ダイビル建替計画」新築工事着工のお知らせ」(2022年2月18日)
15 国土交通省「御堂筋の玄関口に新たなランドマークが誕生~(仮称)淀屋橋駅東地区都市再生事業を国土交通大臣が認定~」(2022年4月28日)
16 淀屋橋駅西地区市街地再開発組合(大和ハウス工業株式会社、住友商事株式会社、関電不動産開発株式会社)「御堂筋・玄関口の新たなランドマークとなるオフィスビルが誕生 「淀屋橋駅西地区第一種市街地再開発事業」着工」(2022年11月1日)
(3) 大阪市の新規供給予定面積
2022年の新規供給量は、「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」等、複数の大規模ビルが竣工したことで、約5万坪の大量供給となった。2023年は一旦落ち着くものの、2024年は「梅田3丁目計画」や「(仮)大阪駅新駅ビル」、「グラングリーン大阪」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は約8万坪に拡大し、過去最大となる見込みである。翌2025年も淀屋橋駅周辺等で大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給量は約3万坪に達する見通しである(図表-21)。
図表-21 大阪のオフィスビル新規供給見通し
3-3. 賃料見通し
前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測17、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2027年までの大阪のオフィス賃料を予測した(図表-22)。

大阪府の就業者数は2年ぶりに増加に転じた。一方、産業別に就業者数の増減をみると、「情報通信業」は大幅に増加しているものの、その他の産業では伸び悩んでいる。また、近畿地方の「企業の経営環境」は一進一退を繰り返しており、「雇用環境」はコロナ禍からの回復ペースが鈍い。「在宅勤務」を取り入れた働き方が定着し、ワークプレイスの見直しも進んでいる。以上を鑑みると、今後のオフィス需要(オフィス利用面積)は力強さを欠く見込みである。

一方、新規供給については梅田駅や淀屋橋駅を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2024年に過去最大の大量供給を控えるなか、今後、大阪の空室率は上昇基調で推移すると予想する。

このため、大阪のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。2022年の賃料を100とした場合、2023年の賃料は「98」、2027年は「88」に下落すると予想する。ただし、2022年対比で▲12%下落するものの、2018 年の賃料水準(83)を上回り、大幅な賃料下落には至らない見込みである。
図表-22 大阪のオフィス賃料見通し
 
17 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2022~2032年度)」(2022.10.12)、などを基に設定。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年03月10日「不動産投資レポート」)

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【「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2023年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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