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コラム
2023年03月03日
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ビッグマックは世界中で同じ商品であり、同じ価格で買えそうなものである。為替レートの変動が瞬時に価格に反映されることはないにしても、均してみれば他国と価格差が生じないようにも思われる。しかし、グラフが示すように、2013年以降、欧米と日本の価格差が拡大し、2022年には中国よりも安く買える国となった。
「安いニッポン」が生じた直接的な要因は、長期にわたる物価の低迷と為替レートの変化によるものだ。
日本は1990年代後半以降、長らく低い物価上昇に直面してきた。以下の消費者物価指数のグラフが示すように、1990年代後半以降、日本の消費者物価指数は概ね横ばいで推移してきた。これは、平均2%程度で上昇してきた米国やユーロ圏などと大きく異なる。2021年以降、世界は物価上昇に見舞われており、日本でも消費者物価上昇率は40年ぶりに前年同月比で4%を超えた。しかし、他国と比較すると、それでも日本の物価上昇率は大きいとは言えない。米国では、消費者物価上昇率はピークアウトの兆しを見せつつあるとはいえ、依然として1月には前年同月比で6.4%、ユーロ圏でも前年同月比で8.5%を記録している。低物価上昇率が継続したことで、物価は変わらないという強い予想が生まれ、物価の粘着性が高まることとなった。また、ビッグマックについても、日本では、海外と比べて価格を引き上げられていない。
「安いニッポン」が生じた直接的な要因は、長期にわたる物価の低迷と為替レートの変化によるものだ。
日本は1990年代後半以降、長らく低い物価上昇に直面してきた。以下の消費者物価指数のグラフが示すように、1990年代後半以降、日本の消費者物価指数は概ね横ばいで推移してきた。これは、平均2%程度で上昇してきた米国やユーロ圏などと大きく異なる。2021年以降、世界は物価上昇に見舞われており、日本でも消費者物価上昇率は40年ぶりに前年同月比で4%を超えた。しかし、他国と比較すると、それでも日本の物価上昇率は大きいとは言えない。米国では、消費者物価上昇率はピークアウトの兆しを見せつつあるとはいえ、依然として1月には前年同月比で6.4%、ユーロ圏でも前年同月比で8.5%を記録している。低物価上昇率が継続したことで、物価は変わらないという強い予想が生まれ、物価の粘着性が高まることとなった。また、ビッグマックについても、日本では、海外と比べて価格を引き上げられていない。

「安いニッポン」自体はそれほど問題ではないかもしれない。同じ製品を日本で安く作れるなら、海外への輸出を増やすことが可能なはずだ。加えて、仮に、財・サービスを安く生産できるだけの高い技術力があり、働く人が生産性に見合った十分な賃金を受け取っているのであれば、物価が安いことは購買力を増加させ、人々の経済厚生を高めるだろう。物価が安いことには、外国からの旅行者の増加や海外企業の国内誘致を有利にするメリットもありうるだろう。

「安いニッポン」現象は、生産性を引き上げられず、所得を増やすことができなかった日本への警鐘ともいえる。
1 中藤(2021)、Ito(2022)、渡辺(2022)等
2 2023年1月16日に、450円に値上げ
3 購買力平価の計算は、基準時点の設定に影響を受ける。計算方法は、永易ほか(2015)などの国際金融の教科書を参照のこと。なお、一般には、1973年2月を基準として計算されることが多いが、ここでは、1990年代後半以降の日本と他国の物価上昇率の違いに焦点を当てるため、1996年1月を基準とした。
4 ビッグマックの主要原料原産国・最終加工国の情報は以下を参照
https://www.mcdonalds.co.jp/products/1210/
5 Parsley and Wei (2007)
(参考文献)
Ito,Takatoshi (2022). Why is Japan so cheap?. Project Syndicate, 2022.3.3
Parsley, D. C., & Wei, S. J. (2007). A prism into the PPP puzzles: The micro‐foundations of big mac real exchange rates. The Economic Journal, 117(523), 1336-1356.
中藤玲 (2021).『安いニッポン 「価格」が示す停滞』.日本経済新聞出版.
永易淳・江阪太郎・吉田裕司 (2015). 『はじめて学ぶ国際金融論』.有斐閣.
渡辺努 (2022).『 世界インフレの謎』.講談社.
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年03月03日「研究員の眼」)
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