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大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並水準で3億円超

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1――はじめに~「女性の活躍推進」が言われ始めて約10年、期待される女性の経済力
その結果、女性の管理職等の比率(図表1)や男女の賃金格差(図表2)、男性の育児休業取得率(図表3)など、女性の職業生活に関わる各種指標において一層の改善が進んでいる。また、30代を中心とした既婚女性の労働力率が上昇することで、当初から課題としてあげられていた「М字カーブ問題(出産や子育てによる離職)」は解消に近づいている(図表4)。
このような中、本稿では大学卒業後の女性3について、雇用形態や育児休業制度・時間短縮勤務制度の利用状況などの違いを考慮しながら、生涯賃金を推計する4。
1 首相官邸「日本再興戦略-JAPAN is BACK(平成25年6月14日)」
2 当初は常用労働者301人以上の企業等が対象で、2022年4月1日以降は101人以上の企業等に対象が拡大。
3 文部科学省「学校基本調査」によると、女性の大学進学率は上昇傾向が続いており、2022年で53.4%、男性は59.7%。
4 久我尚子「大学卒女性の働き方別生涯所得の推計」(ニッセイ基礎研レポート、2016/11/16)にて同様の推計をしているが、本稿では統計の最新値(2021年)を用いるとともに、65歳で退職したケースや大企業勤務(企業規模1,000人以上)のケース、男性と同様の賃金水準を得ているケースなどを加えている。
2――近年の女性の就労状況~「女性の活躍」推進効果で非正規雇用率低下、出産後の就業継続率上昇
まず、生涯賃金推計の前提として、近年の女性の就労状況の変化について見ていきたい。
これまで「М字カーブ問題」で指摘されてきたように、日本では出産や育児を理由に一旦離職し、パートなどの非正規雇用で再就職する女性が多かったために、年齢とともに非正規雇用者の割合が高まり、女性雇用者全体では非正規雇用者が過半数を占める(図表5)。35~44歳までは正規雇用者が非正規雇用者を上回るが、45~54歳では逆転し、非正規雇用者率が半数を超えて上昇していく。
推移を見ると、2013年頃から54歳以下では若いほど非正規雇用者率が低下しており、2012年と比べて2022年では、15~24歳(在学中除く)や25~34歳で約1割低下している(図表6)。逆に、65歳以上では非正規雇用者の割合が約1割上昇しているが、これは正規雇用者数は大きくは変わらない一方で(2012年32万人→2022年41万人)、非正規雇用者数が大幅に増えたためである(同80万人→同199万人)。つまり、「女性の活躍」が掲げられて以降、若い年代を中心に正規雇用で働く女性が増え、高年齢層の就業も活発化している。
前節で見た、М字カーブの凹みが解消傾向にある背景には、結婚や出産前後の妻の就業継続率が上昇していることがある(図表7)。子の出生年が2010~2014年と2015~2019年を比べると、第1子出産前後の妻の就業率は57.7%から69.5%(+11.8%pt)へ、育休を利用して就業継続した割合は43.0%から55.1%(+12.1%pt)へと上昇している。なお、就業継続者の中で育休を利用した割合は74.5%から79.3%(+4.8%pt)へと上昇している。また、就業継続率は第1子出産前後と比べて第2子出産前後(2015~2019年では87.1%で第1子出産前後の就業継続率より+17.6%pt)や第3子出産前後(同89.5%、同+20.0%pt)では大幅に高くなっている。つまり、女性の就業継続の大きな壁は第1子出産前後にある様子が見て取れる。
また、就業状況別には、もともと自営業主・家族従業者・内職では就業継続率が高水準にあるが(出生年が2015~2019年の第1子出産前後の就業継続率は91.3%)、近年、正規の職員(同83.4%)やパート・派遣(同40.3%)などの雇用者の就業継続率が上昇している。なお、正規の職員の就業継続率は上昇し続けてきた一方で、パート・派遣では2000年代初頭まで2割程度で推移してきたが、足元で約4割へと、これまでの2倍程度に上昇している。背景には、近年の「女性の活躍推進」の流れにおける政府等の啓蒙活動によって非正規雇用者も育児休業制度の利用対象であることの認識も広まったことや「改正育児・介護休業法」にて非正規雇用者の育児休業取得要件が緩和されたことなどがあげられる。
3――大学卒女性の生涯賃金の推計方法
生涯賃金の推計方法を以下に示す。
・生涯賃金5=年齢別賃金の合計(※1または2)+退職金(正規雇用者のみ)
※1 正規雇用者及び非正規雇用者の場合
年齢別賃金=きまって支給する現金給与額6×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額
※2 パートタイムの場合
年齢別賃金=(実労働日数×1日当たり所定内実労働時間数×1時間当たり所定内給与額)
×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額
生涯賃金の推計は、厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」における「きまって支給する現金給与額」及び「年間賞与その他特別給与額」から各年齢の賃金を推計し、それらを合算する7。なお、大学卒業後、同一企業でフルタイムの正規雇用者として働き続ける労働者として、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における「標準労働者(学校卒業後直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者)」を用いる。その理由は、他ケースとの比較を想定し、育児休業制度や短時間勤務制度などを利用しやすい環境にあり、正規雇用者比率が高い労働者と考えたためである。ただし、標準労働者の賃金の公表値には「所定内給与額」は存在するが、「きまって支給する現金給与額」が存在しないため、同条件の一般労働者における両者の比率から、標準労働者の「きまって支給する現金給与額」を算出する(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2021」)。
5 退職金は必ずしも賃金に当たらないが(就業規則や労働契約等に、退職金の支給条件が定められている場合は賃金に相当)、本稿では便宜上、賃金に含まれる形で生涯賃金を推計している。
6 労働契約等により予め定められている支給条件により支給された6月分現金給与額(基本給、各種手当等含む)。ここから超過労働給与額を差し引いたものが「所定内給与額」。
7 本稿の推計は、独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2021」における生涯賃金推計を参考に、現在の各年齢の賃金を足し合わせて求めている。長期に渡る就業期間では物価・賃金水準は変化するが、賃金水準を現在のものに合わせるという考えに立つ。この方法とは別に、物価水準等を調整して生涯賃金を得る方法も考えられ、賃金の世代間格差などを把握するために適しているが、今年、新卒で働き始めた者の生涯賃金という見方は難しい。
育休中は、休業前の賃金水準で「育児休業給付金」が支給されるものとする。育休から復職時は休業前の賃金水準に戻るが、復帰初年度のみ「年間賞与その他特別給与額」は半額とする。
・短時間勤務制度利用時の取扱い
短時間勤務時は残業を行わないため、超過労働給与額を含む「きまって支給する現金給与額」ではなく「所定内給与額」を用いて年収を推計する。また、賃金水準は労働時間数比率(6時間/8時間=75%)を乗じた値とする。また、短時間勤務期間の経過年数は、実年数の75%とし(例えば、短時間勤務を8年間利用した場合、フルタイム勤務6年分に相当)、フルタイム復帰時には、その経過年数に相当するケースAの年齢別賃金に接続する。
・55歳以降の取扱い(正規雇用者)
正規雇用者の55歳以降の賃金は、ケースによらず同水準とする(標準労働者では55歳を境に「所定内給与額」が大きく減るが、ケースによる違いには様々な仮定が必要であり、今回は設定しない)。また、60歳~64歳については再雇用として雇用形態が変わる場合が多くあることを想定し、雇用期間の定めのある非正規雇用者の年齢階級別賃金を用いる。
・非正規雇用者の取扱い
非正規雇用者の賃金は、「正社員・正職員以外」の値を用いる。育休から復職時の賃金水準は、標準労働者と同様に休業前と同等とする。なお、ケースA-Bにて標準労働者が非正規雇用者として復職する際の賃金水準は、第1子出産退職時と同年齢の非正規雇用者と同等とする。
・退職金の取扱い
正規雇用者の退職金は、厚生労働省「平成30年就労条件総合調査8」の1人平均退職給付額を用いる。ただし、男女別の数値がないため、男女計のものを、学歴種別では大学卒の数値がないため、大学・大学院卒のものを用いる9。また、出産等による休業のない場合は、勤続年数階級35年以上の値、育休を利用した場合は勤続年数階級30~34年の値(60歳で退職の場合)、第1子出産時に退職した場合は勤続年数階級20~24年の値に勤続年数比率を乗じた値とする。
8 退職給付額の調査は5年毎実施。
9 平成30年調査から学歴種別は大学卒から大学・大学院卒へと変更。よって、実際の大学卒の女性の平均退職給付額より多い可能性がある。
(2023年02月28日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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