2023年01月12日

コロナ禍における子育てについての親の思い~行事の中止、マスク生活に伴う将来への不安

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――はじめに

新型コロナウイルス感染症の流行が開始してから、感染予防のために、人込みや外出を控えることが増えた。学校の休校が続いたほか、多くの学校行事が中止された。また、普段の学校生活においては、マスク着用や黙食が常態化した。

こういった生活が始まって3年が経過し、子育て中の親にとっては、感染拡大防止や、自分たちの健康のためとは言っても、子どもの成長機会を逃してしまうのではないか、コミュニケーション力が培われないのではないかといった不安があるだろう。

そこで、ニッセイ基礎研究所では、マスク着用による、表情の読み取りや、コミュニケーションへの影響等に着目し、親子を対象とする調査・分析を実施した1

本稿では、その調査の中から、小中学生の子を持つ親が、コロナ禍における子育てについてどのような思いを抱いているか、親による自由記述欄の記述を分析した。
 
1 本研究は、公益財団法人かんぽ財団令和4年度の助成による成果である。記して深謝する。

2――調査の概要と分析方法

2――調査の概要と分析方法

本稿で使ったデータは、ニッセイ基礎研究所が、小学生から中学生の子と同居する全国の24~64歳男女2と、その小学生から中学生の子を対象に、2022年10月に実施したインターネット調査によって得られたものである。有職者男性:無職者男性:有職者女性:無職者女性の割合が、なるべく全国の分布3に近づくよう配信し、1000組の親子から回答を得た。

本調査では、親子それぞれに対してマスク着用に対する考え方等を尋ね、写真にうつる人物の表情を読み取るクイズを実施した。また、親に対しては、新型コロナウイルス対策への考え方や自分自身と子のマスク着用頻度や場面等も尋ねた。さらに、調査票の最後に「コロナ対策/マスク着用/コロナ禍での子育てに対する思い等をご自由にお書きください(1000文字まで)。」といった自由記述欄を設けた。

本稿ではこの記述を、テキストマイニングの手法であるKH Coder4を利用して分析した。
 
2 株式会社クロス・マーケティングのモニター
3 令和3年国民生活基礎調査の児童有の人の有職者無職者の分布
4 「KH Coder3」を使用した(http://khcoder.net/)。辞書(形態素解析)には「MeCab」を使用した。参考文献:樋口耕一(2014)『社会調査のための計量テキスト分析 ―内容分析の継承と発展を目指して―』 ナカニシヤ出版

3――使われている単語とその組み合わせ

3――使われている単語とその組み合わせ

対象者1000人のうち、無回答が481人、「特になし(または、それと同じ趣旨の記述)」と記載したのが93人で、残る426人の記述が得られた。無回答、または「特になし」に、回答者(親)の性別や年齢、子どもの性別や学年、国や学校の感染対策についての考え方による大きな偏りはなかった。
図表1 使った人が多かった単語(名詞) 1|頻出単語(名詞)
まず、自由回答の内容について、明らかな誤字・脱字を修正した上で、使用した人が多かった単語をみたものが図表1である。どういったテーマの記述があったかに注目するために、名詞に限定して示した。

その結果、最も使った人が多かった単語が「マスク」で、171人(40%)が使っていた。次いで「子ども」が116人(27.2%)、「コロナ」が84人(19.7%)、「学校」が58人(13.6%)、「感染」「生活」が55人(12.9%)、と続いた。

2|共起ネットワーク
続いて、使用された単語について、回答者ごとに同時に使用されることが多かった単語を線で結んだ共起ネットワークを図表2に示す。同時に使われた語のグループが同じ色で示され、使われた回数が多い語ほど大きく描かれている。

この図から、自由記述欄の話題は、大きく7個のテーマに分けられることが読み取れる。「行事が中止されたり制限が多くてかわいそう」「ワクチン接種に戸惑いがある」「成長に影響がありそう」等といった「行動制限や学校行事の中止等による経験不足、およびワクチン接種による今後の成長への影響(01)」に関する話題、「マスクの感染予防効果」に関する賛否、「マスクを外すことに抵抗がある」といった「マスク着用の感染予防効果やマスク常用に付随する弊害(02)」に関する話題、「コミュニケーション力が延びない」「表情がわかりづらい」「友達の本当の顔を知らない」「体験の機会が減る」といった「コミュニケーションや機会喪失による影響(03)」に関する話題、「親として」「子どもどうしで外で遊んでほしい」「親と遊ぶ時間が増える」といった「外で友達と遊んでほしいという親の願い(04)」、「不自由な思いをさせていること(05)」、「家族のつながりが強まった」「家族に感染がひろがる」といった「家族の感染不安や、家族関係の変化(06)」に関する話題、「早く以前の生活に戻ってほしいこと(07)」等の話題があった。
図表2 自由記述欄 共起ネットワーク

4――回答者(および子)の属性による特徴

4――回答者(および子)の属性による特徴

特徴的な単語のうち、「行事・イベント(いずれか1つでも含む)」「制限」「表情」「経験・体験(いずれか1つでも含む)」という単語をどういった人が使ったかを確認するために、これら4つの単語の使用頻度を、回答者の性別、育児負担(回答者の負担割合)、子の性別、子の学年、子がマスクをつけること/外すことに対して不快に感じていると思うかどうか、子が通っている学校の感染対策が過剰だと思うか別に比較した(図表3)。

その結果、「行事・イベント」「表情」については、父親より母親の方が使用することが多かった。育児負担別にみると、9~10割負担している人で「行事・イベント」と「表情」、7~8割負担している人で「制限」を使用していることが多かった。また、女児(小4~6)で「行事・イベント」を使用していることが多かった。子どもがマスクをつけることに対して、「不快に感じているように見えない」で「行事・イベント」を使用していることが多かった。子がマスクを外すことに対して不快に感じていると思うか、子どもが通っている学校の感染対策が過剰だと思うかによる差はなかった。
図表3 「行事・イベント」「制限」「表情」「経験・体験」を使用する人の特徴

5――おわりに

5――おわりに

本調査では、マスク着用頻度や場面、マスクについての考え方を尋ねた後で、コロナ禍での子育てに対する思いを記述してもらったため、「マスク」に対する意見が多く見られた。

マスクの感染対策としての有効性に対する賛否とともに、感染予防をすること/子にさせることは重要であるが、親として、経験させてあげたい多くの学校行事やイベントがあると考えられ、自由記述からもマスク生活の重要性とともに弊害や、表情の読み取りやコミュニケーション力への影響、その他自由に遊ばせてあげたいという思いが多く記述されていた。また、マスク常態化についての感じ方は、親の性別や育児負担によって異なる可能性があった。

(2023年01月12日「基礎研レター」)

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