2023年03月01日

日本の重要課題は何?-他の国における自然環境の重要性を学ぶ

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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1――日本は163か国中の19位でもあり、134位でもある

持続可能な社会を実現するために設立された世界的なネットワークである「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(以下SDSN)」は、毎年 「持続可能な開発レポート(SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT:以下、評価レポート)を公表している。評価レポートには各国のSDGsの状況を評価した結果が示されており、その中の一つ、SDGs達成状況を示すSDGs指標(SDGs Index Score)に着目すると、日本は100点満点中79.6点で163か国中の19位である(2022年度時点)。しかし、同じく評価レポートで公表される国際波及指標(International Spillovers Score:以下、波及指標)は67.3点で、163か国中の134位である。
 
波及指標は、その国が他の国に及ぼす影響を評価した結果である。得点が高いほど他の国に良い影響を及ぼす(悪い影響を及ぼさない)ということである。163か国中の134位という結果を素直に解釈すると、日本は他の国に良い影響を及ぼさないで、むしろ悪い影響を及ぼしていると評価されているのである。

他の国に及ぼす影響として、分かりやすい例は大気汚染や水質汚染であろう。風下や川下に位置する国が、風上や川上に位置する国による汚染の影響を受けることは容易に想像がつく。しかし、残念ながら波及指標の算出にあたり大気汚染や水質汚染は勘案されていない。現時点において大気汚染や水質汚染の他国への影響を定量的に捕捉することが困難だからである。波及指標の算出の際に考慮される項目は、定量的に捕捉可能な輸出入に関係する項目が多いので、所得の高い国は総じて波及指標が低い(図表1)。
図表1 SDGs指標及び波及指標(国の所得階級別)
SDGs指標も波及指標も量的に捕捉可能な項目による評価にすぎないので、順位に一喜一憂する必要はない。しかし、どこに課題があるのかを客観的に把握しやすいという点で、これら指標は有益であり、今後解決すべき課題に着目するなら順位の低い波及指標がより有益と考えられる。そこで、当レポートでは、波及指標の評価結果を確認することで、日本の課題に対する理解を深める。

2――波及効果の具体的評価項目と日本の課題

2――波及効果の具体的評価項目と日本の課題

2022年度の波及指標の算出の際に考慮される項目は14項目で、SDGs指標の評価項目120項目の極く一部である。14項目の内、輸出関係が3項目、輸入関係が7項目、合計10項目が輸出入に関係し、それ以外の4項目は資金の流れと関係する。

SDGs指標や波及指標は4段階で評価され、最高が「目標達成」、2番目が「課題が残っている」、3番目が「重要な課題が残っている」、最低が「大部分の課題が残っている」である。
 
輸出関係の3項目は、「有害農薬の輸出量」、「プラスチック廃棄物の輸出量」と「兵器の輸出額」である。日本は、「兵器の輸出額」が4段階評価中最高の評価を得ているが、「有害農薬の輸出量」は3番目、「プラスチック廃棄物の輸出量」は最低の評価を受けている。
 
輸入関係で最高の評価を得ている項目はなく、7項目中3項目が2番目、1項目が3番目、残りの3項目は最低の評価を受けている。輸入関係で最低の評価の3項目は、「輸入品の生産過程で排出された二酸化炭素量」、「輸入品の産出過程に起因する海洋生物の多様性への脅威」と「輸入品の産出過程に起因する陸域及び淡水域の生物の多様性への脅威」である。我々の消費活動のために、他国で二酸化炭素が大量に排出されたり、他国の生態系が脅かされたりしているのである。輸入品に関する課題と言えば、立場の弱い開発途上国の生産者に正当な対価を支払わないことが、生産者の貧困からの脱却を阻害したり、強制労働など人権侵害の温床になるといった社会問題(Social)のイメージが強いが、日本においては、二酸化炭素量や生物多様性といった環境面(Environment)に大きな課題が残っている。
 
資金の流れに関係する項目では、4項目中2項目が最高の評価を得ている一方、残りの2項目で最低の評価を受けている。最低の評価の2項目は、「ODA等の国際的な資金援助」(評価対象は所得の高い国のみ)と「金融の機密性の高さ」である。日本では、多くの人が金融の機密性は高い方が良いと思うかもしれないが、機密性が高いほど、不公正な税回避やマネーロンダリングの温床となりやすいとも考えられるので低い評価を受ける。

3――OECD加盟諸国との比較

3――OECD加盟諸国との比較

波及指標の算出の際に考慮される14項目の内、6項目で日本が最低の評価を受けているが、波及指標は所得の高い国では評価が低い傾向がある。日本が最低の評価を受けている6項目は、所得の高い国が総じて最低の評価を受けているのか、それとも日本の評価だけが突出して低いのだろうか。最低の評価を受けている6項目について、OECD加盟国38ヶ国の評価と、日本の相対的位置づけを確認したので、その結果を図表2に示す。
図表2 評価の低い波及効果項目のOECD加盟国内順位
「輸入品の生産過程で排出される二酸化炭素量」と「ODA等の国際的な資金援助」は、OECD加盟国38ヶ国の大部分が最低の評価を受けており、OECD加盟国38ヶ国の中では日本は上位に位置するが、それ以外の項目は、OECD加盟国38ヶ国の中でも下位に位置する。「プラスチック廃棄物の輸出量」、「輸入品の産出過程に起因する海洋生物の多様性への脅威」、「輸入品の産出過程に起因する陸域及び淡水域の生物の多様性への脅威」並びに「金融の機密性の高さ」で最低の評価を受けているのは、OECD加盟国38ヶ国の半分以下であり、特に、「輸入品の産出過程に起因する海洋生物の多様性への脅威」で最低の評価を受けているのはOECD加盟国38ヶ国の中で日本だけである。
 
なお、波及指標の評価項目以外のSDGs指標の評価項目にも、最低の評価を受けている項目が11項目あり、波及指標の評価項目6項目を加えると全17項目ある。17項目の中でも世界順位が最も低いのは「輸入品の産出過程に起因する海洋生物の多様性への脅威」である。「輸入品の産出過程に起因する海洋生物の多様性への脅威」は、17のSDGsゴールのうち「14海の豊かさを守ろう」に属する。守るべき海の豊かさは日本近海に限らない。世界中の海の豊かさを守るという意識が必要なのである。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年03月01日「基礎研レター」)

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