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中国経済の見通し-2023年は前年比5.3%増、2024年は同4.6%増と予想

三尾 幸吉郎
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1. 中国経済の概況

この3年の最終消費は乱高下した。実質成長率への寄与度を見ると、第1波が襲来した20年は▲0.2ポイントと落ち込み、それが沈静化した21年には+5.3ポイントと急回復し、22年には再び+1.0ポイントと低い寄与度となった。食品や住居費など生活に欠かせない支出は増勢を保ったものの、必需品以外(衣料品、交通通信、教育文化娯楽など)は20年に落ち込み、21年には急回復、22年には再び落ち込んだ。したがって、23年は前年に落ち込んだ必需品以外の反動増が期待できる。但し、ウィズコロナに舵を切ったことで感染爆発が起きたため、その心の傷が癒えるには時間を要し、コロナ前の水準に戻るのは24年になるだろう。総資本形成(≒投資)に対する影響は限定的だった。実質成長率への寄与度を見ると、20年は+1.8ポイント、21年は+1.1ポイント、22年は+1.5ポイントと低位ながらも安定していた。内訳を見ると、製造業は20年に前年比2.2%減と落ち込み、21年に同13.5%増と急回復するなど乱高下した。しかし、第2波が襲来した22年には同9.1%増とそれほど落ち込まなかった。輸出の好調が背景にある。不動産開発投資は20年に前年比7.0%増、21年は同4.4%増とプラス成長を維持したが、22年には不動産規制強化を背景に前年比10.0%減と大きく落ち込んだ。インフラ投資は20年に前年比0.9%増、21年は同0.4%増と停滞していたが、22年には景気対策で同9.4%増と急回復した。そして投資全体では輸出好調や景気対策を背景に安定的な推移となった。なお、投資主体別に見ると、国有・国有持ち株企業が年平均+6.1%と高水準だった一方、民間企業は同+3.0%と低水準だった。ウィズコロナ政策に舵を切ったことや、党大会を終えて将来が展望しやすくなったため、今後は民間企業が新規投資を増やす可能性が高い。一方、純輸出にはパンデミックが追い風となった。20年は+0.6ポイント、21年は+1.7ポイント、22年は+0.5ポイントと3年連続でプラス寄与した。20年と21年は他国に先駆けて生産体制を正常化できたことが、22年は内需低迷による輸入不振が、それぞれプラスに寄与した。したがって、ウィズコロナ政策に舵を切った23年は、内需が回復局面に入り、外需はピークアウトしそうなので、反動減となる可能性が高い。なお、海外への団体旅行が解禁されて旅行収支が悪化しそうなことも純輸出にはマイナス要因となる。
他方、インフレの状況を見ると(図表-1)、工業生産者出荷価格(PPI)は前年比4.1%上昇した。原油高を背景に採掘品が同16.5%上昇し、原材料も同10.3%上昇と高騰した。但し、加工品は同1.5%上昇とそれほど値上がりせず、消費財も同1.5%上昇と小幅な上昇にとどまった。これを受けて消費者物価(CPI)は同2.0%上昇と、中国政府の抑制目標「3.0%前後」を下回った。輸送用燃料は同20.9%上昇と高騰したものの、その他のモノはあまり値上がりせず、新型コロナの第2波で消費意欲が減退したこともあって、サービス価格が同0.8%上昇と低い上昇率にとどまった。
2. コロナ禍の各産業への影響
コロナ禍の影響が大きかった産業としては、「交通・運輸・倉庫・郵便業」、「卸小売業」、「宿泊飲食業」、「製造業」の4産業が挙げられる。「交通・運輸・倉庫・郵便業」、「卸小売業」、「宿泊飲食業」の3産業はコロナ禍に伴って実施された厳格な行動制限で人流が減少したことを背景に、第1波が襲来した20年には大きく落ち込み、それが沈静化した21年は急回復し、第2波が襲来した22年には再び大きく落ち込むこととなった。「製造業」も工場の操業に支障が生じ、他の3産業と同様に20年に落ち込み、21年に急回復し、22年に再び落ち込んだ。但し、コロナ禍の3年間は前述したように輸出が好調だったことから、他の3産業よりも軽微な影響にとどまった。
コロナ禍の影響が小さかった産業としては、「第1次産業」と「金融業」の2産業が挙げられる。「第1次産業」に対するコロナ禍の影響は限定的で、この3年間は年平均+4.8%と、コロナ前の3年(同+3.5%)を上回る成長率となった。「金融業」に対するコロナ禍の影響も軽微で、コロナ後3年は年平均+5.2%と、コロナ前3年(同+5.4%)と大差ない成長率となった。
コロナ禍とは別の要因で成長の勢いが鈍化した産業としては、「不動産業」、「建築業」、「情報通信・ソフトウェア・IT」の3産業が挙げられる。「不動産業」と「建築業」はともにコロナ禍が襲来する前からGDP全体の成長率を下回る不振な産業だった。そして「不動産業」は20年・21年ともにGDP全体の成長率を下回り、22年には不動産規制強化を背景に前年比5.1%減と大きく落ち込んだ。一方、「建築業」は中国政府が景気対策としてインフラ投資を増やしたため、20年は前年比2.7%増と低位ながらGDP全体の成長率を上回り、不動産業がマイナス成長に落ち込んだ22年も同5.5%増とGDP全体の成長率を上回ることとなった。また「情報通信・ソフトウェア・IT」は、中国政府がIT業界の是正に乗り出したため成長の勢いが鈍化した。但し、勢いが鈍化したとは言え、2022年も前年比9.1%増とGDP全体の成長率を大幅に上回っている。
3. 今後の産業動向
コロナ禍の影響が大きかった産業のうち「交通・運輸・倉庫・郵便業」、「卸小売業」、「宿泊飲食業」は21年に近い急回復になる可能性がある。中国政府は昨年12月、事実上ゼロコロナ政策からウィズコロナ政策に舵を切った。それに伴いコロナ対策も感染予防から重症化防止に重点が移ったため、各地で感染爆発が起きた。当面は春節(1月22日)に伴う「春運」と呼ばれる交通機関の特別態勢(1月7日~2月15日)が終了したばかりであり、農村に帰省していた農民工が職場に戻り、再び感染爆発が起きないとは断言できない。しかし、それを乗り切れば、自由が制限されてきた人々が活発に動き出すのはほぼ間違いない。特に前述したように22年に落ち込んだ必需品以外(衣料品、交通通信、教育文化娯楽など)には反動増が期待できる(図表-3)。したがって、23年のコロナ悪化3業種(交通・運輸・倉庫・郵便業、卸小売業、宿泊飲食業)は21年に近い10%前後の急回復になると見ている(図表-4)。
但し、コロナ禍の影響が大きかった産業でも製造業は23年も急回復とはいかないだろう。輸出の3割を占める欧米経済がピークアウトし、外需が低迷しそうだからである。但し、内需の拡大が下支えするため、コロナ前の成長率をやや下回る3%程度は確保できるだろう。
コロナ禍とは別の要因で成長の勢いが鈍化した産業のうち「不動産業」は底打ちすると見られるものの、低成長にとどまるだろう。昨年11月に中国人民銀行・中国銀行保険監督管理委員会は「金融による不動産市場の安定的で健全な発展のサポートを徹底する通知」(16ヵ条措置)を発表した。それを受けて中国の不動産株は小反発した(図表-5)。但し、不動産株が小反発の域を出ないことが示すように、不動産関連が再び発展を牽引するとの見方は少ない。中国政府は「不動産業の新たな発展モデルへの平穏な移行を後押しする」と表明したものの、「住宅は住むもので投機対象ではない」というスタンスを維持、バブルを再膨張させかねない大幅な利下げを期待することはできないからだ。住宅主要購入層が減り始めていることも、その発展牽引力に期待できない背景にある(図表-6)。したがって、23年は中国政府が不動産規制を緩和したため底打ちするものの低成長にとどまると見ている。「建築業」にも多くは期待できないが、「不動産業」の底打ちは追い風となる。
コロナ禍の影響が小さかった「第1次産業」と「金融業」には大きな変動要素は見られない。中国の「金融業」は発展が遅れており、外資系金融機関の進出を勘案して、コロナ前並みの安定成長(5%台)と予想している。「第1次産業」はコロナ禍でも高めの成長を遂げたが、ウィズコロナとともに都市へ労働力が戻ると見て、コロナ前よりやや低い2.5%前後の成長と予想している。
4. 中国経済の見通し
以上を踏まえて、2023年の経済成長率は実質で前年比5.3%増、2024年は同4.6%増と予想している(図表-9)。
2023年のプラス材料としては、(1)「宿泊飲食業」と「交通・運輸・倉庫・郵便業」では人流の増加で反動増が見込めること、(2)「卸小売業」ではウィズコロナへの移行でリベンジ消費が期待できること、(3)「不動産業」では不動産規制緩和でマイナス成長からの脱却が期待できること、(4)「建設業」では住宅建設の再開やインフラ投資の継続が見込めること、(5)「製造業」では内需の拡大に加えて、党大会後を終えたことで民間企業の投資再開が期待できることが挙げられる。但し、「製造業」にとっては欧米景気の悪化による外需の低迷というマイナス材料もある。なお、「金融業」は引き続き5%台で安定成長、「情報通信・ソフトウェア・IT」は2桁成長こそ困難になったものの8%前後の成長は可能と見ている。なお、四半期毎には(図表-9)、第1四半期(1-3月期)は前年同期水準が高かったため前年同期比3.1%増と低め、第2四半期は前年同期水準が低かった反動もあって同7.3%増と高め、第3四半期は同4.8%増、第4四半期は同6.1%増と予想している。
そして2024年は反動増という特殊要因が無くなることから、巡行速度(=大規模な政策支援なしで無理なく成長できる水準)並みの前年比4.6%増と予想している。なお、中国経済の巡行速度は「共同富裕」「人口問題」「一人当たりGDPの相対位置上昇」「財政金融政策の裁量余地低下」の4つ要因により10年後には2.5%前後まで低下すると想定している。
メインシナリオを崩す下方リスクとしては、(1)ウィズコロナ移行後、コロナ感染が再拡大するリスク、(2)新首相の不慣れで経済が混乱するリスク、(3)欧米景気の想定を超える悪化となるリスクの3点が挙げられる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年02月24日「Weekly エコノミスト・レター」)
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