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2023年01月27日
マスク着用が表情認識に与える影響-マスク着用による影響の度合いは親と子で異なる可能性
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1――はじめに
コロナ禍で多くの人が日常的にマスクをつけるようになった。そして現在、日本では多くの人のマスク着用が常態化していると考えられる。マスクは、感染拡大を抑止する効果が期待できるが、相手の表情が読み取りづらいことで、コミュニケーションを阻害する懸念もある。しかし、マスク着用が人々の表情認識にどのような影響を及ぼすか国内外での研究蓄積は少なく、一致した見解は出ていない。特に影響が大きいと考えられる子どもへの影響の検証を行った研究は、国内でも国外でも研究蓄積が少ない。本稿ではニッセイ基礎研究所が親子(小・中学生)を対象として行った大規模WEB実験によって、マスク着用の感情認識への影響を検証した結果を紹介する。
結果を先取りしてお伝えすると、以下のとおりである。
結果を先取りしてお伝えすると、以下のとおりである。
- マスクの着用は、顔を見た人(親の回答者、子の回答者ともに)に、笑っていると認識させにくくする影響が見られる。
- マスクの着用が顔を見た人に笑っていると認識させにくくする影響は、マスクの下で歯の見えるような大きな笑顔をしている際ではなく、歯の見えない表情(無表情)をしている際に特に大きい傾向が見られる。
- マスクの着用が、マスクの下で歯の見えない表情(無表情)をしている際に、顔を見た人に笑っていると認識させにくくする影響について、親の回答者が顔を見た場合と子の回答者が顔見た場合を比較すると、親の回答者が見た場合に受ける影響の方が大きい傾向が見られた。
- そしてこれは、親の回答者は子の回答者に比べて、もともとマスクを着用していない人を見た場合でも、笑っていると認識しやすい傾向によるものである可能性が示唆された。
- さらに、子の回答者がもともとマスクの着用をしていない、歯の見えない表情(無表情)の大人の写真を見た場合に親の回答者に比べて笑っていると感じにくい傾向は、子の回答者の中でも特に低年齢の子の間で顕著に見られた。
2――調査概要
本分析に用いたデータは、ニッセイ基礎研究所が、全国の24~64歳男女で、小学生から中学生の同居の子のいる方を対象1に、2022年10月に実施したインターネット調査で得られたものである2。調査回答は、有職者男性:無職者男性:有職者女性:無職者女性の割合が、なるべく全国の分布3に近づくよう配信した上で、ご協力いただける方から回収を行った4。回答数はこうして回収された親の回答者とそれぞれの子、各1,000名である。本稿で紹介する分析では、このうちアンケート調査中のWEB実験部分の回答の分析の同意を頂いた937組の親子(親子合わせて1874名)の回答について、分析した結果を紹介する。
1 株式会社クロス・マーケティングのモニター会員
2 本研究は、公益財団法人かんぽ財団令和4年度の助成による成果である。記して深謝する。
3 令和3年国民生活基礎調査の児童有の人の有職者無職者の分布
4 配信時に分布を考慮したが、回収時の割付は行っていない。
1 株式会社クロス・マーケティングのモニター会員
2 本研究は、公益財団法人かんぽ財団令和4年度の助成による成果である。記して深謝する。
3 令和3年国民生活基礎調査の児童有の人の有職者無職者の分布
4 配信時に分布を考慮したが、回収時の割付は行っていない。
3――WEB実験の設計
本アンケート調査にはランダム化比較試験(RCT)を含めた。RCTは、参加者を無作為に、比較対象のグループ(コントロールグループ)と介入を行うグループ(トリートメントグループ)に分けることで、介入の効果を測定する手法である。私たちの実験では、マスクを着用の影響を検証するため、マスクを着用していない状態の人物の写真を見るグループ(コントロールグループ)と、同じ写真にマスクを合成した写真を見るグループ(トリートメントグループ)に無作為に分けることで、マスクを着用することの効果を測定できるように設計した。
私たちのマスクの表情認識への影響を検証するRCTの実験設計は、2つのステップに分かれる。まず、参加者はステップ1として、私たちが用意した16種類の画像の中からランダムに選ばれた1つの画像を1分間観察する。16種類の画像は、40代前後の男性、40代前後の女性、小学生の男の子、小学生の女の子の4名について、それぞれ、歯の見える表情(笑顔)の写真と、歯の見えない表情(無表情)の写真を用意した上で、マスクを着用していない状態の写真と、マスクを着用していない状態の写真にマスクを合成した写真を用意した。画像の詳細及び、それぞれの画像に割り振られた実験参加者の数は、表1の通りである。
画像を見た後に、参加者はステップ2として、「画面に写った人はどのような表情をしていましたか?」という質問に対し、4つの選択肢(笑っている/泣いている/怒っている/無表情)の中から回答を選択する。親が実験に参加した後には、親及び子本人の同意を得た上で、子(小学生から中学生)にも同じ実験に参加頂いた。
私たちのマスクの表情認識への影響を検証するRCTの実験設計は、2つのステップに分かれる。まず、参加者はステップ1として、私たちが用意した16種類の画像の中からランダムに選ばれた1つの画像を1分間観察する。16種類の画像は、40代前後の男性、40代前後の女性、小学生の男の子、小学生の女の子の4名について、それぞれ、歯の見える表情(笑顔)の写真と、歯の見えない表情(無表情)の写真を用意した上で、マスクを着用していない状態の写真と、マスクを着用していない状態の写真にマスクを合成した写真を用意した。画像の詳細及び、それぞれの画像に割り振られた実験参加者の数は、表1の通りである。
画像を見た後に、参加者はステップ2として、「画面に写った人はどのような表情をしていましたか?」という質問に対し、4つの選択肢(笑っている/泣いている/怒っている/無表情)の中から回答を選択する。親が実験に参加した後には、親及び子本人の同意を得た上で、子(小学生から中学生)にも同じ実験に参加頂いた。
4――実験結果
1| マスクの有無と表情認識
まず、歯の見える表情の写真を見た場合とそうでない場合(歯の見える表情を「笑顔」、そうでない場合を「無表情」としている5)及び大人の写真を見た場合と、子どもの写真を見た場合について、親の回答と子の回答を分けずに、全体として、マスクの有無による表情認識の違いを確認したのが、図1である6。
図1からは、全体として、「笑顔」の写真を見た場合でも、「無表情」の写真を見た場合でも、マスクを着用している写真を見た場合には、笑っていると感じる人の割合は小さくなっている傾向が見られる。そしてこその傾向は、今回用意した写真の中では、大人の「無表情」の写真を見た時に強く表れているようだ7。
まず、歯の見える表情の写真を見た場合とそうでない場合(歯の見える表情を「笑顔」、そうでない場合を「無表情」としている5)及び大人の写真を見た場合と、子どもの写真を見た場合について、親の回答と子の回答を分けずに、全体として、マスクの有無による表情認識の違いを確認したのが、図1である6。
図1からは、全体として、「笑顔」の写真を見た場合でも、「無表情」の写真を見た場合でも、マスクを着用している写真を見た場合には、笑っていると感じる人の割合は小さくなっている傾向が見られる。そしてこその傾向は、今回用意した写真の中では、大人の「無表情」の写真を見た時に強く表れているようだ7。
5 本稿では、「笑顔」と「無表情」を、歯の見える表情の写真を見た場合とそうでない場合で定義している。今回使用した写真は、日常の一場面の写真ではなく、カメラに視線があたっている写真であることから、日常における「無表情」より視線が定まっていることでやや明るい印象がある可能性がある。
6 本稿で紹介する分析では、大人の写真、子どもの写真ともに、男性の写真と女性の写真の区別は行っていない。
7 親と子を合わせたデータを用いて、笑っていると感じた場合に1をとり、その他の場合に0をとるダミー変数を被説明変数、マスク有画像ダミー、無表情画像ダミー、大人画像ダミー、マスク有画像ダミー×無表情画像ダミー、マスク有画像ダミー×大人画像ダミー、無表情画像ダミー×大人画像ダミー、マスク有画像ダミー×無表情画像ダミー×大人画像ダミーを説明変数とした線形確率モデルの推定を行うと、マスク有画像ダミーは負で統計的に有意(有意水準5%)、マスク有画像ダミー×大人画像ダミーは有意でない(有意水準10%)、マスク有画像ダミー×無表情画像ダミーは有意でない(有意水準10%)、そして、マスク有マスク有画像ダミー×無表情画像ダミー×大人画像ダミーの係数が負で統計的に有意である(有意水準1%)。このことからも、笑顔の写真を見た場合でも無表情の写真を見た場合でも、マスクは笑っていると感じる人の割合を減少させることと、今回の画像では、大人の無表情の画像を見た場合のマスクの表情認識への影響が、その他の画像を見た時よりも大きいことが確認できる。
2| 親が写真を見た場合と子が写真を見た場合の違い
さらに、親の回答者がそれぞれの写真を見た場合と、子の回答者がそれぞれの写真を見た場合に分けて、マスク着用の影響を確認したのが、図2である。まず、親の回答者と子の回答者の表情認識を比較すると、「笑顔」の写真を見た場合にも、「無表情」の写真を見た場合にも、マスクの有無にかかわらず、親の回答者の方が子の回答者に比べて写真に写った人を笑っていると感じる傾向が見られる。
特に「無表情」でマスクをしていない人の写真を見たときに、親の回答者は子の回答者に比べて、笑っていると感じる傾向が見られる。子どもの写真を見た時よりも大人の写真を見たときにその傾向は強いようだ。一方で、「無表情」でマスクをした写真を見た時には、マスクをしていない写真を見た時ほど、親の回答者と子の回答者の認識の差は大きくない。そのため、親は子に比べて「無表情」の人、特に無表情の大人の写真を見た際に、マスクの影響で笑っていると感じなくなる傾向が強くみられるようだ8。
さらに、親の回答者がそれぞれの写真を見た場合と、子の回答者がそれぞれの写真を見た場合に分けて、マスク着用の影響を確認したのが、図2である。まず、親の回答者と子の回答者の表情認識を比較すると、「笑顔」の写真を見た場合にも、「無表情」の写真を見た場合にも、マスクの有無にかかわらず、親の回答者の方が子の回答者に比べて写真に写った人を笑っていると感じる傾向が見られる。
特に「無表情」でマスクをしていない人の写真を見たときに、親の回答者は子の回答者に比べて、笑っていると感じる傾向が見られる。子どもの写真を見た時よりも大人の写真を見たときにその傾向は強いようだ。一方で、「無表情」でマスクをした写真を見た時には、マスクをしていない写真を見た時ほど、親の回答者と子の回答者の認識の差は大きくない。そのため、親は子に比べて「無表情」の人、特に無表情の大人の写真を見た際に、マスクの影響で笑っていると感じなくなる傾向が強くみられるようだ8。
8 親と子を合わせたデータを用いて、笑っていると感じた場合に1をとり、その他の場合に0をとるダミー変数を被説明変数、マスク有画像ダミー、無表情画像ダミー、親回答ダミー(回答者が親である場合に1をとるダミー)、マスク有画像ダミー×無表情画像ダミー、マスク有画像ダミー×親回答ダミー、無表情画像ダミー×親回答ダミー、マスク有画像ダミー×無表情画像ダミー×親回答ダミーを説明変数とした線形確率モデルの推定を行うと、マスク有画像ダミーの係数は負で統計的に有意(有意水準1%)、親回答ダミーの係数は正で統計的に有意(有意水準5%)、無表情画像ダミー×親回答ダミーの係数は正で統計的に有意(有意水準1%)、マスク有画像ダミー×無表情画像ダミー×親回答ダミーの係数が負で統計的に有意である(有意水準10%)。このことからも、親の方がマスクの有無や「笑顔」「無表情」にかかわらず笑っていると感じる傾向があること、無表情の画像を見た場合のマスクの表情認識への影響が子よりも親の間で大きいことが確認できる。
さらに、大人の画像を見た回答者と子どもの画像を見た回答者を分けて、同様のモデルを推定すると、マスク有画像ダミー×無表情画像ダミー×親回答ダミーの係数どちらも有意水準10%では有意ではないものの、大人の画像を見た回答者の間の方が、係数が小さく、かつ、有意水準15%では有意であったことから、大人の画像を見た場合により影響が強かった傾向が示唆される。
(2023年01月27日「基礎研レポート」)


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