2023年02月28日

大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並水準で3億円超

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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4――大学卒女性の生涯賃金の推計結果~正社員で2人出産・育休・時短利用で2億円超、男性並みの賃金水準なら3億円超

160歳で退職の場合~正社員で2人出産・育休・時短利用で2億円超、パート再就職で約6千万円
大学卒の女性が60歳で退職した場合について働き方ケース別に生涯賃金を推計した結果を示す(図表10)。女性が大学卒業後に直ちに就職し、同一企業等で休職することなく働き続けた場合(ケースA)の生涯賃金は2億5,570万円となる。なお、参考までに、同様の形で働き続けた男性では2億9,492万円となる(女性より+3,922万円)。
図表10 女性の働き方ケース別生涯賃金(60歳で退職した場合)
一方、2人の子を出産し、それぞれ産前産後休業制度と育児休業制度を合計1年間(2人分で合計2年間)利用し、フルタイムで復職した場合(A-A)の生涯賃金は2億2,985万円、復職時に時間短縮勤務制度を利用し、子が3歳まで時短勤務を利用した場合(A-T1)は2億2,057万円、小学校入学前まで利用した場合(A-T2)は2億1,233万円となる10。つまり、2人の子を出産し、それぞれ産休・育休を1年取得し、復職後には時短勤務を利用したとしても、生涯賃金は2億円を超えることになる。ただし、本稿における推計では、育休から復職後は、すみやかに休業以前の状況に戻ることを想定しているが、実際には仕事と家庭の両立負担は大きく、職場と家庭双方の両立支援環境が充実していなければ、休職前と同様に働くことは難しいだろう。また、人事評価上の問題(休職期間が生じることが実質的には不利になる可能性など)や、周囲や本人の意識の問題(本人の希望によらず負担の少ない仕事を与えられる、あるいは本人の仕事と家庭に対する優先順位の変化など)などもあるだろう。一方で冒頭に示した女性の職業生活に関わる状況の改善傾向をかんがみれば、すみやかな復職を希望する場合は、それを実現しやすい環境が拡大していることを今後とも期待したい。

一方で、第1子出産後に退職し、第2子就学時にフルタイムの非正規雇用者として再就職した場合(A-R-B)の生涯賃金は9,973万円となる(A―Aより△1億3,012万円、△56.6%)。また、昔から日本人女性で多い、出産を機に退職し、子育てが一旦落ち着いてからパートで再就職した場合(第1子出産後に退職し、第2子就学時にパートで再就職:A-R-P)は6,489万円(同△1億6,496万円、△71.8%)となる。なお、実際にはA-R-Pに相当するケースでは、配偶者控除枠を意識した働き方をする女性が多く、103万円の壁(年収103万円を超えると所得税が発生)、150万円の壁(年収150万円までは控除額が最大38万円)、201万円の壁(年収150万円を超えると控除額が段階的に減り、年収201万円でゼロになる)といった表現をされることが多い。一方、本稿のA-R―Pのパートで復職期間の年収は、短時間労働者の労働時間や日数、所定内給与額等の平均値を用いた結果、年収約120万円で推計されているため、103万円の壁を意識した場合の生涯賃金はこれより約400万円減り、最大で6,081万円(A-Aより△1億6,904万円、△73.5%)となる。

なお、出産前後で退職せずに就業継続した場合のA-AやA-T1・T2と、退職してパートで再就職するA-R-Pの生涯賃金を比べると1億5千万円前後の差が生じることになる。この金額差は、女性本人の収入として見ても、世帯収入として見ても、多大であることは言うまでもなく、配偶者の収入や資産の相続状況にもよるが、住居や自家用車の購入、子供の教育費等の高額支出を要する消費行動に影響を与える。当然ながら、個人消費全体にも影響を及ぼす。

また、女性を雇用する企業等から見ると、出産後も就業を継続していれば生涯賃金2億円を稼ぐような人材を確保できていたにも関わらず、両立環境の不整備等から人材を手離す結果となり、新たな採用・育成コストが発生しているとも捉えられる。女性の出産や育児を理由にした離職は、職場環境だけが問題ではないが、両立環境の充実を図ることは、企業にとってもコストを抑える効果はある。

また、女性が大学卒業後に直ちに就職し、正規雇用ではなく、非正規雇用の職に就き、休職することなく働き続けた場合(B)の生涯賃金は1億1,742万円であり、同一企業で働き続ける正規雇用者(A)の半分以下となる(△1億3,828万円、△54.1%)。また、正規雇用者と比べて賃金水準が低いために、産休・育休を2回利用して復帰した場合(B-B)でも生涯賃金は1億1,353万円(Bより△389万円)であり、休職せず働き続けた場合と大きくは変わらない。現在、「同一労働・同一賃金」として同一企業等における正規雇用者と非正規雇用者の間の不合理な待遇差の解消が進められているが、賃金水準の問題だけでなく、非正規雇用者では退職金がない場合も多いため(本稿では非正規雇用者については退職金を設定せずに生涯賃金を推計)、正規雇用者と比べると生涯賃金に大きなひらきが生じている。

なお、参考のため、図表11にケース別に各歳別賃金の推移(退職金を含まない)を示す。ケース別に賃金の経年変化を見ると、どこでマイナスが生じ、どのあたりから追いつくのか、あるいは、差がひらいてしまうのかなどをイメージしやすいだろう。
図表11 女性の働き方ケース別・年齢別賃金(60歳で退職した場合、退職金を含まない)の推移
 
10 なお、本稿と同条件で2015年の大学卒女性の生涯賃金を推計すると、ケースAは2億5,816万円、A-Aは2億3,008万円、でおおむね同様である。
2大企業勤務かつ65歳で退職の場合~男性並みの賃金水準の女性は2人出産後に復職で3億円超
同様に11の働き方について、大企業勤務(企業規模1,000人以上)の場合や65歳で退職した場合、男性労働者と同等の賃金水準にある女性の場合について推計した結果を図表12に示す。その結果、当然ながら60歳で退職した場合より65歳で退職した場合の方が、退職年齢が同じ場合は大企業の方が、女性労働者の賃金水準より男性労働者の賃金水準で推計した方が生涯賃金は多くなる。

最も生涯賃金の推計値が多くなった、大企業勤務で65歳で退職、男性労働者の賃金水準で推計した場合において、正規雇用者で2人の子を出産後に産休・育休を利用し、フルタイムで復職したケース(A-A)の生涯賃金は3億1,457万円となり、先の企業規模を考慮せず60歳で退職、女性労働者の賃金水準で推計した場合の値(A-Aは2億2,985万円)を8,472万円上回る。また、この条件の場合、時短を利用したとしても生涯賃金は約3億円となる。近年、共働き世帯が増える中で夫婦ともに高収入のパワーカップル世帯が少数ながら増加傾向にあるが、パワーカップルの妻はこの水準を超えるものと見られる。
図表12 女性の働き方ケース別生涯賃金

5――おわりに

5――おわりに~安心して働き続けられる環境を整備し、将来世代の経済基盤の強化を

2016年にも同様のレポートを発信し、その際は厚生労働省「平成27年賃金構造基本統計調査」等を用いて大学卒女性の生涯賃金を推計したのだが、令和3年の新たな値を用いて推計した本稿でもおおむね同様の結果が得られた(60歳で退職した場合のA-Aについて、前稿は2億3,008万円、本稿は2億2,985万円、他のケースも同様の傾向)。この間、「女性の活躍」が一層進み、少子高齢化による労働力不足や新型コロナ禍による雇用情勢への影響なども生じたものの、現在のところ、長期間にわたる推計には大きな影響は見られない。
図表13 女性の就業希望のある割合と労働力率 本稿は、単純に大学卒女性の生涯賃金に注目して推計したものであり、当然ながら、「女性の活躍」は生涯賃金の多寡によるものではなく、本人の意思が尊重されるべきものだ。また、活躍の場は職場だけではなく、家庭や社会など多様にある。一方で、就業希望があるにもかかわらず、就業できていない女性が存在することも事実である。もし、女性の就業希望が叶えられれば、М字カーブは一層、解消に近づき(図表13)、希望通りの働き方ができる女性が増えれば、女性の生涯賃金が増えることにもつながる。
図表14 夫婦が理想の数の子どもを持たない理由 また、将来を担う世代が結婚や子を持つことを躊躇する大きな要因には経済不安がある(図表14)。経済面が全てを解決するわけではないが、経済的な理由で家族形成をあきらめる状況は救済されるべきだ。

足元では物価高が進行する中で、政府はエネルギー価格や食料価格の抑制対策や賃上げ支援、低所得世帯への給付といった物価高対策を実施しており、負担感の大きな子育て世帯に向けた給付等を行う自治体もある。生活困窮世帯を中心に即時的な家計支援策の実行が求められる一方で、中長期的には安心して働き続けられる就業環境の整備を進めることは究極の家計支援策と言える。


 

(2023年02月28日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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