2023年03月10日

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1. はじめに

大阪のオフィス市場は、昨年、過去10年で2番目に大きい約5万坪の大量供給があったが、空室率の上昇は小幅に留まり、成約賃料は前年と同水準を維持した。本稿では、大阪のオフィス市況を概観した上で、2027年までの賃料予測を行う。

2. 大阪オフィス市場の現況

2. 大阪オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
大阪市のオフィス空室率は、2020 年4 月の緊急事態宣言の発令以降、上昇基調で推移するなか、2022年に入り、その上昇スピードはやや減速した。三幸エステートによると、2023年2月時点の空室率は4.6%(前年比+0.2%)となった(図表-1)。

空室率をビルの規模1別にみると、「大規模4.1%(前年比+0.6%)」、「大型3.9%(同▲0.3%)」、「中型6.2%(同+0.0%)」、「小型6.7%(同▲0.6%)」となった。新規供給を受けて「大規模」が上昇した一方、「大規模」以外は横ばい、もしくは低下した(図表-2)。また、テレワークの普及や働き方の変化等に伴うワークプレイスの見直しが進むなか、まとまった面積の募集では、入居テナントの決定に時間を要する事例が増えている。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 大阪オフィスの規模別空室率
全国主要都市では、オフィス床の解約や事業拠点の一部閉鎖などに伴い、空室面積が増加傾向にあり、成約賃料にも頭打ち感がみられる。2022年下期の大阪市の成約賃料は、前期比+0.7%、前年比+0.6%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(東京都心5区除き)(オフィスレント・インデックス)
2022年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、仙台市・札幌市・福岡市が低下した一方、東京都心5区・大阪市・名古屋市が上昇した。また、成約賃料は、札幌市が上昇、東京都心5区が下落、その他の都市は概ね横ばいとなった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した大阪市の賃料サイクル2は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が長い間続いていたが、2020年下期から「空室率上昇・賃料上昇」局面へ移行し、現在は、次の「空室率上昇・賃料下落」局面に差し掛かりつつある(図表-5)。
図表-4 2022年の主要都市のオフィス市況(前年比)/図表-5 大阪オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. 需給動向
三鬼商事によると、大阪ビジネス地区では、「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」や「日本生命淀屋橋ビル」等、複数の大規模ビルが竣工したことに伴い、2022年末の賃貸可能面積(総供給面積)は、222.2万坪(前年比+4.4万坪)に増加した。

これに対して、賃貸面積(総需要面積)は、211.0万坪(前年比+3.0万坪)となった。この結果、大阪ビジネス地区の空室面積は11.3万坪(前年比+1.4 万坪)となり、前年から+14%増加した(図表-6)。
図表-6 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. エリア別動向
2022年末時点で賃貸可能面積が最も大きいエリアは「梅田地区(34.6%)」で、次いで「淀屋橋・本町地区(30.8%)」、「船場地区(14.6%)」、「新大阪地区(10.2%)」、「心斎橋・難波地区(5.1%)」、「南森町地区(5.0%)」の順となっている(図表-8)。

賃貸可能面積は、「梅田地区」(前年比+2.8万坪)と「新大阪地区」(同+1.3万坪)で増加し、全体で+4.4万坪の増加となった(図表-9)。

これに対して、賃貸面積は前年比+3.0万坪の増加となった。この結果、空室面積は、「梅田地区」(前年比+1.1万坪)と「新大阪地区」(同+0.8万坪)で増加し、全体で+1.4万坪の増加となった。
図表-8 大阪ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2022年)/図表-9 大阪ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2022年)
エリア別の空室率(2022年12月末)をみると、「心斎橋・難波地区3.1%(前年比▲1.1%)」、「淀屋橋・本町地区4.0%(同▲0.4%)」、「船場地区4.7%(同▲0.5%)」が低下した一方、「新大阪地区8.9%(同+3.1%)」、「梅田地区5.5%(同+1.2%)」、「南森町地区4.4%(同+0.7%)」が上昇した(図表-10左図)。

また、エリア別の募集賃料(2022年12月時点)は、「梅田地区(前年比▲0.2%)」を除く全てのエリアで上昇した(図表-10右図)。
図表-10 大阪ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 大阪オフィス市場の見通し

3. 大阪オフィス市場の見通し

3-1. 新規需要の見通し
(1)オフィスワーカーの見通し
2022年の大阪府の就業者数は465.2万人(前年比+5.7万人)となり、2年ぶりに増加に転じた(図表-11・左図)。

大阪都心6区のオフィスワーカー3を産業別にみると、「情報通信業(IT)」の占める割合が16%で最も大きい。次いで「卸売業,小売業(14%)」、プロフェッショナルサービスが含まれる「学術研究,専門・技術サービス業(12%)」、「製造業(9%)」、「金融業(8%)」の順となっている。区別にみると、中央区では「金融業」、北区では「情報通信業」、西区と福島区では「卸売業,小売業」の割合が大きい(図表-12)。

産業別に就業者数の増減推移をみると(2008年=100)、「情報通信業(176.1)」が大幅に増加する一方、「製造業(90.6)」、「金融業,保険業(93.3)」、「卸売業、小売業(103.1)」、「学術研究,専門・技術サービス業(112.5)」の伸び率は全体平均(112.9)を下回っている(図表-11・右図)。
図表-11 大阪府の就業者数
図表-12 オフィスワーカーの産業別内訳
次に、大阪のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「近畿地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認する。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI4」(近畿地方)は、コロナ禍の影響により2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した後、回復と悪化を繰り返し、一進一退の動きとなっている。2022年第4四半期は「+5.3」となった(図表-13)。

一方、「非製造業の従業員数判断BSI5」(近畿地方)は、「+25.5」(2020年第1四半期)から「+2.7」(同第4四半期)へ大幅に低下した後、足もとでは「+18.6」まで回復している(図表-14)。しかし、「全国平均」の動きと比較した場合、近畿地方の回復ペースは鈍い傾向にある。

大阪府の就業者数は2年ぶりに増加に転じた。一方、産業別に就業者数の増減をみると、「情報通信業」は大幅に増加しているものの、その他の産業では頭打ちとなっている。

また、近畿地方の「企業の経営環境」は一進一退を繰り返しており、「雇用環境」はコロナ禍からの回復ペースが鈍い。以上のことを鑑みると、今後のオフィスワーカー数の増加は力強さに欠くことが予想される。
図表-13 企業の景況判断BSI(非製造業)/図表-14 従業員数判断BSI(非製造業)
 
3 従業地による職業別就業者のうち、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者の合計。
4 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
5 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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